Web2.0時代の社名鉄則

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ポジティブ/ネガティブ(p/n)判定技術の普及

ネット上での評判を判定するポジティブ/ネガティブ(p/n)判定技術を利用したサービスが最近増えてきている。p/n判定技術は、文章を形態素解析した上で、品詞間の係り受けを考慮しつつ、ある対象語に対する属性値とその評価値の組を抽出する技術である。レストランの属性値としては、味、値段、雰囲気、立地、メニューなどがあげられ、評価値としては、いい、悪い、まずい、おいしい、安い、豊富などがあげられる。日本語では往々にして主語が省略される場合が多いが、文脈から最も自然な主語を補う手法が使われる。

blogを対象とした検索サービスYahoo!ブログ検索では評判情報検索においてp/n判定技術を用いたblogにおける評判情報の提示を行っている。検索キーワードについてかかれた記事において、肯定的意見、否定的意見のどちらがが多いかということが円グラフで表示される。

東芝が開発したユビdeコミミハサンダーは、携帯電話のカメラで商品のバーコードをスキャンすると,インターネットから商品のメタデータを取得し,関連するblogを収集し,p/n判定技術によりその商品の口コミ情報をリアルタイムでユーザに提示するサービスである。店で魅力的な商品に出会ったが、その評判をサクッと知りたい場合に、バーコードを読み込めばすぐに評判を知ることができ、購入判断の助けにすることができる。

p/n判定技術が手軽に利用できるようになるとカスタマーの購買行動に大きく影響を与える可能性がある。たとえば、価格.comの商品比較においてp/n判定技術に基づくユーザ評価がついていたらどうだろう。多少価格が高くても評判のいい商品を選ぶのではないだろうか。既存の価格比較サイトでもユーザ投票による評価システムがあるが、投票数が極めて少なく簡単に操作可能だし*1、そもそも評価されている商品の絶対数が少ないという問題がある。

不特定多数のblogを元に評判を判定するというのはうまいやり方だろう。ユビdeコミミハサンダーではp/n判定技術にRSSから得られる各blogの相関関係による重み付けを行い、評価の精度を上げる工夫をしているが、メーカーから執筆料をもらって書くような広告blogの排除など、利害関係のない中立なユーザの生の声をいかにして抽出するかが指標の妥当性向上の大きな課題となるだろう。

ネット上の評判に神経質にならざるを得ない企業

p/n判定技術によりユーザの評判が定量的に示されるようになると、企業としてはblogで公開されるユーザの評判に今まで以上に神経質にならざるを得ないsucks/rocksは検索キーワードに対するp/n判定結果をグラフで表示してくれるサービスだ。このサービスはp/n判定技術普及期における企業にとっての悪夢を見せてくれる。

上図はsucks/rocksを用いてゲームメーカーの評判をグラフにしたものだが、SONYMicrosoftの評判が悪いことが分かる。出る杭はたたかれるのは世の常だが、こうした評価があらゆる自社製品の横に提示されるようになると企業としてはたまったモノではないだろう。活発な情報発信を行うbloggerを敵に回さないように、なるべく味方になってくれるように、地道な企業イメージ向上努力が求められる。たとえば、デジモノに埋もれる日々: Wiiリモコンで液晶が大破した Let's note R4、早速修理へのように有名blogで取り上げられて公開修理のようになってしまうと、企業としても最優先で対応する必要がある。彼への対応の良し悪しが、他の幾万の無名ユーザへの対応には無い大きな影響を及ぼすことが予想されるからだ。

大手TVメーカーを対象として調べてみると興味深い事実が明らかになる。SHARPの評価値が10.0点満点とあり得ない数値になっている。理由は明らかで、形容詞であるsharpは鋭い、賢い、明敏な、ファッショナブルなといったp/n判定技術で利用されるポジティブな評価値と重なるからだ。もちろん今後は社名と評価値を区別するようなアルゴリズムが導入されると思われるが、すべてを排除することは難しいだろう。SHARPはその普通形容詞そのものの社名により、何もしなくても評価値を数ポイント上昇させることが期待できるのだ。SHARPがそこまで考えて社名をつけたのかどうかは定かではないが、今後SHARPにとってこの効果は地味ながらも大きな追い風となるだろう。

となると、Web2.0時代における社名の鉄則が明らかになる。"cool device corporation"とか"sophisticated corporation"とか通常ポジティブに利用される普通形容詞を含んだ社名にすることだ。それだけでp/n判定の評価値を上昇させることが出来る。競合他社との競争において、評価値の上昇効果はカスタマー誘導上大きな影響力を持つようになるだろう。できればSHARPのようによく利用される形容詞一語のほうが望ましいが、Googleで検索しても公式ページに辿り着いてもらえないという弊害が生じるわけで、それは無名のベンチャーにとっては致命的かもしれない。ご利用は計画的に。

*1:SONY価格.comにおいて得点操作などの工作活動を行っていたと言われている。ゲートキーパー問題参照