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Less Than Zero?

2017-09-12 グレン・グールド『ゴールドベルク変奏曲 コンプリート・レコーディ

[]【グレン・グールド『ゴールドベルク変奏曲 コンプリート・レコーディング・セッションズ1955』第一印象&スペックmemo】 21:31

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 グレン・グールド生誕85年を記念した『ゴールドベルク変奏曲 コンプリート・レコーディング・セッションズ1955』。56年のデビュー・アルバム『ゴールドベルク変奏曲』が録音された、55年6月におこなわれた4日間のスタジオ・セッション全テイクを含むCD7枚+アナログ1枚+280ページという物凄いボックスは、ある意味、ものすごくアメリカン・クラシック的なリイシュー。いや、それよかロックンロール的なリイシューなのかな。もともとオリジナル・アルバムからして、バッハをロックンロールさせてクラシックの歴史を塗り替えた作品だったわけだし。まぁ、ロックンロール的なリイシューで然るべきなのかもしれない。録音2日目からは多少曲順を行きつ戻りつしながら弾いていたということで、収録は時系列ではなく作品番号順に並べられているものの(ただし、実質ほぼ時系列でもあるのだけれど)最初のアリアの1音目から最後のアリア・ダ・カーポの1音まで、そしてプロデューサーのハワード・スコットとのスタジオ内の会話もすべて収録されている。

 これを聴いたロックンロールおたくは、かつてフィル・スペクターやビーチ・ボーイズのスタジオ・セッションを会話までまるまる収録したブートレグが世にお目見えした時の胸躍る体験を懐かしく思い出すのではないだろうか。スペクターが偏執狂的に何度も何度も同じフレーズをミュージシャンたちに指示する声は実に生々しくて、ヘッドフォンで聴いていると、自分が当時のゴールドスター・スタジオにいるような錯覚に何度も陥ったものだ。そんな感じ。時に長々とバッハの心境を代弁し、時にちょっと苛立ちながら自らの意図を伝えながら、その演奏によって作品がだんだんと色づいてゆく様子を、我々は今、ドキュメンタリーや書物で断片だけ知っていたスタジオ内でのグールドの振るまいや会話を実際に耳にしながら体験することができるのだ。これまでわずか20分弱が発売されているだけだった未発表音源が、どういう経緯かは知らないがグールド財団の全面協力により今回5時間超すべてまるっと出ることになった。クラシック音楽で他にこういう形でのリイシューがどれだけあるのかはわからないけれど、私のようにマニアでない人間でさえもが何度も何度も同じ曲を弾くうちにどんどん音楽が“カタチ”になってゆく様を目の当たりにしてドキドキし、ワクワクし、時に鳥肌まで立ってしまうコンプリート・スタジオ・セッションを聴いていると、やっぱりグレン・グールドという人が果たした功績というのはとてつもなかったのだと痛感する。

 フラットマンドリンでバッハ無伴奏を完コピをしたクリス・シーリーが最初にバッハにのめりこんだきっかけも、グールドだったという。そういえば萩原さんに言われて気づいたのだけれど、オリジナルのデビュー・アルバムが発売されたのは、偶然にもエルヴィス・プレスリーが「ハートブレイク・ホテル」で全米デビューしたのとまったく同じ56年1月なのだ。アメリカでロックンロールが生まれた時、そこにグールドがいた。その“地続き感”をいやというほど実感することができる今回のボックス。だから、そのリイシュー仕様にしてもまったくもってアメリカ的、ロックンロール的だ。ごくごくふつうにソニー王道なリイシューではあるけれど、アートワークのカッコよさから何から何まで、とってもソニー。とってもアメリカン。

 とりあえず、これだけのミュージアム・クオリティのヒストリカルでレジェンドな箱が1万円切る値段で手に入るというのは、この時代に生きている我々とグールドさんの「縁」。ご興味があって、購入を検討されている方もいらっしゃると思うので、まだ全部は聴けていない(だって、今日届いたんですよ)のですが、とりあえず手元に現物が届いた者のレポートということでわかる範囲のスペックをご紹介しておきます。たいがいのことは公式、通販サイトで見ることができますが、まぁ、紙ジャケが案の定ぼろいとか(笑)そういうことなども気になる方もおられるかと思うので、とりあえず自腹購入者で原稿執筆の義務も予定もない者としての率直な感想を自分メモを兼ねて書いておきます。ご参考になれば幸いです。

  ※あ、でもERISの連載では書くかも。

  当然ながらマニアにとっては非常に価値のある箱(ま、実際、マニアからすればいろいろと贅沢は言いたくなるのでしょうが)であると同時に、初心者にとってもグールドを軸にバッハを深掘りすることで得られるものは多く、これだけ素材がたくさんあって、自由に想像を巡らせながら聴くのはそれだけで本当に楽しいと思います。クリス・シーリーやエドガー・メイヤーやヨーヨー・マが、なぜ、バッハを媒介にクロスオーヴァーしようとするのか、彼らが「バッハにすべてがある」と言うのはなぜか……そういった事柄を解く鍵にもなるかと思います。そして、クラシック専門家には何の意味もないことだとは思うけれど、この録音が1955年に行われていることの奇跡……というのも、ロックンロール・ファンとしてはあらためて味わいたいものです。

【CD】収録時間6時間52分

●Disc1〜5:1955年6月10〜16日の間に行われた4日間のセッション全テイク。

 ※プロデューサー、ハワード・スコットとの会話を含む。

 ※CDレーベルはマスターテープ柄。ちなみにパッケージにもスコッチの赤チェック柄をちらりとあしらってるのがおしゃれ♡

●Disc6:81年のゴールドベルク変奏曲再録盤発売時の販促用インタビュー

w/ティム・ペイジ

 ※初商品化は、56/81年盤をカップリングしたLP3枚組(84年リリース)。

●Disc7:56年デビュー盤のファイナル・エディション最新DSDリマスター

 ※2015年リリースと同マスター使用。アナログと同じく紙ジャケ。

【アナログ】

Disc7と同内容。チェコGZメディアプレスの重量盤。未聴なので音質はノーコメント。

紙ダブルジャケ。細かく言い出すときりがないので言いませんが、やはり、紙と書いて神と呼ばれるw日本の精巧紙ジャケと比べると雑なお作りなのは否めないがUS盤なので仕方なし。まぁ、すぐ糊がぺりぺり剥がれそうなのも含めての復刻と思うの推奨(笑)。

【ブックレット】

 表2&3にCD7枚収録したハードカバー本仕様、280ページ。オールカラー。英語/独語/仏語。

・文章ものはプロデューサー、エンジニア、当時のNYソニースタジオについての解説。56年発売時のプレスリリース、雑誌記事等

を含む再録&書き下ろし評論・解説。などなど。既出もの除いてもかなり読みごたえあり、なので対訳とてもありがたし。

・Disc1〜5のスタジオ内全会話のスクリプト(←これがとても嬉しい!大事!)

・演奏箇所を赤字で示した楽譜(これも素人にはとてもわかりやすくありがたい)

・初出を含むスタジオ写真(マニアでないので初出がどれくらいあるのかわからないけれど、例のかっこいい写真の別テイクどっさり。かなりNGと思われる半目系の写真も)

・アナログマスターの外箱、レーベル・コピー、契約書類などなど、とにかく残っている資料の現物スキャン写真ありったけ全部掲載の模様。

【対訳】

 日本のソニーミュージックレーベルズからの出荷分については、主要記事の対訳および宮澤淳一氏による解説を掲載した日本独自ブックレットつき。ありがとうございます。本当にありがたいです。ちなみに、アマゾンやタワレコでの正規販売輸入盤(日本語での商品解説があるもの)はソニー出荷分です。米アマゾンとかで買うとついてません、あとマーケットプレイスから出品している業者から買ったものについては対訳ナシとか転売ヤーの可能性高いのでご注意ください。

なお、56年発売時のグールド本人によるライナーノーツおよびDisc6収録のティム・ペイジとの対談についてはそれぞれ既発の日本盤CDに収録されているのでCD買ってねとのこと(そうは書いてませんが、そういうことだと思います。確かにこれはライナー欲しさで盤を買った人もいるでしょうから仕方ない)。

【ポスター】

  ピアノ弾いている例の横顔写真バージョンの大型ポスター。ただし6つ折りくらいになってるので役に立ちません……まぁ、ユーエスエーの仕事なので。

【重さ】

  全部で約5キロだそうです。重いわ。日本の住宅事情への考慮なし。

 ※ブックレットがっつり読みたいが、表紙が相当にごっつい上にCD7枚がっつり入ってるわ、本文の紙も厚くて上質だわで、手にとって読むと腕がしびれるし、ヒザに載せるとヒザがしびれます。理想としては、何も置いていない広い机(←社長の机みたいな)に広げて読むのが体力的におすすめです。

【価格】

 私はタワレコオンラインで予約購入。\12193→税込\9298(うちクーポン\700利用)

 

 ちなみに最安はAmazon.jpの\8833ですが、今日現在「1~2か月内に発送」になっちゃっている)。HMVローソンは\14364がメンバー価格\9998、マルチバイ価格だと\9337。

 しかし、この商品に関しては価格というよりも店頭で買ったら家まで持って帰る間にギックリ腰になるリスクのほうが高いので、ネット購入を強くおすすめいたします。

2014-12-09

[]細かすぎて伝わらないグラミー賞ノミネート雑感。 03:07

年末の風物詩、グラミー賞各部門ノミネートが発表された。

 近年のグラミーはあまりにも部門賞が細分化しすぎてややこしくなってしまったので、ちょっと前にすっきりと部門を整理整頓した。が、このすっきり感が、どうも淋しい。これ、たぶん失敗だったと思う。わかりやすく説明すると、老舗のとんかつ屋が事業拡張しようとして、広告代理店にだまされて“おしゃれ豚カフェ”になってしまって、しかも、そこそこ成功している……みたいな感じです。ま、そこに一抹の淋しさを感じるのは年寄りやマニアだけなのかも知れないですがね。確かにビヨンセやテイラーに言わせれば「老舗とんかつでもおしゃれ豚カフェでも、とんかつに変わりはないじゃない!カフェオレに串かつマジ最高!ババアうぜえ!」ということだと思います。わかります。

 違う(*゜∀゜)。つい筆がすべりました。

 そんなことを書きたいんじゃない。

 毎年テレビで放映されるようなショーとしては、すっきりとわかりやすくなったのは確かだが。すっきりしたことで“ざっくり感”も増して、なんとなくMTVやアメリカン・ミュージック・アワードとの差違も薄まって、グラミーならではのオールド・ファンに嬉しい意外性の面は期待できなくなってゆくのかなぁと思う。ただ、それでもやっぱりグラミーはグラミー。たとえばBEST HISTORICAL ALBUMなんかは、今後、オトナのレコ好きにとってはますます目を離してはいけない分野になっていくと思うし。

 だから、2月の授賞式はミーハー的に楽しむことにして、オタク的にはノミネート発表時に長大なリストをじっくり“読み解く”のを楽しむのがオススメです。グラミー賞を絶対的な“権威”として有り難がる気持ちはないけれど、それでもアメリカ音楽界が今どんな風に動いているのかを肌で感じることのできる機会だと思うしね。


 そんなわけで本日は、ノミネート作品の中から個人的趣味として気になったものをざっとまとめて紹介してゆきたいと思います。地味な部門中心に。

 主要部門については、まぁ、他にもいろいろ出てるからいいや(笑)。

 と言いつつ、RECORD OF THE YEARとSONG OF THE YEARテイラー・スウィフトメーガン・トレイナーの一騎打ちになったら最高に盛り上がるなぁ。憧れのセレブ女子vsぽちゃ可愛女子。今、女の子の夢と本音を描かせたら最強のソングライターでもあるふたりは、現在もなお、ビルボードのチャート上でも熱い頂上決戦を繰り広げている。どっちも大好きなので、どっちもがんばってほしい。両極端のようでいて表裏一体、実はふたり合わせて“今どきのアメリカン・ガール”になるというのが面白いね。あと、主要部門ではALBUM OF THE YEARベック先輩“Morning Phase”入っていた。やったね、おめでとうございます。


 さて。いよいよ本題。

 まずは、なんと言っても今年のオレ流MVPノミニーはクリス・シーリー

 エドガー・メイヤーとの大傑作デュオ・アルバム“Bass & Mandrin”BEST CONTEMPORARY INSTRUMENTAL ALBUM部門と、BEST ENGINEERED ALBUM(NON-CLASSICAL)部門にノミネート。そして、今年めでたく復活したニッケル・クリークとしてもアルバム“Dotted Line”BEST AMERICANA ALBUM部門に、その収録曲“Destination”BEST AMERICAN ROOTS PERFORMANCE部門にノミネートされた。

Bass & Mandolin

Bass & Mandolin

A Dotted Line

A Dotted Line

 2作ともに今年の個人的ベスト・アルバムでもあるので、嬉しい。2012年の“天才賞”ことマッカーサー・フェロー受賞から2年、じわじわと確実に米国音楽シーンの未来に向けて頭角をあらわしつつあるシーリー。世の中で今年のグラミーと言えばテイラーだのビヨンセかもしれないが、オレの中ではクリス・シーリーまつり(または“ノンサッチまつり弦楽器編”)である。

 今年はパンチ・ブラザーズ(通称パンチ兄弟)の面々が全員、サイド・プロジェクトでビックリするほどいい仕事をしていた印象がある。CRTでもヨシンバの吉井功さんをゲストに迎えて、このあたりの動きを特集したけど。その時も、やばいやばいパンチやばい、ノンサッチやばい、パンチやばい、ノンサッチやばい(*゜∀゜*)……の嵐。注目のブツが多すぎて時間が足りなくなってしまった。

 そんなパンチ内職シリーズ(違)の中からは、他にもバンジョー担当ノーム・ピクルニー“Noam Pikelny Plays Kenny Baker Plays Bill Monroe”BEST BLUEGRASS ALBUM部門にノミネートされた。これは昨年、2013年に発表されたアルバムです。

PIKELNY, NOAM

PIKELNY, NOAM

 ブルーグラス史上、最も重要なアルバムの一枚である“Kenny Baker Plays Bill Monroe”(1976年)をノーム君が完コピ。しかも、しかも、言うまでもなくケニー・ベイカーはフィドラーなわけですが、彼はそれをバンジョーで弾いているのだ。超絶ヴィルトゥオーゾ揃いのパンチ兄弟らしい遊び心とも言えるけれど。同時期にシーリーはバッハの無伴奏集をバンジョーで弾くアルバムを発表していて、ある意味、この2枚はパンチ兄弟的な発想からすると“対をなす”作品という風にとらえることができるのではないか。と、私は考えている。

 ノーム君のアルバムのプロデューサーはパンチのフィドル担当ゲイブ・ウィッチャーなので、つまり、今年はパンチ兄弟5人中3人で5部門にノミネートされたことになる。すごいぜ!熱いぜ兄弟!来年早々にはパンチ兄弟も久々のニュー・アルバム&ツアーで再始動。彼らご兄弟を含む、シーリーを中心とした新世代アメリカーナ・コネクションがいよいよ揺るぎない存在感をあらわし始めているのを実感する。そういう意味では、グラミー部門の中でも“アメリカーナ”“ルーツ”系あたりの整理整頓は時代に即した対応なのかもしれない。

 もともと私がカントリーを熱心に聴き始めたのは、その中にある“王道らしからぬもの”が目当てだった。その過程でだんだん王道カントリーも好きになっていたのだが、こうやってアメリカーナ、ルーツ系がきっちり分かれてきたり、ブルーグラス系がより多様化してきて、さらにはテイラーも“脱カントリー宣言”となると、今年のカントリー部門はエリック・チャーチ、ハンター・ヘイズ、ミランダ・ランバート、キャリー・アンダーウッド、キース・アーバン、バンド・ペリー、リトル・ビッグ・タウン、ティム・マッグロウ、キース・アーバン……と、これはこれでCMAと何が違うのかっていうくらい(笑)、めちゃくちゃわかりやすい超・王道オンリーの顔ぶれになる。それをよしとするか、しないか。まぁ、あくまで個人の好みですけどね。

 たとえば……NPRを始めとするアメリカーナ支持メディアがこぞって大絶賛のシンガー・ソングライター、スタージル・シンプソンのアルバム“Metamodern Sounds In Country Music”BEST AMERICANA ALBUM部門にノミネートされているが。彼のような音楽は20年前ならカントリー専門局からは「詞がカントリーじゃない」と言われ、ロック専門局からはサウンドだけで「ベタベタなアウトロー・ホンキートンク!」と判断されて、結局メジャーな舞台ではどこにも相手にされない悲劇をたどったかもしれない。まぁ、そういう意味では、受賞部門の再編は善し悪しとはいえ、このあたりの分野の見晴らしが良くなった点は評価したい。

Metamodern Sounds in Country M

Metamodern Sounds in Country M

 あとアメリカーナ系での吉報は、スティーヴ・マーチン&エディ・ブリケル“Pretty Little One”BEST AMERICAN ROOTS SONG部門にノミネート。昨年の傑作コラボ・アルバム“LOVE HAS COME FOR YOU”に続いてリリースした、Steve Martin And The Steep Canyon Rangers Featuring Edie Brickell名義でのライヴ・アルバム収録曲だ。

 そういえば、ダリウス・ラッカーをカントリー界のスターへと押し上げた大ヒット曲“Wagon Wheel”のオリジナル・アーティストであるオールド・クロウ・メディスン・ショウのニュー・アルバム“Remedy”のノミネートも嬉しかったけど、カントリーでもアメリカーナでもなくBEST FOLK ALBUM部門での受賞だったのはちょっと意外だった。あ、もしかして、ディラン先輩の歌詞が入ってると自動的にフォーク部門に回されるとか(?_?)。

Remedy

Remedy

 毎年、こうやってグラミーのリストを見ながら思うのは、結局“ジャンル”ってすごく大事だなってこと。「ジャンルなんて関係ねぇ」というのもわかるし、確かにジャンルを超越した音楽ほど素晴らしいものはないと思う。ただ、それはジャンルというものにマジメに向き合って、それを制した者だけに許される《越境》なのだな。だから「ジャンルなんて関係ねぇ、オレたちをジャンル分けするな」と言葉にするのは簡単だけど、それは本人たちが決めることではなくリスナーが決めることであり、突き詰めれば自分たちの作った音楽によって自分たちがジャッジされる……ということなのだ。

 《ジャンル》という意味で今回いちばん興味深かったのは、ジャズ・ピアニストであり優れたアレンジャーでもあるビリー・チャイルズによる、オムニバス形式のローラ・ニーロ・トリビュート・アルバム“Map To The Treasure: Reimagining Laura Nyro”

Map to the Treasure: Reimagining Laura Nyro

Map to the Treasure: Reimagining Laura Nyro

アルバムとして“BEST JAZZ VOCAL ALBUM”部門、ビリー・チャイルズ Featuring アリソン・クラウス&ジェリー・ダグラスによる楽曲“And When I Die”がBEST AMERICAN ROOTS PERFORMANCE部門、ビリー・チャイルズFeaturingルネ・フレミング&ヨー・ヨー・マによる“New York Tendaberry”がBEST ARRANGEMENT, INSTRUMENTS AND VOCALS部門と、合計3部門にノミネートされた。ジャズ、アメリカン・ルーツ、そしてノミネート自体はビリー・チャイルズの編曲に対するものとはいえ、音楽的にはルネ様&マ様はクラシック。ひとつのトリビュート・アルバムにさまざまなジャンルのアーティストが参加することは珍しくないが、そういうアルバムはふつうもっと音楽的にデコボコして当然。そうならずに、ここまでトータル・アルバムとしてのハイ・クオリティを実現しているのはビリー・チャイルズの手腕でもあるが、何よりもローラ・ニーロというアーティストが内包する世界の豊かさの証でもある。その事実に対する評価を含めての、この3部門ノミネートだと思いたい。

 同時に、ルネ様&マ様コンビ曲に始まってアリソン&ジェリー曲で終わるアルバムの構成は、クラシック界とルーツ・ミュージック界それぞれの最高峰コンビによる“アメリカーナ室内楽の最新型”という意味合いもある(のだと思う)。深いアルバムだ。ノミネートだけでも満足なんだけど、このアルバムだけは3部門制覇して欲しいなぁ。ひとつの象徴、として。

 さてさて、もちろん、個人的にはクラシック部門もたいそう気になるわけですが。今年は特に、積極的に面白い動きはないかな。個人的な興味として。いちばんワクワクしてるのは、BEST CHAMBER MUSIC/SMALL ENSEMBLE PERFORMANCE部門のヒラリー・ハーン新作アンコール曲集“In 27 Pieces - The Hilary Hahn Encores”。歌モノだと、BEST CLASSICAL SOLO VOCAL ALBUM部門の、ジョイス・ディドナートねえさんの“Stella Di Napoli”

In 27 Pieces-Hilary Hahn Encores

In 27 Pieces-Hilary Hahn Encores

Various: Stella Di Napoli

Various: Stella Di Napoli

 BEST ORCHESTRAL PERFORMANCE部門は、まぁ、順当にいけばベルリン・フィルってところだと思うのだけど、米国オーケストラが持ち回りで順番に受賞するのが文化振興のためによいと思うので、セントルイス、シアトル、ピッツバーグ、アトランタ……どれかに受賞して欲しいです。クラシック不人気に追い打ちをかける不景気で、どのオーケストラも資金難の模様だし。でも、個人的にはセントルイス・シンフォニーによる、ジョン・アダムズの“City Noir”が素晴らしかったので期待。この曲、もともとドゥダメルのLAフィル就任ガラで初演された作品。グスたんのLAでの末永い活躍を願って、アダムズ先生にジェイムズ・エルロイ風味もまじえたハリウッド・フィルム・ノワール的ロサンゼルスをテーマに書いてもらった曲だったんだけど。結局、セントルイスのほうが音楽的には相性がよかったようだ(来年春のLAフィル来日公演でも演奏予定なので、それを聴いたら印象が変わるかもしれないけど)。で、アダムズ/ドゥダメル/LAフィルといえば、今年はワールド・ツアー大成功を受けてリリースした超大作オラトリオ“Gospel According to the Other Mary”があったけど、これはノミネートなし。サロネンの後任としてのドゥダメル、ということでアダムズとのコンビを何とかしようという意図は就任当初からあったけど。アダムズの描くアメリカはドゥダメルっぽいイメージではないのかもしれないな……なんてことも、最近ちょっと思った。ちょっと、ですが。まだ判断保留、ですが。ちなみに、この“City Noir”はBEST ENGINEERED ALBUM(CLASSICAL)部門でもノミネートされている。

City Noir

City Noir

 アダムズといえば、アダムズはアダムズでもジョン・ルーサー・アダムズさんのほうがBEST CONTEMPORARY CLASSICAL COMPOSITION部門にノミネート。本命かなと思われ。まだ聴いていないのですが、とても評判がよいので気になっています。

 マイケル・ティルソン・トーマスが、サンフランシスコ・シンフォニーと共に録音した“West Side Story”全曲は、クラシックではなくBEST MUSICAL THEATER ALBUM部門にノミネート。同部門には“Beautiful: The Carole King Musical”もめでたくノミネートされてましたヽ(^。^)丿 “West Side Story”はSFシンフォニーの自主レーベルからのリリースで、ものすごく贅沢に凝ったパッケージからもMTTのバーンスタイン師匠への思いが感じられて感動した……のだけど、個人的な思いとしてはやはり“Beautiful”チームにトニー賞に続くトロフィーを獲って欲しいな。キャロルねえさんのためにも!

West Side Story

West Side Story

 ざっと眺めて気になるものは、こんなところかな。

 あとは音楽ではないけど、箱&全集もの好きなら絶対注目のBEST BOXED OR SPECIAL LIMITED EDITION PACKAGE部門。ノリにノッてるThird Man Records、今回はニール・ヤングの“A Letter Home”アナログ盤ボックスと、豪華絢爛なコンピ箱“The Rise & Fall Of Paramount Records, Volume One (1917-27)”の2作がノミネートされている。アナログ好きが高じて地元ナッシュヴィルにレコード屋まで開いてしまった最強レコヲタのジャック・ホワイト率いるThird Manは、今やパッケージもの制作においては他の追随を許さない。もはやアーティストが主宰する趣味のレーベルの領域ではなく、かつて特殊パッケージ・チャンピオンの名を欲しいままにしたライノ・レコードの成長期を思い出させる大躍進ぶりだ。その他、Third Manはパラマウント・レコード箱のライナーノーツでもBEST ALBUM NOTESにノミネート。経営者として授賞式のステージに立って「いや、オレはただのレコード屋のオヤジですから」とうそぶくジャック・ホワイトがぜひ見たいです。

 第57回グラミー賞授賞式は、来年2月8日(現地時間)にロサンゼルスで開催予定。今年もWOWOWで中継されるのかな。例年どおり、誰に望まれているわけでもありませんがツイッターにて細かすぎるツッコミ中継ツイをしたいと思います。もはやライフワークなので(o゜▽゜)o いや、なんだかんだ、オレ、グラミー大好きなんだ。






-----【おまけ】-----

とても気になっているけど、こわくて検索できないノミネート作品。ご興味あるかたは、ぜひ勇気を出してググってみてください。せるふへるぷ系なのかな?

《BEST SPOKEN WORD ALBUM (INCLUDES POETRY, AUDIO BOOKS & STORYTELLING)》

Gloria Gaynor

“We Will Survive: True Stories Of Encouragement, Inspiration, And The Power Of Song”

2014-10-15

[]俺のハンカチ王子がこんなに可愛いわけがない。 23:20

 《ハンカチ王子》とは何か?

 もちろん、元祖*1の話ではない。


 2013年9月14日、ベルリン・フィル定期公演。名門ニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督アラン・ギルバートさんはバルトークのバレエ音楽『かかし王子』を指揮し、大喝采を浴びた。


D

Bartók: The Wooden Prince / Gilbert · Berliner Philharmoniker

YouTubeトレイラー

 なんというか、すでに、そもそも選曲がよいですよねー。もちろんひいき目ですが。

 『かかし王子』なんて、あらすじ読んでも何だか結局よくわからないし。アランが振らなきゃ絶対に自分から聴こうとは思わない作品ですが。彼の指揮するバレエ音楽は、この作品に限らずいつも面白い。映像的というか。名演とかそういうことはさておき、聴いていてワクワクする。ダンサーがいないダンス音楽を、いかに音楽だけで成立させるかというところにまできっちり意識が届いている感じが好き。もともと彼は小学生の頃からリンカーン・センターでバレエのマチネ公演を見るのが楽しみだったというから、ふつうの男子よりもバレエ音楽に対して早熟だったはず。女の子がバレリーナに憧れるというのとは違う、客観的な視点でバレエの楽しみ方を早々に覚えていたというか。観客としての感受性が生きているというか。だから今、NYフィルの劇公演“Dancer's Dream”みたいなこともできちゃうわけで。

 で。

 話は戻ってベルリン・フィル。上のリンク先はトレイラーなので見ることはできないのだが、楽章の合間でアランが内ポケットからハンカチを出して汗を拭くんですわ。ゆっくり落ち着いて汗をぬぐい、またポケットにハンカチをおさめる。自分もひと呼吸つきながら、オケにもひと呼吸。その絶妙のタイミングといい、仕草といい、なんとも優雅。

 その姿、まさに死闘甲子園のマウンド上で泰然とポケットから綺麗に畳まれたハンカチをとりだした元祖ハンカチ王子のごとし。

 つまり。


 ハンカチ王子の、かかし王子

ですよ!



 キタ━━゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚━━ ッ!!!


 以来、オレの中ではアランがハンカチ王子になりましたっヽ(^。^)丿。

 よかったよ、かかし王子じゃなくて。


 て。

 すみません。それだけのことなんですけど。



 まぁ、そんなわけで。

 この秋も、オレのハンカチ王子まつりが止まりません。

 という、宣戦布告みたいなことを本日は書こうかと思った次第です。



 で。やっと本題ですが。




 先日、今年4月に古巣ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニック・オーケストラ(RSPO)に客演した時のブルックナー8番がRSPO公式サイトにアップされた。


公式サイト内《RSPOplay》

The Royal Stockholm Philharmonic Orchestra performs Anton Bruckner's Symphony No. 8 under the leadership of Conductor Laureate Alan Gilbert. Recording from April 2014.

 これも名演。

 ただ、いかんせん、こちらのサイトは回線が細いのか一度たりとも全編通して見られたことがない。いつも途中でフリーズしちゃう。なので、まぁポチポチと1楽章ずつクリックしてみて、回線の機嫌がよさそうな時に見るのがよいです。ま、タダなんでね。

 そして映像の見所はもちろん、ストックホルムの白夜よりも美しくきらめく白いハンカチ

きゃー(o゜▽゜)o


きゃー(o゜▽゜)o


きゃー(o゜▽゜)o


 2楽章が終わったところでのハンカチ王子をお見逃しなく。

 いやぁ、男性がハンカチで汗ふく姿に、こんなに萌える日が来るとは思わんかった。このぶんだと、夏には喫茶店のおしぼりで顔ふいてるおじさんにうっかり萌える日が来ないとも限りません。

 そして、さらに見逃してはならないのは(←Toじぶん)最後のシーン。演奏が終わった瞬間には汗をふいたハンカチをしまわず手にしたままオケを讃えるので、もう、あなたパバロッティですかってくらいにハンカチひらひら。これがもう、ストックホルムってくらいで、ハンカチ王子どころか、華麗なる白夜のスウェーデン貴族フェルゼン伯爵かと。


きゃー(o゜▽゜)o


 ところで。早くもNYフィルで5年目を終えたアランだが。実はRSPOのほうが在籍期間は断然長い。2000年からNY就任前までだから、8年。これはかなり長い。奥様も同楽団のチェリストだった方だ。そんなこともあってか、彼らとの共演ではNYフィルと同様にニュートラルなアラン・ギルバートという感じもあって妙に落ち着く。

 RSPOはノーベル賞の授賞式でも演奏する由緒正しい楽団で、いかにも北欧らしいどっしりした威厳ときらびやかさを持っている。暴れ馬のパワフルさと、雅な繊細さ……という、つまり、古きよきニューヨーク・フィルの味わいとも共通するところがあるような気もするし。あるいは彼らとアランのコンビネーションは、上質な北欧モダン家具にニューヨークのエッジィなセンスを加えたような……そんな魅力なのかもしれない。うむ。

 NYフィルでのアランといえば、北欧大好きでおなじみ。今シーズンはデンマークの作曲家であるニールセンの交響曲全曲プロジェクトを完結させたばかりだし、指揮者としても作曲家としてもサロネンと深い親交がある。音楽監督に就任した年にはフィンランドの作曲家リンドバーグをコンポーザー・イン・レジデンスに迎え、ブロンフマンとNYフィルによるリンドバーグのピアノ協奏曲はグラミー賞にもノミネートされた。それはもちろん、このストックホルム時代の影響が大きいわけだし。もう、あまりに北欧が好きすぎて良くも悪くもというところもあるんだけど。逆にRSPO時代には、アメリカ人作曲家であるラウスの作品集を録音していたり。なかなか、さすが学究派でいろいろ次々と考えてる。

 今年2月の来日公演では、前半はラウスからのリンドバーグ(ブロンフマン)というアラン・ギルバートによるアラン・ギルバートならではのプログラムがあった。あいにく現代音楽は本当にまったく人気がなくてビックリするほど客席ガラガラでしたが(´・ω・`)。あれはアランによるNYフィルのコンポーザー・イン・レジデンス二人の作品を並べたという、ハンカチ王子ヲタにはたまらない選曲であり、こういう面白さこそが今のNYフィルなんだけどなーと、こんだけ現代音楽チンプンカンな私でさえ思ったのだが……。ちょっともったいなかった。

 それはさておき。

 そんなわけで、今年もオレの中ではハンカチ王子が止まりません。

 ニューヨーク・フィルの2013-14シーズンはオーケストラにとって、ひとつの大きな区切りの年だった。昨シーズンから今シーズンにかけてのことは、またあらためて書きたいんですけど。アラン・ギルバートにとっても今年は、気持ちを新たに次のステップに進むタイミングかもしれない

 と、そんなタイミングで、やっぱりハンカチ王子は元祖同様に「持ってる」男だと実感したのが今年9月、腕を骨折したリッカルド・シャイーさんの代役として参加したライプツィヒ・ゲバントハウスとの共演だった。本拠地の開幕公演から英国BBCプロムス公演まで、約2週間にわたる長期の代役。よくスケジュールがあったなと思うけど。ライプツィヒでの開幕公演、そのあと1万5千人の観客を集めて行われた市街地でのオープンエア“第九”フェス、そして舞台をロンドンに移してのプロムス2公演もすべて大成功だった模様。特にプロムスは、お祭り最終日の前夜2日間。つまり実質“大トリ”公演。

 先だって発表された英グラモフォンマガジン・アワードでは、最高賞のレコーディング・オブ・ザ・イヤーをシャイー/ゲバントハウスのブラームス集が受賞。一般投票で選ばれるアーティスト・オブ・ザ・イヤーを獲ったカバコスも、同じコンビとのブラームス集を出したばかり。

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 と、あからさまにシャイー/ゲバントハウス激推し中の英国で、シャイーさんの代役。しかも、意外にもアランは今回がプロムス・デビューだったそう。指揮者という職業に「びびる」とか「ステージフライト」とかいう感覚があるのかどうかはわからないけど。いくら気心知れたオーケストラとの共演とはいえ、間違いなくアウェーでのプレッシャー含みの大仕事だったはず。が、そんな中で彼は見事にやってのけた。

 こういうスタミナ勝負のプログラムになるとゲバントハウスの底力がよくわかる。ガタイのいい文化系か、あるいは文武両道か。でも、そういうタイプのオーケストラとアランは本当に相性がバツグン。ラジオで聴いただけで何とも言えないけど、各メディア評とかツイッターなどを眺める限りでも絶賛の嵐。ツイッターではプロムスのお客さんらしき人が、これまでも何度かアランが代役でGJだったのが印象的だったそうで、たぶんサッカーで言うところの“代打の神様”みたいな選手の名前を引き合いに出していた。いやぁ、オレが喜ぶのもおかしな話なんですが、こんなアウェー感たっぷりの場所での大絶賛はファンとして誇らしく嬉しかったです。

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 1日目がマーラー3番で翌日は“第九”という、もう、天丼の翌日がカツ丼みたいなメニュー。超満員のロイヤル・アルバート・ホール、しかも本当に独特の雰囲気の熱気渦巻くプロムス。英国サイドの合唱団も従えての大編成は、写真で見るだけでも圧巻の壮観だった。が、まったく非力さを感じさせる瞬間もなく、エネルギッシュすぎてオーバーランする過剰さもなく。馬力のあるオケならではの持ち味を生かしつつ、丁寧に丁寧に繊細さを引き出してゆくあたりは、さすがNYフィルの音楽監督だ。パワフルエレガント系NY男子の本領発揮、という感じ。第九に関しては、去年NYフィルでも熱狂のソールド・アウト公演となった名演を残しているので、まぁ、自信もあったのだろう(*゜∀゜*)。

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 英国での評価が高まったところで来年はNYフィルを率いての英国ツアーがあり、その期間中にオーケストラの未来についてのシンポジウムでの講演もある模様。となると、今回は英国進出にあたっての足場固め!としては理想的な展開で、しかもシャイーさんすでに元気そうだったし(^_^;)……も、もしや、これは権謀術数渦巻く芸能界の壮大なシナリオでは、なんて考えてしまうのはノーマン・レブレヒト爺のブログ読み過ぎですか。読み過ぎですよね。でも、あまりにもいい流れだなぁ。権謀術数ではなく、ここは素直に“持ってる”と思いたい。

 最近ふと久しぶりに、5年前のNYフィル1年目の音源を聴いていて、ずいぶん音が変わってきたなとあらためて思った。5年前は、それはそれでしっかり逞しく見事にやってると思っていたけど。すっかり自らのオーケストラとしてフィルを率いている今となっては、当時の演奏は巨大なオーケストラを若者が指揮している感がある。

 着実に、成長しているんだなぁ。だからこうして、他流試合でもきっちりと自信たっぷりに結果を出してゆける。まぁ、もう、オレとしては世界中どこの音楽監督になってもおかしくない王子だと思ってますが。できればあと10年、いや20年……一生NYでやって欲しい。できれば、メトはファビオ・ルイージがレヴァインの後任に昇格して、ファビオ&アランの最強2トップのリンカーン・センターというを見たかったのだけど。どうやらルイージはそうもいかないような噂、残念。(つづく)



ええ。まだまだ続きますとも。

Symphonies

Symphonies

Violin Concerto

Violin Concerto


▼▼▼これが昨年、大絶賛されたアラン&ニューヨーク・フィルによる第九。インスピレーションに充ち満ちた名演。前半はマーク・アンソニー・タネジによる第九につながるイントロダクション。(MP3のみ発売)

Mark-Anthony Turnage, Beethoven

Mark-Anthony Turnage, Beethoven

*1:2006年、夏の甲子園大会で早稲田実業が勝ち進むにつれて、斎藤が試合中にマウンド上で丁寧にたたんだ青いハンカチで顔の汗を拭く姿が話題となり、「ハンカチ王子」と呼ばれるようになる。(Wikipediaより)

2014-06-09

[]祝・主演女優賞〜トニー賞雑感など〜 02:01

ブロードウェイでのナマの舞台が対象なだけに、当然のことながら日本で旬のものが見られる可能性はゼロに近いという矛盾を抱えつつも細々とBSで放送されてきたトニー賞。でも、今年はついにWOWOWで生中継。快挙ですよ。まぁ、ひとつだけ、Aもん氏が何かと鬼才マイケル・メイヤーと自分を並べたがる(しかも、そういう風に言われたんですー……という間接話法を使って)アピールに関しては、まぁ、そこだけはね、あくまで個人の感想として賛同しかねるっつーだけの話なんですが。もう、メトロポリタンオペラの「リゴレット」中継の時から気になっておるもので(笑)。ま、それはそれとして。生中継は快挙(字幕版は14日放送)。さすが多くの演劇/ミュージカル中継を手がけるWOWOW。日本ではまったく知られていない人々がこれだけたくさん出るアワードという難しさを踏まえた上で、ここまで頑張って盛り上げている情熱が伝わってきた。ゲストのさやかちゃんと王子様の、ミュージカル舞台人ならではの視点での感想も面白かった。これがブロードウェイの憧れだけでなく、日本の演劇界の活気にもつながるものになればいいなと思いました。

で。

『BEAUTIFUL』です!

やった、やった、やりましたよ!

ジェシー・ミューラーさん、ミュージカル部門主演女優賞おめでとう\(^o^)/

今年4月に初めて舞台を見て以来、すっかり『BEAUTIFUL』というミュージカルの宣伝部長のようにたくさんのコメントを残しているキャロル・キングねえさんご本人も登場。最初に自伝のミュージカル化が決まった時には、あまりにもつらい思い出が描かれた内容にいたたまれずミーティングの場を途中退席してまったということや、ずっと見るのが辛かったという話、それでも4月に初めて舞台を見た時にキャストたちの熱演に心を動かされて大ファンになったこと……などを率直にスピーチ。キャストたちのパフォーマンスにも飛び入りして、ジェシーちゃんと“ふたりのキャロル”の歌声を聞かせた。

あ、ちなみに3月の観劇日記は、当ブログ4月24日をご覧ください。

作品賞をはじめ7部門にノミネートされた『BEAUTIFUL』、結果は主演女優賞とサウンドデザインの2部門で受賞。まぁ、あわよくば作品賞も……と願ってはいたけれど、ダークホース的な感じでぐんぐん伸びてここまで来られたことだけで最高に素晴らしい結果だったということでしょう。何よりも、ノミネートの中でも主演女優賞が受賞したというのがよかった。キャロルさんにとっても、たぶんいちばん受賞してほしかった部門だったのではないだろうか。ジェシーちゃんの受賞は“キャロル・キング”の受賞。放送後の2ショット写真でも、ふたりのキャロルはとても幸せそうな笑顔だった。

ジェシー・ミューラーが無名の大抜擢だったようなことが番組内でも言われていたし、私もこの舞台で初めて彼女の名を認識したわけだけど。Misoppa's Band Wagonを主宰するミソッパ氏によれば、以前ハリー・コニックJr.主演の舞台『晴れた日に永遠が見える』に出演していたジェシーちゃんが素晴らしかったそうで、『BEAUTIFUL』が始まった時にも彼女の主演ということでも期待していたそう。もともとクロート筋や舞台好きの間では評価が高い実力派の逸材だったようだ。

で。

放送が終わってからニューヨークフィルがFBでおめでとうコメントを投稿していたので初めて知ったのだけど。ジェシーちゃんは去年3月にニューヨーク・フィルが音楽劇としておこなったロジャース&ハマースタインの『回転木馬』にも出演していた!

So happy for our Broadway friends who brought home gold at last night’s ‪#tonyawards‬. Kudos to Neil Patrick Harris (who was in our 2000 Sweeney Todd and 2011 Company), Jessie Mueller (Carousel, 2013), and Audra McDonald (Sweeney 2000 & 2014, the latter being aired on PBS Sept. 26). We are proud to call you friends!

(NYフィルのFacebookより)

で、『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』でミュージカル部門主演男優賞を受賞したニール・パトリック・ハリスも、NYフィルの『スウィーニー・トッド』や『カンパニー!』に出演してるし。今回、6度目のトニー賞である上に、これで“女優”としての受賞部門はすべて獲ってしまったという昨夜のナダルばりの快挙を成し遂げたオードラ・マクドナルドもNYフィルの音楽劇やガラの常連。アラン・ギルバートの友人でもあり、アランはウォール・ストリート・ジャーナルでのアンケートで《今春、楽しみな舞台》として今回の受賞作品『LADY DAY AT EMERSON'S BAR & GRILL』を挙げていた。あと、授賞式のオープニングでパフォーマンスも披露した、作品賞ノミネートの『AFTER MIDNIGHT』にしてもウイントン・マルサリス率いるジャズ・アット・リンカーン・センターのオーケストラによる舞台なわけだし。

いやぁ、やっぱりつながってるわ。こういう視点で見ると、ニューヨーク・フィルとブロードウェイの縁の深さがよくわかる。まぁ、近所だから、実力派はあちこちから声がかかるのは当然……といえば、まぁ、それまでだけど。この、どうしてもつながってしまう感は、やっぱりニューヨークならでは。当ブログ(修学旅行編w)でもしつこく書いてきたように、文化としての地続き感を実感してしまう次第。

と、結局、また我田引水で着地してしまいました( ̄∇ ̄)。

て、ニューヨークフィルが我田というわけではありませんがね。まぁ、できることならニューヨークフィルという田んぼの小作人になりてぇですが。うっしっし(*´ェ`*)←意味不明。

ただし、まぁ、オードラ・マクドナルドは絶対に獲ると思ったよ。なんたって、今年のMusical Americaのミュージシャン・オブ・ザ・イヤーだもの。去年はドゥダメルだった枠。えこひーき枠、という意味ではなくて。たとえばファッション業界でいう「今年の流行は、花柄&ズボン丈は8分でね」的な、業界全体の指針というか目印というかベンチマークつーかランドマークに選ばれたってことだし。言うまでもなく、その役割にふさわしい才能だし。彼女のスタンスというものがこういう、誰からもよく見える場所で評価されてこそ米ショービズ界。当然のことだなと思っていたわけです。にわか業界紙つまみ読みアナリストとしては(笑)。

ジェシー・ミューラーはじめ、オリジナル・キャストによるサントラ。

なんと〜! アナログも出ました!

Obc: Beautiful [12 inch Analog]

Obc: Beautiful [12 inch Analog]

2014-05-15

[]後略、道の上より。 05:34

《やっと最終回、旅の覚え書きシリーズ【7】》

〜最後に答えが降ってきた〜

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いやー。今回はほんとにお世話になりました。リンカーンセンター、すみずみまで堪能しますた。

2014年3月20日 7:30p.m.@Avery Fisher Hall at Lincoln Center

15700th Concert

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New York Philharmonic

Jeffrey Kahane ;Conductor and Piano

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RAVEL(1875-1937) Piano Concerto in G major(1929-31)

WEILL(1900-1950) Symphony No.2(1933-34)


GERSHWIN(1898-1937) Concerto in F for Piano and Orchestra(1925)


 ラヴェルと、ワイルと、ガーシュウィン。

 アメリカらしい、というか。

 これぞニューヨーク・フィル、ある種の真骨頂ともいえるプログラムだった。

 演奏されたガーシュウィンとラヴェルのピアノ協奏曲は、20年代のジャズに少なからず触発された作品だし。そもそも今回とりあげられた3人の作曲家は、それぞれ20~30年代ニューヨークとの浅からぬ縁を音楽に反映させてきた人たちでもある。

 ピアノと指揮は、ジェフリー・カハーン。米国の名門オケとの活動が中心のピアニスト/指揮者だ。音楽監督として17シーズン目を迎えるLAチェンバー・オーケストラ(ロサンジェルス室内管弦楽団)との活動が有名だが、2010年まではコロラド・シンフォニーの音楽監督も務めていた。1956年生まれの57歳、LA育ち。もともとピアニストで、83年のルービンシュタイン・コンクールの優勝者だ。それ以前、81年のヴァン・クライバーン・コンクールでも4位を獲得している。で、クラシック畑の人ではあるのだが、なんたって60〜70年代のLAに育っているわけです。最初はギターを弾いてフォークとかロックもやっていたそうだし、クラシックを学んだ後も、オーケストラの他にジャズやミュージカルの演奏の仕事もしていたというし。息子はブルックリンでシンガー・ソングライターやってるし。私にとっては、自分が頭の中でちょっとずつ描き足してきたアメリカ音楽地図を見せたら道案内をしてくれそう……というイメージの人。こういう背景を持った音楽家を知るたびに、自分の中での《地図》がカラフルに彩色されていく気がする。

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 さて。コンサートはラヴェル最晩年の作品であるピアノ協奏曲から始まる。これは「パリのアメリカ人」ならぬ《ニューヨークのフランス人》、みたいな要素も色濃い作品だ。ちなみにNYフィル初演は1933年、指揮はブルーノ・ワルターだった。

 作品は、ラヴェルがアメリカ演奏旅行から帰国した後に完成した。

 この演奏旅行は各地で好評で、とりわけニューヨークでの公演は熱狂的なスタンディング・オベーションを受けるなど大成功だったとか。滞在中に、友人であるジョージ・ガーシュウィンがあれこれと街の魅力を教えてくれたことも大きかったようだ。そびえる摩天楼の様子も新鮮だったと思うし、なかでもハーレムなどあちこち連れ回されて本場のゴスペルやジャズを目の当たりにした時のカルチャー・ショックたるやハンパなかったらしい。“新鮮”である以上に、音楽家として何か波長がピタッと合う感じもあったのか。で、作品にも、そんな経験が色濃く反映されている。

 だから、この曲をニューヨーク・フィルの演奏で聴くのはかなり理想的な組み合わせ。

 ラヴェルと、このオーケストラのサウンドはやっぱり相性抜群だ。

 昨年のシーズン・オープニングのガラでもラヴェルの「ボレロ」が演奏されたのを放送で観て、やっぱりアラン&NYフィルのラヴェルは最高にいいなと思った。ミニマル音楽などの要素も自然体で吸収してきたアランのモダンな感覚と、都会的かつ古風な洗練と爆発的な高揚感をあわせもつオーケストラのサウンドとが、ラヴェルのクールな音像の中で理想的に融合する。

 カハーンによるピアノ弾き振り演奏も、そんなニューヨーク・フィルらしいラヴェル・サウンドの魅力を存分に引き出していて素晴らしかった。なんだかもう、1930年代当時の華麗でギャッツビーでアールデコな光景が思い浮かんでくるような演奏だった。

 続いては、クルト・ワイルの交響曲2番。

 コンマスには、今期で退団するグレン・ディクテロウ。やっぱ、こういう大事な場面は御大でなくちゃ。ディクテロウさんがそーっと登場したのに、客席の一部から拍手がわき起こった。それを、笑いながら片手で「いいから、いいから」と小さくさえぎる仕草もまたチャーミング。カハーンさんと、世代はちょっと上だけど同じLAで神童ヴァイオリニストと呼ばれたコンマスとが笑顔で握手を交わす“ドラマ”にもちょっぴりキュンとしてしまった。

 「マック・ザ・ナイフ」で有名な『三文オペラ』(28年)よりは後に書かれているが、アメリカに移住して軽音楽に深くかかわるようになってからの作風とも異なる作品だ。この曲をニューヨーク・フィルが演奏するのは、なんと1934年12月のワルター指揮による米国初演以来のことだそう。そのアナウンスに、会場から「うぉー」という小さなざわめき。そもそも世界初演は34年10月のアムステルダム、同じくワルター指揮のコンセルトヘボウ・オーケストラだったというから、ニューヨークでも限りなく世界初演に近い演奏だったわけで。それ以来の再演というのだから、これは超レア企画。私のような観光客でも盛りあがるのだから、ましてや地元のみなさまには感慨深いものがあったはず。

 この曲では、指揮者としてカハーンさんが登場。演奏前には自らマイクを持って、作品についての解説をしてくれた。天才と呼ばれながらも、ユダヤ人ゆえにナチスの妨害を受けて母国での活動を断念せざるを得なかったワイル。彼は33年にフランスへ渡り、その後35年にアメリカへと移住する。そのフランス時代とアメリカ時代のはざま、34年に書かれたのが交響曲2番。

 カハーンさんの家系もユダヤ系の移民で、渡米してきた祖父母の時代には一族がたいへん苦労したという話や、今は息子さんも音楽家として活動していてワイル作品も演奏していることなどを話してくれた。アメリカにおけるユダヤ系移民の歴史などもまじえた、わかりやすく丁寧な、時にユーモアもある解説に場内がしーんと静まり聞き入っていたのが印象的だった。本当はもっと詳しく内容を紹介したいのですが……えー、私の語学力では半分以下しか追いつけませんでした(泣)。がっくり。次はもうちょっと英語ができるようになってから来たいと思いました。もう遅いか(´・ω・`)。

 アメリカ移住前夜とはいえ、これまで耳にしてきたワイル作品のエッセンスもあちこちに感じることができた。故郷を離れて暮らさなければならない境遇での郷愁や、これから向かう新天地への思いも投影されているのだろうか。いろいろな要素が組み合わさった、ちょっと“ドイツ版ガーシュウィン”的な味わいもある不思議で面白い作品だった。確かに、この曲をふつうの演奏会に組み込むのは難しそう。初演以来の演奏というのもわかる気がする。ラッキーでした。

 アメリカに渡ってからのワイルは、たくさんのミュージカル作品やオペラ、ポピュラー・ソングを書いた。1950年、50歳の若さにしてニューヨークで亡くなるまで(思えば、とても若かったのだ)、生涯現役で曲を書き続けた。彼の仕事は、後のブロードウェイ・ミュージカルやハリウッドにも大きな影響を与えた。そして、アメリカ音楽史を語る上で欠かせない“ルーツ・ミュージック”のひとつとして愛され続けている。そんな歴史の重みも実感させてくれたカハーン&ニューヨーク・フィルのコンビ。ワイルへのリスペクトがあふれ出るような、素晴らしい演奏だった。余談ですがカハーンさんが率いるLAチェンバー・オーケストラも、もともとハリウッド音楽の録音ミュージシャンたちを中心に結成された楽団だしね。縁、を感じる。

 休憩を挟んで、後半はガーシュウィンのピアノ協奏曲。カハーンさんは再び舞台中央に置かれたピアノの前に座っての、弾き振り。

 この作品はもう、ニューヨーク・フィルにとっては伝家の宝刀。まさに十八番。彼らにとってのシグネチャー・チューンだ。1925年におこなわれた世界初演はニューヨーク交響楽団(フィルのライバル楽団で、1928年にフィルに吸収合併された)で、その時の指揮者は米クラシック界の礎を築いたウォルター・ダムロッシュだった。ソリストとして、ガーシュウィン本人がピアノを弾いた。

 そういう曲だから頻繁に演っているのかなと思いきや、そうでもないらしい。最後に演奏されたのも、2011年大晦日コンサートだというし。しかし、ここぞの機会には世界初演のプライドを賭けて炸裂するキラー・チューンであることは間違いない。

 なんといっても、このオーケストラはスウィングがうまい。クラシックで、こんなによくスウィングするオーケストラが他にあるかしらと思う。しかも正統ジャズのビッグバンドとは違う、実にシックでノーブルなスウィングなのだ。たとえばシモン・ボリバル響の若者たちが、ベルリン・フィルよりも美しく正しく優雅にクラーベのリズムを奏でるのと同じことだ。かつてガーシュウィンが書いたアメリカの民族音楽としてのジャズの、あるべきかたちを見る思い。

 ちなみにこの曲は、WQXRのウィークリー・プログラム《The New York Philharmonic This Week》のテーマ曲としてもおなじみだ。このオープニング部分をテーマ曲に使ってサマになるオーケストラは、世界広しと言えどもNYフィルぐらいだろう。いくらガーシュウィンとはいえ、クラシック音楽の、しかもオーケストラ名を冠した番組のオープニングにスウィング・ジャズのフレーズが流れてくるのはあまりにもカッコよすぎる。

 この曲では、ディクテロウと同様に今シーズンで退団予定の首席トランペット奏者フィリップ・スミスが登場したのも嬉しかった。あのウィントン・マルサリスも「ニューヨーク・フィルには、フィル・スミスという超すげぇトランペッターがいる。僕なんか、かないません(´・ω・`)」と超リスペクトする世界的名手。残念ながら2月の日本ツアーにも参加していなかったし、もうオーケストラの中での姿は見られないかと思っていたのだが。元気なお顔を拝見できて何よりでした。この曲では今ひとつフツーの仕事を淡々とこなしている感じはありましたが、まぁ、縁起物ってことで。ちなみにフィル・スミスは、マイク・ラブをごっつくして眼光鋭くして燕尾服着せたみたいな感じの人です(だからパッと見、ちょっとこわい)。

 ラヴェルから始まり、そのラヴェルにニューヨークの音楽シーンを見せてあげたガーシュウィンで終わるプログラム。なんと美しい、私自身の旅の〆にもふさわしいプログラム。

 そういえばガーシュウィンは、独学オーケストレーションの限界に悩んでラヴェルに教えを請うたところ「あなたは既に一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要はないでしょう」と断られた(つか、逆にほめられた)有名なエピソードもあったなぁ。ラヴェルがやんわり断ってくれたからこそ、今、この3人3様の作曲家をフィーチャーしたコンサートが実現したのだと思う(ちがうとおもいますが)。

 そんなことを考えながら聴いていると、今このホールを出たら、外は1920〜30年代のブロードウェイに変わっていたりして……なぁんてステキなことを妄想してしまう。

 そう。つまり、まるでウディ・アレン監督『ミッドナイト・イン・パリ』のニューヨーク版のようにね。ニューヨーク・フィル指揮者時代のマーラーがみっちり細かい文字で注釈を書きこんだスコアにイライラと毒づきながら、若きトスカニーニが溌剌とタクトを振る。客席には、ほろ酔い顔で肩を寄せ合うスコット&ジルダ・フィッツジェラルド夫妻。ホールの外の歩道を、クラシカルな自動車と馬車がせわしげに行き交っている……みたいな。まさしく、そんな光景が似合いそうなコンサートだった。

 アラン・ギルバート率いるニューヨーク・フィルにはどこか、いにしえのジャズ・エイジを思わせるときめきがある。彼が就任してからずっと。それはなぜなのだろう、といつも考えていた。生粋の(本人は時に“典型的な”という言葉を使ったりもする)ニューヨーカーであるギルバートは、最初はバーンスタインのような生粋アメリカン・サウンドの復活を期待されていたのかもしれない。けれど今、彼が率いるオーケストラは時おり、それよりも前の時代(つまり20、30、40年代…)に存在していたであろう“サムシング・イン・ジ・エア”を音楽の中に見せてくれる。それはキラキラときらめいていて、けれど時代を超越した威厳に満ちていて。言葉にするのは難しいけれど、あえて言葉にするならば《街の矜持》みたいなものを感じさせるのかな。それが、昔ながらのときめきにつながっているのかも。

 矜持とは、変わらないものへの誇り。変わらないことの強さ。

 マンハッタンの街も、どんなに発展しても骨格だけはずっと変わらない 

 エイブリー・フィッシャー・ホールのあるリンカーン・センターを出ると、目の前はブロードウェイへと続く道。そのまま通りを下っていくと、すぐにカーネギーホールがあって、やがてミュージカルの劇場街になる。あたりにはティン・パン・アレイも、ビートルズが全米デビューしたエドサリバン劇場もある。さらにずんずんダウンタウンへ向かって歩いて行けば、数え切れないほどのジャズメン(あるいはフォーク歌手、あるいはビートニクたち)を育んだグリニッジ・ヴィレッジ周辺へと辿り着く。逆にリンカーン・センターからブロードウェイを上へと行けばハーレムに至る。そういえば、そこからさらに先には作曲家アイヴスの自宅兼スタジオなどもあったというし。

 すべてが、ひとつの“道”を軸にしてつながっている。

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この道を右にゆけば、ブロードウェイ。左にゆけばハーレムへと続く。ちなみに、かつてリンカーンセンターのあたりはNYのジャズメンたちの待ち合わせ場所だった。ハーレムやあちこちから集まってきて、一緒にヴィレッジのクラブやレコーディングへと向かったとか。音楽の磁場、感じますよ。

 ブロードウェイ伝いに街を歩けば、絵巻草紙のようにさまざまな音楽があらわれては消えてゆく。ジャズ、ゴスペル、ミュージカル音楽、フォーク、そしてストリート・ミュージシャンが奏でる世界中の民族音楽……。そして、その地続きにクラシック音楽もある。つまりそれが、ニューヨーク・フィルの奏でる“ニューヨーク・サウンド”ってことだ。

 そのことを自分の目と耳と足で確かめることができたから、この旅は自分の《修学旅行》と呼んでもいいんじゃないかと思った。

 ああ、まさに修学旅行だったなぁ。

 アランに始まって、グス太とか夜茄子とかグリ五郎さんとか……今いちばん大好きな音楽家たちをほぼ全員まとめて全部体験することのできた、本当に奇跡としか思えないラッキーな旅程だったけれど。いちばん最後の最後に観た、このコンサート。それが結果的に、この旅の《まとめ》みたいな内容だったことは意外でもあったし、なんだか運命的なものに導かれたような不思議な納得感もあった。カハーンさん、ありがとうございました。

 そして、愛しのアラン・ギルバート監督&ニューヨーク・フィルハーモニックのみなさま!この2月、3月のコンサート体験、いくら感謝しても足りません。音楽が好きでよかった、とこんなにも思った旅はありません。これからもずっと、私の音楽生活のメンターでいてください。そのために私もがんばって働こう!とアッパーウェストの青空をあおいで気持ちをあらたにいたしました。


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そんなわけで。明日は帰国というのに、なぜかwチケット売場へ……。はぁ、今からもうドキドキする。



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来シーズンも、夢と希望がもりだくさんだよ〜(きらっ☆)by監督。


 書きたいことはつらつらと、まだまだとりとめなくいっぱい浮かんでくるのですが。《8月最後の週が永遠にループする、夏休み日記をまとめ書き地獄》みたいな状態になっていて(笑)、そろそろさすがに飽きてきてしまいました。というか、楽しかった思い出を仕事の合間合間に書き留めている作業は、まぁ、牛の反芻みたいな感じで幸せではあるのだが、毎日毎日うっとり過去に思いをはせているのもいかがなものか。とも思うわけです。もう5月もなかばだし。そろそろブログも現実に戻らねば。なので、いったんここで旅の覚え書きは終わります。て、今日はほとんど原稿の下書きみたいなブログですいません。と言っても、私の原稿の下書きを見たことある人は誰もいないからわからないっすよね(笑)。

 でも、あまりにも収穫の多い旅だったので、自分でもきっちり振り返ってみないわけにはいかなかったし。まとめることで本当にいろんなことに気づくことができました。栄養になりました。ぐだぐだ話に辛抱強くおつきあいくださった方々、ありがとうございました!

 続きはいずれまた、頭の中でもちょっと整理してから。ということで。



●●●おまけ●●●

リンカーン・センター内には、パフォーミング・アートや音楽関係の資料だけを集めたニューヨーク公立図書館の分室があり。そこでの企画展や展示などは通りすがりの観光客も見ることができます。

今回、こんなものやってました。

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ビートルズの米国上陸50周年を記念した企画展、

その名も《Ladies And Gentlemen.....THE BEATLES!》展!

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初めて出演したアメリカのTV番組エド・サリバン・ショーでの、

彼らをエド・サリバンが紹介した時のフレーズ。

いやぁ、そのネーミング・センスだけでグッときちゃいます。

グラミー・ミュージアムとの提携企画。アメリカとビートルズをテーマに、米国内でのグッズやツアー資料とか書簡とか……。まぁ、そんなに広くない会場だし、そもそも無料だし、ほどほどに充実した展示でした。でも、なんたってかわいかったのは《1964年のアメリカのビートルマニアの女の子の部屋》の再現。

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