コインブラよ


もしジーコがこれまでの序列を守るのなら、巻、寿人、本山、村井、長谷部、阿部といった今回召集されている選手たちは単に人数合わせに過ぎないことになる。もしくは、本当にジーコの中では序列入れ替えの明確な基準があって、それをもし序列下位の選手が満たせば、直前の大逆転の道は残されているのだろうか。少なくとも選手たちはこの怪しい仮定を信じて闘うしかない。寿人や巻は、半ばその虚構に気づいていながらも、自分にスポットライトが当たる絶好の機会として逆利用することも含め、猛ハッスルを続けている。と、私は思っているので、まだ救われる。


しかし今日の村井を見て、そのあまりに残酷な光景に、思わずコトバを失った。村井のライバルはアレックスではなく、中田浩二だ。より正確に言えば、中蛸に対するジーコの既に定まった評価値だ。もしそんなものがあればの話だが。それでも村井はそんな得体の知れないものを凌駕すべく、誰もストップをかけてくれないシャドーボクシングを強いられていたわけだ。果たして、ジーコは1%でも村井が逆転する可能性を自分の中に確保して彼をピッチに送り出したのだろうか。もし村井がベストパフォーマンスを見せたら、ハラを決めて中蛸を切る覚悟があったのか。そもそもスイスにいてコンディションの把握できない中蛸と、過密日程の中で闘う村井をどうやったら比較することができるのか。村井の負傷の程度はわからないが、彼にとってこの試合は怪我を負う価値があったのだろうか。


海外組の選手たちのクオリティは確かにいい。しかし上記の通り、国内組とは選考のステージと基準が全く違う。いくら長谷部が絶好調で、稲本に出場機会が乏しくても、両者は比べようがないのだ。だからこそ、キリンカップ前に海外組のメンバーは発表してしまってよかった。アルゼンチンだって、イタリアだって一部の選手を先に発表している。W杯直前に代表召集された以上、一縷の望みを捨てずに必死に「アピール」に専心する選手たちのハートを、この指揮官は受け止める用意があるのだろうか。


冒頭に挙げた選手のうち、一人でも最終メンバーに残れば、自分はまだこの神様に拍手をしてドイツに送り出せる。しかしそうならければ、もうコインブラにはついていけない。それを「神様ならではの冷徹な哲学」と言祝ぐ輩も信用できない。ロジカルとは言い難い彼の「哲学」に4年間つきあって、いったい我々は何を得たのか。トルシエの遺産を食い潰してドイツへのチケットは得たが、それ以上の上積みが何かあっただろうか。一部の選手を異常なまでに優遇・酷使し、その他多くの優秀な選手のモチベーションと能力と肉体をスポイルし続け、チームを停滞させたのがコインブラの所業だ。一番許せないのは、代表監督のこうした振る舞いが、我々が13年間心を込めて築いてきたJリーグに少なからずダメージを与えていることだ。ジェフをはじめ、川渕がいなければ抗議をしたいクラブはいくらでもあるだろう。


選手に罪はない。ジーコは23人を選べば後は何もしないのだから、選ばれた選手には頑張ってほしい。