小説「華厳経」1-3

めいちゃんは、わたしが家具を配置する際に全体的に赤でまとめた遊郭の中をうろうろしている。
「りかちゃん、また家具の配置、てきとう。ずれてるよ」
 畳の上に置いたタンスの横に立ってめいちゃんが言う。
「家具が壁にめりこんでる」
 りかもめいちゃんの横に立たせた。
「ほんとだ」
アバターアバターがタンスの横にぴったりとくっついて立っている。
 少しの間があって、めいちゃんは、テーブルの上の金魚鉢を眺めるふうな位置に移動した。

 RPGのネットゲームと違って、魚釣りのゲームと大富豪や7ならべなどのカードゲームくらいしか、このサイトにはゲームが付いていない。金魚はよく釣れる魚なので、釣って持ち帰り、飾っている数の5倍はアイテム倉庫の中にひっそりと眠っている。
 遊郭、桜、それから金魚。それらのモチーフには元ネタがあり、それはわたしの好きな映画「さくらん」から拝借したものだった。アバターに着せている服が前帯の着物ではなく打ち掛けなのはご愛敬。貰いものなので贅沢は言えない。
 
 衣装アイテムの打ち掛けをくれたのはめいちゃんとはまた別の、りよさんというアバターだった。課金すればどのアイテムでも手に入るというわけではなく、期間限定で販売されているアイテムもある。正月あたりに登録すれば着物を買えたのだが、夏に登録したので着物は販売されていなかった。
 遊郭を作ってその次は着物が欲しくなったわたしはどうしたか。
「わたしのマイルームが少しずつ遊郭完成に近づいてきたよ。でもアバターが着ているのは洋服だけどね」
 日記にそう書いたら、りよさんが、メッセージ付きでアイテムを送ってくれた。「遊郭完成、楽しみにしています。着物じゃないけど……」
 わたしは白い打ち掛けを手に入れた。
 
 そういえばホテヘルのホームページのプロフィールに、好きな食べ物はうどんだと書いてある。
チョコレートやマカロンなら、お土産に持ってくる客もいるだろうがうどんは持ち運びがままならない。だからあえてそう書いたような気もする。
 わたしはどんなバランスを、ホテヘルの仕事とアバターサイトの両方で、測ろうとしているのか、自分でもよくわからない。