『月の砂漠をさばさばと』 北村薫 新潮文庫

 オレは人が死ぬ小説を読んでへらへらと笑っているという自他共に認める下衆野郎なのだが、それでもこの小説を読んでいる間だけは、間違いなくオレは善人になれる。そんな気がする。それ位読む者を心地良くさせる小説。こんなに居心地の良い作品を読むのは久しぶりかもしれない。
 まあ、読み終わったら元のクズ人間に戻るのだけどね。即効で。
 

 『かげろう忍法帖』 山田風太郎 ちくま文庫

 風太忍法帖の世界に浸る。
 出てくる忍法は馬鹿馬鹿しい。でも登場する忍者たちがどいつもこいつも必死なので、読んでいて何故か泣けてくる。こいつらは生きているんだなというのがようく伝わってくるから。頭が生えてくるやら生け造やら、忍法はホントに馬鹿なのに。
 私のお気に入りは『忍者石川五右衛門』かね。ヒロインの織部が可愛い。そして切ない。

 『平井骸惚此中ニ有リ 其参』 田代裕彦 富士見ミステリー文庫

 二作目と比較してミステリー色を弱め、ラヴ成分を強くした模様。誘拐事件と殺人事件が起こるのだが、両者ともシンプルすぎる、容疑者が少ないから選択肢自体が限られてしまう。もうちょっと何とかして欲しかった。編集部の都合もあるのかもしれないけど。
 参考文献に池波正太郎の『剣客商売 包丁ごよみ』が入っているのがちょっと嬉しかった。「菜っ葉飯」食ってみてえなあ。

 『真田太平記(四) 甲賀問答』 池波正太郎 新潮文庫

 今回のメインは忍び達。お江を代表とする真田の草の者たちと豊臣家に仕える甲賀忍者達との死闘が描かれる。己が肉体を極限まで鍛え上げた者たちの騙し合い、殺し合いが熱い。山風の忍法帖とはベクトルがちがうが、これはこれで楽しめた。

 『オーデュボンの祈り』 伊坂幸太郎 新潮文庫

 「ぼくらの時代の新しい文学」などと伊坂幸太郎が紹介されていて、その時点で読む気が40%位失せた。もちょっと真面目に仕事しようよ、編集部。給料もらってんだしさ。
 で、読み始めてすぐに気づく。「うわ、これ浅暮の「ダブ(エ)ストン」みたいな物語じゃねえの、勘弁してよ」と。一瞬読まずに捨てようかとも考えた。でも、読書会の課題本やしと自分を慰めて終いまで読み通してみたら、これが結構面白かった。
 メインの謎は「未来予知のできる案山子が何故自分の死を防ぐことが出来なかったのか?」というシンプル且つ魅力的なもの。これに嘘つきの画家や殺人鬼などといった奇妙なキャラクターを交えて、物語が進んでいく。
 舞台が一応島という閉所に限定されているが、閉塞感は微塵も感じられない。主人公の伊藤が島のあちこちに行って、島の住人たちと会話するからだろうか。物語世界に広がりが感じられる。
 案山子が死んだ理由も面白いし、何よりもラストがキレイ。この作品はあたりだ。