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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2006-06-02 パラサイト式血液型診断〜藤田紘一郎

[][]パラサイト式血液型診断〜藤田紘一郎がトンデモさんリスト入り? パラサイト式血液型診断〜藤田紘一郎がトンデモさんリスト入り?を含むブックマーク

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■パラサイト式血液型診断 藤田紘一郎著

「血液型による性格判断にはちゃんと科学的根拠がある。偉い教授がそう書いている」と言っている人がいたので、「どこの教授だよ?竹内久美子じゃないだろうな」と突っ込んだら、東京医科歯科大学名誉教授である藤田紘一郎がそう言っているという。寄生虫関係の本を多数書いており、何冊か著作を読んだことがある。「パラサイト式血液型診断」という本を書いたようで、内容を見ないことには批判もできないので購入した。いくつかの感染性疾患とABO式血液型に弱い関連があるのは事実であり、その辺のことを膨らませて書いた本を素人が誤読しただけかもしれないと読む前は思っていた。

しかし、読んでみたがこれはひどい。藤田紘一郎はどうしちゃったのか。少々ショックを受けた。ABO式血液型と感染症の関係から血液型と性格の関連を導き出すのは、ほとんど竹内久美子の受け売りである。その他、能見正比古、安保徹やダダモ*1を好意的に引用している。菊池聡や長谷川芳典といった懐疑派も少しは引用されているが、「血液型で性格を決めつけてはいけない」という文脈においてのみである。この本の間違いはきわめてたくさんあるが、ここでは2点のみ簡単に指摘する。


1. 疾患とABO式血液型の相関を過大評価している。

2. 感染症とABO式血液型に相関があったとしても、それだけではABO式血液型と性格に相関は生じない。


まず、1.について。確かに、ある種の病気とABO式血液型との相関の報告は多数ある。藤田は、天然痘、肺結核、マラリア、ノロウイルス、胃癌、食道癌、コレラ、ペスト、梅毒その他さまざまな疾患の罹りやすさがが、血液型と関係すると書いている。しかしながらその根拠となる参考文献は、1994年に出版された"The History and Geography of Human Genes"と、「人類遺伝学」(朝倉書店)である。後者は私の調べた限りでは、訳書で1988年と1989年の出版である。はっきり言えば古すぎる。竹内久美子を丸写ししただけでここ10年の間の人類遺伝学の進歩など何も調べていない。ヒトゲノム計画が終了しつつある2000年に、Natureに掲載された総説*2にはこうある。

Before the early 1980s, genetic risk factors for a disease or trait could be identified only through direct analysis of candidate genes, usually through association studies. Starting soon after their discovery, blood-group systems such as ABO, MN and Rh were tested directly against an array of human disease, typically with little replicability. However, after the study of tens of thousands of subjects, it seems that ABO shows consistent, but weak, association with a number of traits involving the gastrointestinal tract.

要約すれば、胃腸管に関するいくつかの形質に弱い相関が認められる以外には、血液型と疾患の相関については再現性よく示されたものはないということである。この総説は2000年に書かれたものなので、新しく発見された知見がないかどうか、ここ6年ぐらいのABO式血液型と疾患感受性についてPubmedで改めて調べてみたが、信頼できそうなのはノロウイルス感染の感受性ぐらいであった。ABO式血液型と疾患の相関研究に偽陽性が多い理由として、試行回数が多かったということと、相関解析独自の問題とがある。前者については■血小板MAO活性と血液型についてで、後者については■箸の誤りで触れた。

弱いとはいえ、感染症とABO式血液型に相関があるのであれば、ABO式血液型と性格の相関も生じるという考えもあるかもしれない。たとえば梅毒の感染しやすさとABO式血液型とが関連があるとして、ABO式血液型と性格に関連が生じるだろうか。藤田は以下のように書いている。

この梅毒に対する抵抗性の有無が、人間の行動や性格を決定づける最大の要因ではないかと考えられるのです。なぜなら、セックスを広く行うかどうかが、人間の社交性を決める基本だと私は考えているからです。

つまり、梅毒に強いO型は「社交的」になり、梅毒に弱いAB型は「内向的」になっていったのではないかということです。(P34)

「O型は梅毒に感染しにくい」ことを前提として受け入れるとしても、O型が社交的になっていくという結論は必ずしも導けない。他にも必要な条件がある。「『O型ならば社交的に行動せよ。AB型なら内向的に行動せよ』といった条件付戦略がプログラムされた遺伝子」もしくは「ABO式血液型を決定する遺伝子の近傍に存在する社交性に影響する遺伝子」の存在が必要である。前者のようなきわめて複雑な遺伝子が、梅毒がアメリカ大陸からもたらされてからの数百年という短期間に進化するとは考えられない。後者についても、よしんばそのような遺伝子が存在したとしても、その影響はきわめて小さいものである。

ある個人が社交的かどうかは、環境の影響も受けるにせよ、いくぶんかは遺伝が影響しているとしよう*3。遺伝が影響しているということは、ゲノムのどこかの部分の個人差、つまり遺伝的多型が社交性に影響しているわけである。さて、その社交性に影響する遺伝子がABO式血液型を決定する遺伝子と異なる染色体にあれば、たとえ社交的なO型が淘汰で有利になったとしても、次の世代ではその組み合わせは失われる*4。社交性遺伝子とABO式血液型遺伝子がたまたま近傍にあるという幸運でもない限り、O型が社交的になっていくという現象は起こらない。

実際のところは、社交性といった複雑な形質に影響する遺伝子は多数あるだろうから、その多数の遺伝子の中にはたまたまABO式血液型遺伝子の近傍に位置するものも存在し、ごくわずかにO型が社交的になっていくという傾向は生じるかもしれない。しかし、ヒトの染色体は23対46本である。同一染色体上に載っていたとしても組換えが起こる。梅毒感受性ゆえにO型が社交的になっていくとしても、きわめて小さい影響しか与えられないことが分かるだろう。

そもそも、O型が社交的であるというのであれば、直接、相関研究で証明してみればどうか。ある個人の付き合いの範囲内で差が出るほどの強い相関が存在するならば、証明するのは容易であろう。ABO式血液型遺伝子に限らず、ある特定の遺伝子が社交性と相関することを明確に証明できれば、Nature Genetics誌*5にでも載る。実際のところは、社交性のような複雑な形質は多くの遺伝子の影響を受けており、個々の遺伝子の影響は小さいがゆえに相関を検出するのは困難である。この点については■血液型性格判断は、遺伝学の問題でもあるでも論じた。

他にも本書の問題点は山ほどあるが、とりあえずここまでにしておく。竹内久美子は、自分で「高度なジョーク」と言っているように、ある程度は分かっててやっている。しかし、本書を読む限りでは、藤田紘一郎はマジっぽい。それにしても、藤田紘一郎はいつからこうなっちゃったんだろうかと思い、ちょいと検索してみたら、こんなページ(■藤田紘一郎(健康本の世界))を見つけた。藤田先生は誠実で真面目なのだ。ただ、ちょっとばかりトンデモ話に弱いだけなのだ。



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■衛生仮説〜不潔な環境がアレルギー性疾患を予防する

■ニューヨークタイムズに血液型性格診断が紹介された

*1:ダダモは自然療法の権威とされている。自然療法はQuackery(インチキ医学)の一種→参考:QuackwatchのNaturopathy(自然療法)。また血液型ダイエット by ダダモ

*2:Risch NJ. Searching for genetic determinants in the new millennium. Nature. 405(6788):847-56, 2000

*3:社交性に遺伝が影響していないのなら、O型は社交的とかいう話はそもそも成立しない

*4:同じ染色体にあったって、距離が遠ければ組換えが起こるので、やっぱり社交的・O型という組み合わせは失われる

*5:遺伝学の分野でもっとも権威のある雑誌

physicianphysician 2006/06/03 03:37 赤血球表面の糖鎖と性格に相関があったら世の中単純でしょうねぇ。

InoueInoue 2006/06/03 05:15 藤田紘一郎は本業の寄生虫学でも(一般向け啓蒙書では)ひどい本を書いてますよ。私は最初は「講座数が削減される一方の寄生虫学(国際医学)の認知度をなんとか上げよう」という戦略的なパブリッシングなのかと思ってましたが、そうではなく、マジで信じてるみたいです。

CABINCABIN 2006/06/03 08:09 リンク先にある「水の健康学」っていうのも凄いですね。「体内の臓器にある固有の波動と微弱なエネルギー」って・・・しかももう既に正常な波動とかエネルギーとか検査済みで、そういった物が乱れると病気になると・・・医者いらんですね。

たまごどんたまごどん 2006/06/03 09:51 本棚を漁って「空飛ぶ寄生虫(藤田紘一郎 講談社)」を読み直したのら。問題の箇所はpp84〜97で、「O型は梅毒に感染しにくいため社交性がある。AB型は梅毒感染率が高く、疑心暗鬼なために変人が多い。」「B型は結核やフィラリアに感染しやすいため、自然と親しむことが苦手なためにオタクが多い」。ご丁寧に元ネタが竹内久美子だってこともバラしちゃっているピョン。

NATROMNATROM 2006/06/03 10:09 結構以前からアレだったんですねえ。何冊かは読んだはずなのに、全然そういう印象はなかったんですが。

CABINCABIN 2006/06/03 11:00 トンでもセンサー装着以前だったからじゃないですか?(笑)

InoueInoue 2006/06/03 11:29 竹内はまともな生物学教育を受けて学位を取得した人のはずなんですが、どうしてトンデモ本ばかり書くのかなあ。商売に徹してるのだろうか?生物学じゃ食えないから。

KosukeKosuke 2006/06/03 20:57 > 「B型は結核やフィラリアに感染しやすいため、自然と親しむことが苦手なためにオタクが多い」

子どもの時に野山や田んぼ・畑を駆けずり回って育った私は、今頃はフィラリアで死んでなけりゃいけないな。

さんちゃんさんちゃん 2007/10/14 12:45 なぜか、Yahoo知恵袋に文句が書かれている・・・。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1213087972

ktrktr 2008/02/11 08:01 > 《藤田紘一郎,血液型性格決定論者にというニュース》 2006/06/04(Sun) 21:57:46
> パラサイト式血液型診断〜藤田紘一郎がトンデモさんリスト入り? という記事。まあ,この寄生虫博士の「寄生虫嫌悪の清潔志向=アトピーの原因」説には胡散臭い感じがしていた(だったらとっくに寄生虫療法が普及しているはず)ので,特に驚くほどのことはないのですが。
http://www.cs.kyoto-wu.ac.jp/~konami/myboard/deceitscience.html#deceitscience0004
あのー、ある説が「胡散臭」くないためには、「普及している」ことが必要条件なのですか?この方の「ご批判」は
ja.wikipedia.org > 疑似科学 > # 5 疑似科学批判の信頼性
に当てはまっちゃうのではないですか?

NATROMNATROM 2008/02/11 09:29 『ある説が「胡散臭」くないためには、「普及している」ことが必要条件』ではありません。こなみさんもそう考えているでしょう。

ktrktr 2008/02/13 21:03 応対ありがとうございます。
> (だったらとっくに寄生虫療法が普及しているはず)
というのは、「清潔志向=アトピーの原因説が胡散臭くないならば、とっくに寄生虫療法が普及しているはず」の省略でしょう。そして、陰にその対偶をとって、「普及していないのだから、胡散臭い」と主張しているように読めます。
すなわち、こなみ氏は『ある説が「胡散臭」くないためには、「普及している」ことが必要条件』であるというふうな「論理」を、すくなくともこの件には適用してしまったと、僭越ながら、判断する次第です。

NATROMNATROM 2008/02/14 08:14 「普及していないから胡散臭い」とこなみさんが断定しているのであれば、仰る通りですね。しかし、こなみさんは断定していません。専門外の分野のある学説の信頼性について、普及の程度をもって推定するのは合理的な態度です。私だって、(たとえば)物理学のある学説について、「専門家がほとんど言及しないから胡散臭い感じがする」などと推定することはよくあります。でもって、こなみさんのような専門家が明確に批判してから、「ああやっぱり」などと納得するのです。この辺の思考の節約については、

最初に採用するとしたら製薬会社
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20080208

でも触れましたのでご参照ください。

ktrktr 2008/02/14 21:44 分かりました。私の「思考」は軽率でした。
思考の節約ですか。「リスク・ゼロ追求は現実的な安全追求の姿勢でない」(ウィキペディア「リスク」)ということを連想しました。いわば、私はこなみ氏に「リスク・ゼロ」の判断を迫ったようなものでしょうか。
いや、勉強になりました。