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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2012-05-18 「非常に感染力の強い方のお産」を扱う助産師

[]「非常に感染力の強い方のお産」を扱う助産師 「非常に感染力の強い方のお産」を扱う助産師を含むブックマーク

自宅出産は医療機関で行う出産よりもリスクは高い。しかし、十分にリスクを説明された上での自宅出産の選択肢があってもいいと個人的には思う。ただし、その場合でも適切な医療介入は必要であろう。産科医から独立して助産院や自宅での出産を扱う助産師は、それだけ高い技術と知識を要するはずであるが、現実にはむしろ逆のように見える(たとえば、ブログ「助産院は安全?」のエントリー■2012-05-01 - Twitterからの【助産師会】が参考になるだろう)。

自宅出産を扱う開業助産師の医学知識について不安に思える一例を見つけた。「神霊教」という宗教に入信した助産師の話である。業務に影響しなければ、別に助産師がどのような宗教に入信していてもかまわない。さて、この助産師さんは「家族が参加する家庭での出産を扱う助産所を開業」した。妊婦さんたちは神霊教の信者ではないが、「少しは神霊教の御神光(みひかり)が行っている」ためか、皆安産なのだそうだ。ここまではまあいい。しかし、以下の引用を読むと、この助産師さんの介助するお産が果たして安全なのか、きわめて疑問に思える。


■数々の安産と家庭円満をよびこむ奇跡の力

 こういうこともありました。E型肝炎抗原プラス(劇症肝炎)で非常に感染力の強い方のお産を手伝ったときに、私は抗体を持っていないのですが、不思議と予防注射を打つ気持ちになりませんでした。神様に守られているから大丈夫って。そして案の定、血をあびたのに感染しませんでした。お産された方を検査したら、E型肝炎がほぼうつらない抗体に変わっていたのです。生まれたこどもにも感染していませんでした。命を落とすような大変な病気ですから、神霊教に入信していなかったら手伝うなんて夢にも思わなかったでしょうね。


字句通りに受け取ると意味が通らない。劇症肝炎の患者さんが自宅出産することはありえない。劇症肝炎であれば肝機能がきわめて低下しており意識障害を生じている。退院どころかICUでの管理が必要な状態である。E型肝炎というのも奇妙である。E型肝炎は通常は「E型肝炎抗原」ではなく、HEV(Hepatitis E Virus) RNAをPCR法で検出するか、抗HEV抗体を測って診断する。E型肝炎ワクチンは開発中で現在のところ一般に使える「予防注射」は存在しない。

意味が通るように好意的に解釈すれば、妊婦さんは(E型肝炎抗原ではなく)HBe抗原プラスで、(劇症肝炎ではなく)慢性B型肝炎もしくはB型肝炎キャリアであったのだろう。HBe抗原はB型肝炎の感染力の指標となる。「ほぼうつらない抗体に変わっていた」というのは、HBe抗原プラスからHBe抗体プラスに変わっていたと考えれば辻褄は合う。なお、自然にHBe抗体が陽性化することはよくある。またB型肝炎であれば予防注射はある。

助産師さん本人が「神様に守られているから大丈夫」と考えるのは勝手である(空気感染する麻疹について「神様に守られているから大丈夫」と考えていませんように!)。しかし、もしこの症例がB型肝炎であったとするならば、新生児に対してはすみやかな母子感染防止対策(出生直後を含めた2回のHBIG投与および3回のHBワクチン接種)が必要である。「神様に守られているから大丈夫」などと思っていなかったよね?

この助産師さんの助産院のサイトを見てみたが、自宅出産のメリットは書いてあるがリスクは書いていない。「神霊教で奇蹟を体験した方々を紹介するBlog」では「私は10年間で500ほどの家庭出産を手がけていますが、逆子だったり、妊婦さんが肝炎を患っていたりと、色々なケースに出合います。普通は怖くて難しい家庭出産ですが、神霊教の神様に守られているからこそできるのです*1」とインタビューで答えている。

高い技術と豊富な知識に支えられた上での信仰なら問題はないが、既に指摘したように、この助産師さんの感染症に対する認識には問題がある。細部については本人ではなくインタビュアーが間違えたのかもしれないが、感染力のある肝炎の妊婦さんの出産を扱ったというのは事実であろう(事実でないならインタビューで嘘を述べたことになりこれはこれで問題だ)。この症例がB型肝炎であろうとE型肝炎であろうと、劇症肝炎であろうと慢性肝炎であろうと、「感染力の強い方のお産」である以上、産婦人科医が管理すべきであったと私は考える。産科医の介入を要する症例を「神様に守られているからこそできる」と勘違いしていたのではないか。

医師にもトンデモな人がいるように、開業助産師にもトンデモな人がいるというだけかもしれない。しかし、この助産師は東京都助産師会の専門部会理事である*2日本助産師会の上層部がホメオパシージャパンと深いつながりがあったことが知られている(たとえば、■ホメオパシーと日本助産師会:Chromeplated Ratを参考にせよ)。産科医の介入のない出産に肯定的な助産師には、標準医療に否定的な傾向があると私には思われる。結果として、助産院での出産や自宅出産のリスクを高める要因の一つになっているのではないだろうか。



関連記事

■病腎移植とB型肝炎

■B型肝炎ワクチンとホメオパシー

■ホメオパシーはまた人を殺すだろう

*1:URL:http://srkblog.info/archives/219846.html

*2:組織・役員 | 東京都助産師会とは | 東京都助産師会, URL:http://jmat.jp/midwife/organization.html

放置医放置医 2012/05/18 14:11 妊婦は母子感染のリスクを理解していたんでしょうか。はなはだ疑問です。
産科医がこの助産師レベルだったら間違いなくマスゴミによって血祭りでしょうに。

tadano--rytadano--ry 2012/05/19 21:50  肝臓専門医や産科医でないのであやふやなところもありますが、要するに妊娠初期の検査でHBe抗原(+)HBe抗体(-)だったのが、自然経過でセロコンバージョンを起こして出産時にはHBe抗原(-)HBe抗体(+)に変化していたということだと考えられます。セロコンバージョンには通常2-3ヵ月かかると認識していますから、十分あり得る話です。

 HBe抗原(+)HBe抗体(-)の妊婦さんの母子感染率はほぼ100%ですが、HBe抗原(-)HBe抗体(+)の場合の母子感染率は10%と言われているので、「生まれたこどもにも感染していませんでした」というのは珍しいことではなさそうに思います。

 知識がなければ単なる自然経過も「奇跡」と解釈してしまう好例と考えます。

RyoRyo 2012/05/22 01:38 調べてもよくわからなかったのですが、15年位前の東京(あるいは関東圏)で産科オープンシステムは始まっていたのでしょうか?