やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (4)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。4 (ガガガ文庫)
1〜3巻の感想がないのは興が乗らなかったからです(キリッ
というのは真っ赤な嘘で、ただ単にブログ放置してた間に読了したものは書いていないだけです。だから僕の感想はシリーズ物は必然的に穴だらけで、例えば『神様のメモ帳』は7巻から始まっています。そして8巻は書いていません!なぜなら興が(ry ただ一つ言えることは、基本的に最新巻まで読んでいるシリーズはとても面白いから読んでいます。言うまでもないことでしたね。

あらすじ

学校は夏休みとなり、「ぼっち」の本領を発揮するかのように一人悠々自適な生活を送っていた八幡。誰にも邪魔されない楽しみを謳歌していた最中、彼は平塚先生の魔の手によって拉致同然な扱いを受けてキャンプ場でのボランティアに強制参加させられる。そこにはお馴染みの奉仕部メンツの他に、葉山、三浦などの「リア充」組も来ていた。

これからの展開に不穏な空気を感じつつも、ボランティアは始まる。小学生を相手に色々な雑事に追われる中、八幡たちは誰とも話さず独りでポツンと立ち尽くしている女の子、鶴見留美と出会う。物理的な距離があるわけではないのに、どこか心の距離の開きを感じさせる佇まい。八幡はそこに、己に似たものを感じ取る。彼女は周りからハブられていたのだ。

この世界はかくも欺瞞に満ちている。

なぜ小学生辺りの年代ではイジメめいたものがいつの時代も横行するのか。なぜ彼らは誰かを爪弾きにしないと気が済まないのか。
それはいじめっ子の性格がとことん歪んでるから?
違う。まあ中にはジャイアニズムを絵に描いたような子もいるかもしれませんが、そういったケースの方が稀でしょう。というか、それの方がむしろイジメの中ではマシな形です。悪の根源が分かっているだけでも対処の仕方は出てくるし、なにも絶望だけが居座るわけじゃない。
では、明確な悪が人単体に宿るのではなく、クラス全体に及んでいたとしたら?
誰かが始めたかも忘れたような、ささいな理由から生まれたハブリ。別に憎んでいるわけではないのに、明日は我が身と保身に走るための口実。そこから生まれてしまう被害者。

そんな境遇にさらされた子に、今回八幡たちは出会います。高校生になってまでぼっちを貫くエリートぼっちな八幡や雪ノ下は、そこに過去の己を見たことでしょう。多少の境遇の違いはあれど、ぼっちであるという本質は変わりません。だから八幡たちは彼女の存在に目ざとく気付いたし、彼女は彼女で八幡たちに対して、超絶リア充の代表とも言える葉山クンとは違ったものを感じ取ります。ここが今回のポイントというか、葉山と八幡の分かれ目ってやつでしょうか。リア充を体現した存在「葉山隼人」にとって、彼の中でどんなに慈しみの心があったとしても「ぼっち」の心境は理解できないんです。もっと単純に言えば、「ぼっち」の扱い方を心得ていない。しかしそこは八幡、地でぼっちを行く彼にはこの問題の解決法が見えてくる。まあ解決法というにはあまりに乱暴ではあるんですけど、それは葉山には永遠にたどり着けない境地。その葉山には登ることのできない頂を、イニシャル「Y」は見ているように思えてなりません。

イニシャル「Y」

あ、イニシャル「Y」ってのはですね、今回葉山が明かした好きな人の名前のものです。今までは、作中におけるクラス内ヒエラルキーを象徴するがために存在したキャラクター、それが葉山隼人でしたが、今回から彼の胸中に関しても少なからず描写されています。それもかなりこの作品においてはコアな部分と言えそうで、葉山クンの重要度は本書で跳ね上がったと言えるでしょう。

ちなみにそのイニシャル「Y」ですが、このシリーズは意外に「Y」が付く名前が多いんです。雪ノ下雪乃(YY)、由比ヶ浜結衣(YY)、三浦優美子(MY)、材木座義…輝…?(ZY)

いや、最後はないな。うん、間違ってもないな。何を言ってるんだ僕は。ちょっと『ドリームクラブ』でもプレイして頭を冷やしてこよう…

気を取り直して。順当にいくならば、過去の因縁が発覚した彼女でしょう。意外と言えば意外ですけど、ラストの八幡との語りが何よりも物語っていたように思えます。こういったところから、間違ったラブコメをするくせに、なんだかんだで比企谷八幡という男はリア充気質も潜在的に持ち合わせていると言えますよね。ズルい男だ。

それでもやっぱり間違ったラブコメをしてしまう因果な男、八幡

3巻のラスト的に、もうこれは“間違った”などではなく“純度100%”のラブコメだろ!と突っ込まずにはいられなかったあの頃。そんなフラグも、八幡という男にかかればバッキバキにへし折られます。

由比ヶ浜は火の消えた花火をぺいっとバケツに放り込むと、また新たな線香花火を手に取った。
「だいたい合ってるからいいの! ……それに、今一緒に花火してる」
「まあ、これはな」
「ちゃんと全部叶ったじゃん。だからさ……、二人で遊びに行くのも叶えてね」
言葉が途切れ、吸い寄せられるように由比ヶ浜を見た。目が合って由比ヶ浜が笑う。ぱちっと火花が咲いた。
そう言われても、俺の答えは決まっている。
「……そのうち、適当にな」


やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。4 / 渡航 / 274ページより

おい!八幡!ちょっとそこに直れ!というかオレと変われ!この甲斐性なしが!猛省しろ!そのチャンス生かさんでどうする!
…と言いたくなるほど彼には自尊心が欠けています。いや、欠けてるなんてもんじゃない。すっぽり抜けてどこかに置き忘れてしまったような、そんな感情とうに捨てたわ!と言わんばかりの行動。由比ヶ浜のかわいらしい純粋無垢な恋心が行き場を失うのはかわいそうで見ていられません。ぼっちを好きになると、こんな弊害が出るのかと何だか感心してしまいました。

彼に足りないもの、それは何と言っても「自分に自信を持つ心」、そして他人を受け入れるための信頼を知り、疑いを捨てることです。まあそれが簡単にできたらこんなエリートぼっちは生まれていないわけですが、あまりにも不器用すぎて読んでるこっちが辛い。こういうケースは本当に誰も報われない。八幡の中では、誰にも干渉しないことで傷付くこともなく傷付けることもなく自己完結できてるかもしれませんが、最終的に人間一人では生きていけないんです。どこかで他人に頼って頼られて、その積み重ねで何とか成り立っています。その関係を、彼は由比ヶ浜と既に持っているんです。彼が犬を助けたことで、彼女は助けられた。彼女が奉仕部に入ったことで、彼の生活の中で確実に何かが変わった。それなのに、いざという時に「ぼっち」の権限を振りかざしちゃうなんて、それはズルい。付き合う付き合わないは別として、真摯に向き合わなければいけない土俵に立ってしまってるんですよ、八幡は。

このままなあなあってのは、イヤだなぁ。だれか彼に自尊心を、少しでもいいから分けてあげて下さい。そうすればみんな幸せになれるのに。まあこうまで思わせてくれる本書のタイトルは『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』なわけで、本当に良くできてるなと思います。

総評

相変わらず超面白い。本当によくできた作品だと思います。

「ぼっち」という生態の描写が妙に生々しくリアリティがあるため、どことなく著者である渡先生への哀愁を感じさせる作風は相変わらずで、そしてほとばしる千葉への郷土愛も相変わらずで、ぶれない作風は4作目にしても安心して読める安定感があります。本書からは、サブキャラだった葉山クンの過去に関しても触れられており、彼が今後どのように物語に絡んでくるのかも楽しみにさせる展開でしたね。

比企谷八幡という男のラブコメは今後も間違ったまま進んでしまうのか。もしかして本気で禁断とも言える戸塚ルートに突入してしまうのか。雪ノ下や由比ヶ浜との関係がどのように進んでいくのかがこのシリーズの肝と言えると思いますが、このままだとどことなく寂しい結末が待っていそうな気がして、八幡には全力で奮い立って欲しいと願うばかりです。彼のラブコメに幸あれ。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。4 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。4 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。4 イラスト集付き限定特装版 (ガガガ文庫)

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