(2)どのような性分化疾患に医学的リスクがあるのですか?

 性分化疾患は、本当に多くの様々な体の状態をカバーした包括用語ですので、この質問に短く答えることはできません。性分化疾患の中には、基本的に体の害がないか、医学的リスクがあってもたいへん小さなものもありますが、一方、医学的な注意が必要な内分泌系の問題がある、もしくはそれから引き起こされるものもあります。もし特定の性分化疾患に関わる医学的リスクを詳しく知りたいなら、その体の状態(疾患)の医学文献を見るか、専門のお医者さんに尋ねられるのが一番です。

 一般的には、性分化疾患が疑われる場合、お医者さんは、どのような性分化疾患でも、患者さんに(命に関わるなど)体の病気が出る医学的問題の原因にもなるか(もしくは将来なるか)どうかを確かめねばなりません。

 たとえば赤ちゃんが、典型的な男性器、典型的な女性器とは異なる形・大きさの性器を持って生まれた場合、お医者さんは、その性器の状態が先天性副腎皮質過形成(CAH)によるものなのかどうかを確かめるための検査を絶対確実に行わねばなりません。CAHの中には、「塩基喪失」と呼ばれる内分泌系の問題がある場合があり、CAHの塩基喪失型を持つ新生児は、もし適切な医学的治療を受けないと、重篤な状態になるか、ひどい時には死亡することもあります。そのような状況の場合、他の人とは違った形・大きさの性器は、本質的に深刻な医学的問題(CAH)の症状のひとつなのです。(ちなみに、典型的な形・大きさをした性器を持って生まれた赤ちゃんの中にもCAHを持っている子どもはいます。ですので、現在日本ではCAHについてのスクリーニング検査(深刻な疾患があるかどうかを調べる全体的な検査)が、すべての新生児に行われています)。

 また、赤ちゃんが他の人とは違った形・大きさの性器をもって生まれた場合、お医者さんは赤ちゃんの排尿システムがちゃんと働いているか確実に調べなければなりません。もし赤ちゃんが尿路感染症のハイリスクを持っているかどうか確かめなくてはならないからです。更に、大人になってから妊娠が可能かどうかそのチャンスを増やすために注意を向けねばならない生殖器の問題があるかどうかも確かめねばなりません。

 もし、すぐには性別が分からない形・大きさをした性器を持った赤ちゃんに、「性腺異形成」(正常な形になっていない性腺のこと)や卵精巣が見つかった場合、お医者さんは、性腺ががん化する可能性があるか確かめねばなりません。お医者さんはたいていの場合、異形成の性腺や卵精巣の精巣部分を切除する早期の外科手術を考えられます。停留したままの精巣はまた、精巣がんのリスクが(特に思春期の後)増大しますので、停留精巣は通常、モニターを続ける必要があり、陰嚢まで下ろす外科手術をするか、時には切除する必要があることもあります。他の性分化疾患のいくつかには、ミュラー管がんのリスクの増大など、生殖器系のがんのリスクが増加するものもあります。

 とは言うものの、多くの性分化疾患は基本的に体への害がないか、あったとしてもとても少ないものです。個別的なケアが、医学的リスクの適切な評価や、そういうリスクの適切な経過観察計画のためには、非常に重要です。

 ここで書いておかねばならないのは、性分化疾患を持つ人に対して行われる、ある種の外科手術やホルモン療法などの介入それ自体が、医学的問題のリスクを高めることもあるかもしれないということです。さまざまな治療のあり方それぞれの、必要性、リスクと利点を注意深く考慮することが、子どもへの医学的介入の決定を行う両親や、ご本人にとって、非常に重要なものになります。ある種の体の状態・状況では、「見守り続けること」が、リスクがあっても緊急性がない場合の、リスクの少ない治療選択だということもあるのです。

性分化疾患とは、「染色体、生殖腺、もしくは解剖学的に性の発達が先天的に非定型的である状態」のことで、「男でも女でもない」「中性」「第3の性」のことや、性同一性障害トランスジェンダーの人々、性自認のことではありません。)