「戦乱学園! 合戦の第一法則・弱い武将はよく攻める」

「私は単に『孫子』の言葉を考えてみてるだけ。<奇抜な手段で勝つ>という意味の言葉があるんだけども、<奇抜な勝ちはない>という意味の言葉も書いてあるの。深淵でしょう?」


あらすじ

晴嵐学園は週末に戦争がある。
戦国時代の国を模した地形、城の変わりの学生寮、そして己の役割に誇りをもって遂行する生徒たち。
膿州・不破寮の寮主である楠木涼子は困難な選択を迫られていた。隣州である尾州の春部が、大国である鈴鹿によって大規模な侵略行為を受けたのだ。春部が落とされれば尾州の残りの国々も時間の問題であり、そうなると不破寮は中央からの資金を確保するルートを失ってしまう。だが仮にも大国の鈴鹿に不破が戦闘をしかけても勝つ見込みは皆無である。動いても動かなくてもお先真っ暗なこの状況。不破寮がこの先生きのこるにはどのような選択をすればよいのだろうか―


非エンタメ作品

陰陽師式神を使わない』等の薀蓄満載で、何故に所属がスーパーダッシュなのかがよくわからない藤原京の久々の新刊。
また薀蓄専門でくるのかと思ったら、表紙やらあらすじを拝見するに学園戦記物っぽい雰囲気。この時点では某『境界線』も頭の片隅にちょっとあってwktk まぁ、この作者に至っては「普通の」ラノベを書いてくる確率は果てしなく低いし、それを望んでもいなかったのだけど…ちょとsYレならんしょこれは…?久々に読み進めるのが苦痛だった。
文章自体はきっちり書いてあって特に問題は無い。文章密度が濃い気もするが、まぁこれも他にも密度高い人はいるしね。唯一にして最高の問題は「何が起こってるのかわけわかんねぇ」ということだった。
一応冒頭に、学園の地図が載ってはいる。しかし、州の名前と国の位置くらいしか書いてなくて川の名前とか道の名前を出されても土地勘無かったり、戦国時代に詳しい人でなければそれらがどこら辺にあるのか理解不能。どこにあるのかわからない地形を引き合いに出して戦略を語られても理解が遅れるんですわ?お?ちなみに寮の内部構造もかなり難解(詳細、とも言えるかも?)だと思ったが、これは後半別段気にしなくても読む上で問題ないと気付いてしまったのでこれは無視。
加えて、人名関連。主人公とか超レギュラー陣クラスは流石に押絵ついてたりして辛うじて記憶には残る。が、それ以外の人達が…誰が誰やら。出番自体は少ししか無いのに無駄に人が多過ぎるのと、名前で呼んだり役職で読んだり階級で読んだりと一人の人物に複数の呼び方があるのが問題。
どこを指してるのか把握しにくい地名+誰が誰だかわからない人名(+特に必要ない寮の内部構造)=理解困難…戦略物でこれは酷い。
ただ、前半は何が起こってるのか(何をしたいのか)さっぱりだったものの、濃尾のメイン面子があつまる中盤以降は具体的な目的が決まってきて読み始めた頃よりは戦略の薀蓄部分のこともある程度は理解できた。武田信玄上杉謙信の戦闘の講習会の内容にかなり助けられた感が…。これをできるだけ前半に持ってくれば良かったのにね。


理解が必要な薀蓄物で諸所の要素により理解が困難なのが一般的には致命的。戦国時代の玄人さんなら楽しめるが、迂闊に手を出すと頭を悩ませる諸刃の剣。素人にはお勧めできない。
完璧に序盤から理解しても面白くは無い気もするが。面白いではなくて、興味深いってのがより相応しい。楽しむより学ぶって感じ。それすら楽しめるかは個人個人の考え方次第かな。私は無理でした。燃素の話とかは結構気に入ったけどね。
あと、終局辺りは濃尾側だけでなくて鈴鹿側の代表的な人物も描写するべきだったのは確定的に明らか。「策を弄しました⇒相手が策にかかりました⇒大勝利!」ってのは方向性的にどうなのよ?ドラマチックな展開を無視したとしても、敵方がどのような思考をしたか、いうのは戦略面でもいい材料だと思うのだがなぁ。

4086304708戦乱学園!―合戦の第一法則・弱い武将はよく攻める (集英社スーパーダッシュ文庫 ふ 2-2)
藤原 京
集英社 2009-01-23