米中の親和性

 気になったので、簡単に考察。

 前提として、アメリカの識者は、歴史的な条件も踏まえて(又、ソフトパワー的な文化発信力、華僑ネットワークに代表される人脈、その他影響力を含めて)、中国がアジアにおける地域大国と見ている。(1)

 シノワズリー的な親近感から、経済的な期待、国際政治における待望まで、アメリカの中国に対する基本的な好感は幅が広い。

 地政上は、太平洋の両岸に位置するアメリカと中国は自然な同盟国と見ることが可能であり、又、日本との緊密な関係が重要であっても、中国本土との協力関係は不可欠とされる。遠交近攻が、地政上も歴史上も米中間で当て嵌まるとする見解だ。
 前掲のブレジンスキーは、地政上、中国はアメリカを自然な同盟国と見ると記述している。さらに、中国を同盟国として取り込むことは、選択肢として在り得るとする。この観点から見ると、日本はユーラシア大陸の外縁を確守して、地政上、アメリカと日本が太平洋の両岸に位置するようにすべきだと考えられる。

 やや、理解しがたいことは、日本とアメリカでは地理上、経済上立場がかなり異なる点が意識されがたいということだろう。
 一つ例を挙げれば、中国が台湾を回収する事について、日本とアメリカでは立場が異なる。その地域は、日本にとって重要な航路である台湾海峡バシー海峡(更には、ルソン海峡)を含むから、日本とアメリカでは重要性が決定的に違うと言える。アメリカの政治的立場からすれば、自由貿易、個人の自由、人権や民主主義において安心できるのであれば台湾の再統合は容認できるという向きもあるのだろう。しかし、日本にとっては海上交通の為、死活的な問題になり得る。

 アメリカには、中国に対する憧憬があるとされている。例えば、George F. Kennanが自国の中国に対する感情的性向にsentimentalityを指摘している。 (2)
 その為に、例えば存外に日本の事情を軽視したり、中国及びその周辺の安定について中国を信ずるが故に楽観的になる過誤の底流には、中国を親和的なものとする見方、アメリカがその心情を投影した中国を現実のそれと取り違えるようなことがあるのではないだろうか。

 中国の台頭は、凡そ予想されていた未来だった。中国を勃興、或いは再勃興する継続して存立してきた大国として重視していく傾向は強まっていくだろうし、アメリカもその例外にはならないだろう。
 ただ、大きく留保をしなければならないことは、米中の戦略的な提携が可能となる時点があったとして、その時に中国はアメリカを好意的に見ているとは限らないことだ。中国には、アメリカに対する幻想があるとは、またはこれからそういった幻想が起こるとは思われない。


(1) S. Huntingtonなどを参照。
(2) Kennan,George F. 『アメリカ外交50年』(原書名:AMERICAN DIPLOMACY)

前掲のブレジンスキー 2005-11-20 Grand Chessboard