実現されないアイディアは、単なる夢物語

 「アイディア自体に価値はない。アイディアは、実現されて初めて価値をもつ。実現されないアイディアは、単なる夢物語に過ぎない。99%のアイディアは、泡のように消えてなくなる」

 これが、スタンフォード大学での研究から学んだエッセンスです。イノベーション研究を目的として、特に途上国でイノベーションをどう起こすかを研究目的として、スタンフォードでの日々を送りました。その結果、得た結論は、アイディア以上に大切なことは、成功するまでやりきるってことです。世界のイノベーションの中心地シリコンバレー、その真ん中にあるスタンフォード大学。ここでは、アイディアを出すこと以上に、それを実現するための挑戦が行われていました。

 アイディアの創造には、努力が必要です。しかし、アイディアの実現は、アイディアの創造より、はるかに困難であり、より一層の努力が必要です。世の中では、新しいアイディアを創造することが大切と考えられ、そこに焦点が当てられがちです。しかし、アイディア自体が目的になってしまっていて、アイディアを出しておしまいということばかりです。例えば、政策提言の研究会はたくさんあって、多くの政策提言レポートが世に出されてきました。ビジネス・プラン・コンテストもあちこちで行われていて、多くのビジネス・プランが出されます。しかし、いずれも、それでおしまい。実現されることはありません。

 結局、「言うは易し、行うは難し」ってことですね。そして、「行う」ってことは、リスクをとって挑戦するということ。最もリスクをとらない人種に属する学者達が、はたからイノベーションを研究して、ああでもない、こうでもないと理屈をこねまわすことに価値を見いだせなくなりました。先日の飲み会の席で、学生の一人からの素朴な質問が耳に残っています。「経営学部の先生方は、あれほどたくさん経営について知識をもっているのだから、自分でやったら成功すると思いますが、どうして自分でやらないのでしょうか?」とっても良い質問ですね。

 それに対する菅原の答えは、「自分でやる勇気がないから、大学に立てこもって、屁理屈をこねているんだよ」。スタンフォードには、世界中から超一流が集い切磋琢磨していました。菅原はここで揉みくちゃにされ、足腰が立たないほどに打ちのめされました。それから半年、アイディアを実現するために、新しい一歩を踏み出します。「実践する学者」と呼んでもらえるようになるために。