六月の雪

緋色は雪の涙なり

Learn as if you will live forever, Live as if you will die tomorrow.
 
 
  

ストーリー・ガール

ストーリー・ガール (角川文庫)

ストーリー・ガール (角川文庫)

19世紀末のプリンス・エドワード島の農園で暮らす子どもたち8人が織りなす日々が、ストーリー・ガールというお話上手な女の子の物語を交えつつ描かれる。子どもたちは生き生きとしており,その頃のカナダや大英帝国の様子もチラリと見え隠れする。才能と個性が豊かな子どもたちの,そして彼らを育む一族の,面白くもばかげた,そして真剣で無邪気な物語。


黄金の道  ストーリー・ガール2

黄金の道 ストーリー・ガール2

『ストーリー・ガール』の続きというより同じ本の下巻と考えて一緒に読むべき位置づけだと思う。前作に登場する8人の少年少女たちの次の一年が描かれる。当然彼らは少しずつ成長するが,周囲の大人たちにも人生の変化が訪れる。ビクトリア女王時代のプリンス・エドワード島の牧歌的な美しい大地の上で楽しい日々を送る彼らだが,それが永遠ではないことを知り,別れの時を迎える。彼らがその後どんな人生を送ったのか知ることができないのは残念だが,少なくとも語り手のベバリーとストーリー・ガールは40年後(55歳)を過ぎても健在であるようだ。
まるでベバリーやストーリー・ガールと共にキング農園の夢見るような美しい風景を目の当たりにしているような気にさせられるのは,さすがモンゴメリの(そして訳者の)表現力だと感じ入る。

しかし,本当に角川文庫は何を思ってこの作品に「すべての夢見る女性に贈る、『赤毛のアン』のモンゴメリ究極のラブ・ストーリー!」などという的外れな帯を纏わせたのか,全くもって理解に苦しむ。私から見ればこの帯の文言は作品を台無しにするものだ。「もう一つの赤毛のアン」なんて呼び方も意味不明。「ラブ・ストーリー」というジャンルはこの物語の主題とかけ離れているし,「夢見る女性」などという表現は陳腐すぎる。通販で買ったからよかったが,書店でこの本を見かけたのだったら,「究極のラブストーリー」とか「夢見る女性」に引いてしまって手に取ることは無かっただろう。
思春期の初期によくある淡い痛みのようなラブは物語の中にある程度散在しているが,物語全体に行き渡る愛はアガペーだ。私はラブ・ストーリーに興味を持つたちではないからそれが無くてもがっかりしないが,逆に,この帯を見て『アンの愛情』に描かれるアンとギルバートのような物語を期待した読者なら失望するだろう。今は昔のカナダの農場での子どもたちの生活と,当時の宗教観や社会観,人々の暮らしが描かれた物語である。私は面白く読んだし,『ストーリー・ガール』の読後,早くみんなに会いたくてすぐに次の巻を紐解いたのだが,人によっては退屈な物語かもしれないと思う。