『コドモダマシ』

反社会学講座』に始まり『反社会学の不埒な研究報告』ときて『つっこみ力』と、昔の本ほど面白いパオロ・マッツァリーノ。なので9月の新刊『コドモダマシ』はスルーを決め込んでいたのですが、私同様に過去作のほうを評価している人たちからも良い評判が聞かれてきたので購入してみた。

コドモダマシ―ほろ苦教育劇場

コドモダマシ―ほろ苦教育劇場

デキちゃった婚って何? 格差って? 体罰ってなぜいけないの? 
一筋縄でいかない問題を、あなたなら子どもにどう説明しますか?
こまっしゃくれた息子にタジタジのお父さん。どこにでもありそうな家族を主人公に、異色の社会科学習を展開します。
暴論のようで正論。ヘリクツと思いきや実は真実。毒も薬もたっぷり仕込んだマッツァリーノ劇場へ、ようこそ!
(春秋社ホームページより転載。http://www.shunjusha.co.jp/detail/isbn/978-4-393-37325-5/ )

なるほど、これはよくまとまっていて面白い。『〜研究報告』で模索をはじめ、『つっこみ力』の段階ではどうにも中途半端でギクシャクしていた「落語スタイル」「面白さ志向」といった方向性が、ここにきてグッと洗練されました。単純に『反社会学講座』と比較すれば、やはり軽め薄めという印象にはなりますが、それは方向性の違いと理解できます。ホームドラマとしても良心的というか、案外と真っ当なものになっており(ここがさりげに凄いとこ)、これは広くお勧めしたい一冊。

未成年の喫煙禁止の理由

ただし「コドモダマシ」、やはりというか、ツッコミどころも散見されます。Amazonのユーザーズレビューでもいくつか指摘されていますが、私がここで取り上げたいのは「父と子のためのタバコと健康」の回。

「なんでこどもはタバコ吸っちゃダメなの」
「なまいきだから」
 またずいぶんと精神論的な回答ですよ。
「健康に悪いからだって、先生はいってたよ」
「それはあとから理由をこじつけて、科学的なフリをしてるだけだ。だから妙にそらぞらしく聞こえる。本当の理由は、オトナがたしなむべきものをこどもが口にしてるのを見るとムカツクからだ」
「こどもがタバコを吸ったことで重い処罰をされるのは、(略)健康の問題じゃなく、文化の問題なんだ」

ぜんっぜん、全く、違います。目的は本当に「青少年の健康のため」です。
ま、青少年というか国民というか「兵隊」の、ですが。
歴史をたどれば富国強兵の明治時代。タバコ税で富国を図ろうとしたが、一方で子供の時分からタバコを吸ってる奴はどうも兵隊として使いものにならないようだ、だから禁止にしてしまえ、という経緯です。
(真面目な解説はこれとかご参照→http://10kin.com/menu4.html
因果が明確で合理的で、ある意味良法だといえるでしょう。
徴兵制が無い現代でも禁止されている理由は? と問われれば何かしら答をひり出す必要はありますが、それだって「成人時の生産性の低下、引いては国力の低下を防ぐため」だと言えば、「妙にそらぞらしく聞こえ」たりはしないでしょう。国民の健康のための法律も、案外とシビアに合理的なものなのです。対して「文化の問題なんだ」という答はどうにも近視眼的過ぎて、ちょっとマッつぁんらしくないのでは?

ところで、世の徴兵制復活論者を対象に「未成年の喫煙についてどう思いますか?」とアンケートを取ったらどんな結果になりますかね? そこらへん含めて厳しく「健全な育成」を思っているのか、それとも単に今どきの若者が嫌いなだけ(=「隠れて吸う分には仕方ない」の容認派)なのか。回答からわかるのではないかと思います。