MLB・デトロイト・タイガースにたとえてみる

「タイムだ」
リーランドはアンパイアを一瞥し、ゆっくりとした歩みでマウンドに向かう。アンパイアはそれを見てマスクをはずし、両腕を上に広げた。
ボールパークに張り詰めていた緊張感が一瞬、ゆるむ。

マウンドにはすでにパッジが駆け寄っている。ケーシーはピッチャーのケツをどやしつける。インジは言葉にならない謝意を示す。
彼のミスで、もうすでに終わっているはずのイニングがまだ続いている。
気にするな、とポランコは言う。後ワンアウトだ、誰かがつぶやく。

「力いっぱい投げろ。お前のストレートは100マイルを越える」
相貌は厳しいままで、しかし自信にあふれた声でリーランドは言う。
ざわめき続けるスタンド。その音はあちらこちらに響いて、マウンドを取り囲んでいるのに、彼の声はベンチからだって良く届くのだ。
「ランナーは気にするな。お前とパッジ相手にベースを盗もうとする奴なんていない。いいか、ジャスティン。コントロールなど気にするな。お前のストレートで投げちゃいけないところなんて、ストライクゾーンのどこにもないんだ。大切なのは、まっすぐを力いっぱい投げることだけだ」
「イエッサ」
小さくうなづくピッチャー。リーランドは、ジャスティン・バーランダー……100マイルの速球とその冷静なマウンド裁きが身上のルーキーの細い体躯に、一つ一つエネルギーを充填してゆく。
「パッジ」
「わかっている。まかせてくれ」
「俺のところに打たせろ。こんどは絶対にミスしない」
「そのとおりだ」
「クールにいくぜ」
「ちょっと寒すぎるけどな」
吐く息は白い。ゲームはタイガースのナインにとっては少しホットになりすぎている。
だが。
「ゲームはまだ始まったばかりだ」
「OK」

ゆっくりと輪が解かれる。
ゲームがまた、始まる。

なるべく直訳

「ちょっとりせき」
「あい」
ディスプレイに文字が流れ、ボクはため息を小さく吐く。
一時間にどれだけの経験値を稼いだかを「時給」などと言うが、これほど時給のいいパーティーは久しぶりだ。
どこの誰かもわからない、かりそめの仲間が6人。出会って二時間経ったか経っていないかぐらいだ。
この戦いが終われば、サーバの仮想世界のどこかでまたあうことすら、まれだろう。
「もどり」
プレイヤーの一人がパソコンの前を離れ、用を足し、戻ってきた。
「おk?」
「おk」
日本語入力のまま”OK”とタイプしていく仲間。人によっては"k"で済ませてしまう。
全員そろったようだ。戦いがまた始まる。
「TPいくつ?」
「100%」
「んじゃ、開幕で」
「あい」
必殺技が使えるだけのエネルギーがたまっているから、戦闘が始まったらすぐに必殺技を使い、大ダメージをモンスターに与えることになった。

「2」
「あい」
6人の仲間一人一人に役割がある。
パーティーが野営するところに、モンスターをおびき寄せる役。
おびき寄せられたモンスターを引き寄せ、ほかのパーティーのメンバーをモンスターが攻撃しないよう身体を張る役。
メンバーの体力を回復する役。
ほかのメンバーに守られながら、ひたすらモンスターのHPを削る役。
ほかのメンバーの能力を上げる、サポート役。

「2」とは、おびき寄せに失敗し、二匹以上のモンスターを同時に相手しなければいけなくなったことを知らせる、仲間への警告。
緊張が走る。
だが。
なぜかボクは、こいつらならうまくやってくれると信じることが出来た。
歌が響き渡る。魔物達のララバイだ。二匹きたうちの一匹を眠らせておいて、そのうちに残りの一匹をやっつけてしまおうという算段だ。

メンバーが散開する。
おとり役のメンバーが駆け抜ける。
遅れてやってくるモンスターが二匹。ララバイの効果が発動し、眠ってしまう。
あちこちから響く、戦士達の抜刀の音。

戦いがまた、始まった。
たぶん、そのときのボクは微笑んでいたはずだ。