不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

深き森は悪魔のにおい/キリル・ボンフィリオリ

 シリーズ旧作で色々あったらしく、チャーリー・モルデカイは美しい妻ジョアンナと、助手兼料理人のジョックを連れ、ジャージー島に移住していた。ところがこの島で、レイプ事件が発生。友人たちの妻が連続で犯され、犯罪は更に拡大してゆく。友人たちとチャーリーは、自警団のようなものを結成するが成果が全くあがらない。業を煮やした彼らは、レイピストがジャージー島の悪魔の力を借りているのではないかと考え、犯人をおびき寄せるべく、かの悪魔の力を殺ぐミサを催すことを計画する……。
 ひょうきんな一人称で綴られる、エロティック・オカルト・ミステリ。ミステリ的なネタ自体は普通なのだが、チャーリーの一人称が性格的で面白いし、下品かつ下世話なエピソードや会話が大量に詰まっている。話の展開もやたら歪で、なぜ悪魔云々やら黒ミサが必要になるのかさっぱり理解できない(誉めています)。風変わりで、格調など皆無な物語。おバカで皮肉に満ちた雰囲気を満喫できるので、その手の読者には強くお薦めしたい。
 なお訳文にはやや問題ありで、チャーリーの語り口、そしてそれに伴ってチャーリーの性格がいまいち一定しない。これだけが残念。

東京都交響楽団

  1. モーツァルト交響曲第31番ニ長調K.297《パリ》
  2. ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調Op.77
  3. ストラヴィンスキーバレエ音楽火の鳥
  • 庄司沙矢香(ヴァイオリン)
  • 大野和士(指揮)

 モーツァルトはビブラートを抑えてシックに。ストラヴィンスキーはテンションを上げて華麗に。
 正直前者は3月に同じオケが広上淳一の指揮で弾いた演奏の方が魅力的であったし、後者についてはロンドン交響楽団で聴いてしまっているので、どうしても見劣りがしてしまった。大野は真面目な指揮者なので、仕掛けに頼らない。それ自体は素晴らしいことだと思うが、同様のタイプであればより上級のオケで聴いたことあったらどうしても不満が残るんですよねえ。決して悪い演奏ではなかった(むしろ良い演奏だった)だけに、非常に申し訳なく思った。
 庄司のヴァイオリン、粗は目立ったがなかなか良かった。情熱的でキツメの演奏、私の好みでした。彼女の実演、私はこれまでシベリウスメンデルスゾーンの各協奏曲で聴いたが、今回が(予想通り)曲と一番相性が良かったように思う。近現代作品でまた聴いてみたい。