不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

QED ventus 御霊将門

QED ventus 御霊将門 (講談社ノベルス)

QED ventus 御霊将門 (講談社ノベルス)

 このシリーズ、歴史ネタは「真っ当な人々を朝廷はいてこましてきた! ひどい!」というものばかりだし、キャラクターの関係性も特に揺るがないし、現代の事件は申し訳程度に添えられるのみ……。しかしこれは反面、作品世界が安定しているということでもあり、それは安心して読めるということでもあるのだ。というわけで、個人的には、それなりの質が担保され軽く読み流せるシリーズとして珍重している。
 さて今回はventusということで、現代の事件の扱いはいつもに輪をかけて軽い(何かストーカーがいますね程度)が、このシリーズの現代の事件に重いものは最早求めていないので、この程度でも全然問題なし。歴史ネタは今回は平将門で、若干仕込みが雑であるようにも思われる*1が、将門ゆかりの名所巡りの趣もあり、楽しく読むことができた。
 なお、次回は現代に大事件が生じる模様。お待ちしております。

*1:高田崇史がこれまで主張してきた他の例と異なり、朝廷は将門に対してなぜこう出たのかが判然としない。

大宇宙遠征隊/海野十三

怪鳥艇 (海野十三全集 第9巻)

怪鳥艇 (海野十三全集 第9巻)

 日本はムーア彗星から採れる超放射性元素ムビウムを手に入れるため、170機・総勢四万名から成る大宇宙艦隊を差し向ける。その中の一機《アシビキ号》の冒険を、乗組員少年風間三郎を軸に描く少年向け作品。
 宇宙船のスピードは遅いし、主人公はいかに少年とはいえ乗組員としての基礎知識がなさ過ぎだが、展開がドラマティックで、考証も意外に(あくまで「意外に」だが)しっかりなされている。そもそも、この時代にあって、ここまで本格的な宇宙冒険を展開したのは偉とすべきだろう。子供向けの娯楽作品としては、大人もそれなりに面白く読める佳作といえる。