近況報告

震災から2ヶ月が経とうとしています。
近くの観光地は賑わいを取りもどし、スーパーの商品棚にはもう空きは見られません。
安曇野に暮らす私達の身辺からは、震災後の非日常的な光景がきれいに消え去っています。
昨日閉会した地元での展示会には、昨年以上のお客様に来ていただきました。
「消費することが東北の復興に寄与するのだ」というアナウンスのお陰でしょうか。それとも、長い自粛生活の反動だったのでしょうか。
よくわかりませんが、少なくとも安曇野にお越しになった観光客は明らかに昨年を上まわっていました。
もしかすると、NHKの朝ドラ『おひさま』の影響だったのもしれません。
しかし、このGWをきっかけに経済活動が上向きになるだろう、と予測する者はほとんどいないはずです。
私達の国は重い十字架を背負ってしまいました。
カラ元気を出したところで、3月11日以前の世界に戻ることはできないのです。
私達も大きな取引先を失ってしまいました。
委託していた作品の消息は未だ不明のままですが、被災された方々の苦難に比べれば取るに足りないことです。
海に面しているのにもかかわらず当地での人的な被害は少なく、隣接して建っているホテルは損傷が軽微だったことから災害の対策本部に指定されました。
ちょっとした地形の違いが運命を左右したのでしょう。
復興はまだ始まったばかりです。
「経済の火を消してはならない」という理屈もわかるのですが、一時停止さえ許されていないのなら、この社会の「メカニズム」には欠陥があると考えなければなりません。
雪にタイヤをとられたとき、経験を積んだ者はアクセルを踏み続けるようなことはしません。
いったんアクセルから足を離し、ギヤをバックに入れたりハンドルを大きく切ったりしながら難を逃れます。
幸いなことに、私達の工房は規模が小さいので小回りが利きます。
環境に異常が生じれば、その環境に応じてすみやかに態勢を変えることができるのです。
この国難の際にもなお、アクセルを踏み続けなければならないと主張されている方々の本心はいったいどこにあるのでしょうか。
国民の命よりも優先して守らなければならないこととは、いったい何なのでしょう。

第41回熔解終了


昨日、表題のとおり41回目の熔解を終了しました。
火を入れたのは昨年の10月20日。そのころは、まだ、最高気温が20度ほどありました。
今はご覧のとおり雪景色となっています。
例によって日付電卓で計算してみたところ、ちょうど90日の作業でした。
平年並みの日数でしょうか。
在庫を確保して早々に火を落とすつもりでいたのですが、幸いなことに展示会でもそこそこの売り上げがあり、ほぼ例年どおりの「年越し熔解」となりました。
それもこれも、作品をお買い上げいただいた皆さまのおかげです。
感謝しなければなりません。
このブログも書き始めてから一年になりました。
近ごろはアップするのも怠りがちですが、書くこともないのに意味もなく書き続けているとロクなことになりません。
ということを、一年かかって学んだわけです(笑)
本年初のエントリーということで、今年の抱負や景況の展望などを、つい、書きたくなってしまうのですが、それも止めておきましょう。
ネガティヴなことを正直に書くと「ネガティヴな結果を望んでいる人間」だと勘違いされてしまうからです。
ですから、本年の心構えをひと言だけ書いて終わりにしておきます。
笑う門には福来たる
これです。
今年は。

池田クラフト展開催


昨日は池田町立美術館(北アルプス展望美術館 *1 )で作品の展示をしていました。
いよいよ、本日から『安曇野スタイル2010 池田クラフト展』が始まるのです。
ふり返ってみれば、自宅のある池田町で、これほどしっかりとした展示会に参加するのは初めてのことでした。
しかも、天井が数メートルもある広々とした美術館です。
こうした立派なスペースを与えられると、つい、日ごろ披露する機会の少ない「大物」をずらりと並べて虚勢を張ってみたくなるのですが、テーマを逸脱してしまってはいけません。
われわれの活動をより広く知っていただくため、いつもの「定番」を並べて(ちょっとごちゃごちゃ詰めすぎていますが)、その傍らに一本だけ「大物」を展示させてもらいました。
展示台は美術館の方々によってすでに設置されていたので、われわれは、作品を箱から出して台の上に並べるだけでした。
作業後、とりあえず展示風景を撮影したのですが、なかなかきれいな美術館だと思いませんか。
まだスポットライトを当てていないので屋内は真っ暗ですが、窓の外の様子がおわかりいただけるはずです。(* 写真は差し替えました)
われわれの作品はともかく、丘から眺めるすばらしいアルプスと、手入れの行き届いた美しい庭をご覧いただきたいと思うのです。
会期は10月30日から11月7日まで。
都会で疲れ切ってしまった皆さん。
安曇野の秋でリフレッシュされてはいかがでしょう。
ついでに、われわれの作品をお買い上げいただき、玄関のシューズボックスの上に飾ってみてください。
もしかすると、これまで皆さんの手からこぼれ落ちていた「運気」が、仲良く手を繋いで帰ってくるかもしれません(笑)

眺めのいい美術館


昨日は池田町立美術館(北アルプス展望美術館 *1 )へ出かけてきました。
といっても、展覧会を鑑賞したのではなく、10月30日から開催される『池田クラフト展』のミーティングに出席したのです。
このイベントは、独立した展示会でありながら、会期の後半を『安曇野スタイル2010』に便乗するといった、なかなか戦略的なプログラムで、われわれが参加するのは今年が初めてです。
これまで『安曇野スタイル』には、職場のある安曇野市の会場で仲間に入れてもらったことがありましたが、今年は、自宅の近所にお住まいの木工作家さんのお誘いに乗って、池田町の作家として地元の美術館に作品を展示することになったのです。
(ちょっと無節操なような気がしますが、別に悪いことをしているわけではありませんよね?(笑))
以前にもこのブログに書きましたが、『安曇野スタイル』とは、安曇野で活動する工芸家が中心となって、2005年に発足した観光イベントです。*2
秋の行楽シーズンに、個人工房や美術館、その他の観光施設がそれぞれ同時にイベントを催し、「安曇野」という広いエリアを、県内外の観光客に回遊していただこうといった趣向なのですが、池田町は「安曇野」の端っこに位置しているので、なかなかこちらまで足を運んでもらえないのです。
われわれの作品が、お客さんの誘引に少しでもお役に立てることができればいいのですが、残念ながら、現実にはほとんど無力と言わざるを得ません。
たまたまここをご覧になっている皆さん。
池田町立美術館は、日本でも有数の「眺めのいい美術館」です。
天気が良ければ北アルプスと安曇平が一望できてしまいます。
そればかりでなく、起伏に富んだ地形を利用した造園も見事で、ここを訪れて「期待はずれだった」とぬかした野郎は過去に一人もいません。
どうぞ、お誘い合わせの上、こぞってお運びくださいますようお願い申し上げます。

マーブルの描き方


上の写真はS3-0の香水びんです。
われわれが「マーブル」と呼んでいるシリーズのうちの一品なのですが、どうやってこのマーブル模様を出しているのか、と訊かれることが多いので、作り方をちょっとここに記してみようと思ったのです。
例によってテキストオンリーですが、ご同業の皆さんなら、だいたいのところは理解可能でしょう。
ということでさっそく始めます。
まずはパーツ作りから。(一日では出来ないのです)
1) ポンテ竿に透きガラスを3度巻き
2) ピンク、白、ベージュなどの不透明色(5〜8色)を 1) に被せる
3) どろどろに溶かして振り回す
4) 直径2cmほどの太さに伸ばして徐冷炉に入れる
5) 冷めた 4) をダイヤソーで4cmほどの長さにカットする
これが、上の写真に写っている色棒です。
色ガラスをどのように被せているのかは、完成したパーツから想像してみて下さい。
1色ずつ順番に、竿元から先端へデローンと垂らしているのですが、用意したすべての色で透きガラスをちょうどいい感じに覆い隠すのには少々のコツが要ります。
一度の作業で20〜30個のパーツが出来るでしょうか。
(あらかじめパーツを作るのではなく、細いケーンを直接つけてしまえば早いだろうと思われるかもしれませんが、そのような方法だと泡が入りやすく、歩留まりが極端に悪くなります)
上のようにして作ったパーツを、ピクチャー(ガレージ、電気炉)で暖めて作業に備えます。
以下は、パーツを使ってマーブル模様を出すまでのプロセスです。
1) 吹き竿に透きガラスを薄く巻く(5mmほど)
2) ピクチャーの中のパーツをトングでつかんで吹き竿の先端につける
3) あぶって柔らかくする
4) パーツの先端を摘まんで竿を回転させ、縦縞を横縞に変える
5) あぶって柔らかくする
6) 千枚通しで横縞を引っ掻く
7) あぶり返して表面をツルツルにする
8) 透きガラスを巻いて香水びんやグラスの形に吹く
どうでしょう。
イメージできたでしょうか。
4) の「縦縞を横縞に変える」というのがわかりにくいかもしれません。
ベンチに座って吹き竿をレールに乗せると(つまり、いつもの作業体勢ですが)、その時、吹き竿の先端には写真に写っている棒状のパーツが、竿を延長するような状態でついています。
あぶり返して柔らかくなったパーツの先端をピンサーで摘まみ、そのまま竿をレールの上で転がすとパーツがよじれます。
回転を加えることで、幅広の縦縞だったパーツは、ネジの溝のような細かい横縞になります。
そこで、6) の作業になるのですが、この横縞になったパーツを、千枚通し(尖った金属の棒)で引っ掻いて模様を変化させるのです。
この作業が「マーブル」なのです。
マーブルとは大理石のことですが、われわれがイメージしているのは「マーブルペーパー」のことです。
皆さんはマーブルペーパーを知っていますか。
昔からヨーロッパで製本に使われているカラーペーパーの事で、水の上に浮いた油性の絵の具を引っ掻いて模様を作っています。
その雰囲気に似ていることから、われわれはS3のシリーズを「マーブル」と呼んでいるのです。
今風に言うなら「ラテアート」ということになるのでしょうか。
珈琲の上に浮かべたミルクを棒で引っ掻いて、ハートやら矢羽根の模様を描くものです。
田舎者ですから現物を見たことがありませんが(笑)
われわれが、どのように引っ掻いて模様を描いているのかは実物を見て想像してください。
一個一個かなり違っています。
そして、手に取った作品を、そのままレジに持っていっていただけたなら、このエントリーを書いた甲斐もあったということになるのです(笑)

納品セレモニー


昨日は豊科カントリー倶楽部へ「笠原杯」の納品に出かけてきました。
上の写真が、その笠原杯です。
コンペの優勝者に持ち回りで授与されるのですが、高さが40cm、カップの径が36cm、重さにして約7.5kgと、たいへんヘビーなものですから、ふだんはずっとカントリー倶楽部に展示されることになります。
ですから、優勝者の手元にはレプリカが渡されることになります。
レプリカ(というかミニチュアというかマケット)は、高さ20cmにも満たない小さなもので、このレプリカも5年分を一緒に納品させていただきました。
肩の荷を下ろして工房に戻ったわれわれに、ようやく本当の休息日が訪れたのでした

動物アップリケ


HPを更新しましたのでご案内申し上げます。
以前、このブログの「廃番リバイバル」で話題にしましたが、お客さんのリクエストにお応えして復活させた「旧シリーズの新作」を数点アップしたのです。
それらの中から『みんなの器』という作品を上に貼りつけてみました。
この作品では5種類の動物たちが輪になって踊っていますが、屈折などの効果でもっと大勢いるように感じられます。
そこが狙いの効果なのでしょう。
表面に絵付けをしているのではなく、サンドブラストで吹き抜いたパーツをホットワークで溶着しているので、作業をしているうちに器のかたちにあわせてびろーんと伸びたりしているわけです。
やたらと手間がかかる上に、遊びの要素が強かったので、ふだんのプロダクションのラインに乗せるわけにはいかず、しばらく廃番のような格好になっていたのでした。
ですが、昔からのお客さんのご要望にお応えして個人作品として復活させたようです。
下の写真は、本体の器に貼りつける前のパーツです。
ここに至るまでに、ロンデルを吹いて、マスクを切って、サンドブラストをかけて、服やら水玉のパーツを乗せて、電気炉で溶かしているわけです。
なんと言いましょうか、なかなか微笑ましい図ですね。