運命の人

心花とまめ。。心花はくしゃみの後です

 2000年9月20日、私は運命の人に出会いました。

 夜の勤務だった私が、検温に立ち寄った部屋にその人はいました。患者さんは人工呼吸器をつけた寝たきりのおばあちゃん。話すことも、こちらが話していることを理解することもできません。でもその人は、おばあちゃんに何やら話しかけていました。30分くらい。
 「ちゃんとリハビリしてくれないと困る!!」
と思い、その人にしっかりリハビリをするように言いました。
 「はあ、すいません」
と言って、おばあちゃんの腕の運動を始めました。
 「リハビリ終わりました」  「お疲れ様でした」とそれから10分位してナースステーションに笑顔で挨拶をしにきました。その時のたわいもない一瞬の会話をした時、
 「この人だ!」
と強烈に思いました。何の根拠か分からないけど、この人と絶対何かあると確信しました。その日の勤務も終わろうかとした時、その人の事を思い出し先輩ナースに、
 「今日リハビリもちゃんとしないで、しゃべってばっかの理学療法士がいたんですよ。
  ちゃんと働けっちゅうの。知ってます?あの人のこと」
 「ばか!知ってるも何も、あの人は理学療法士じゃなくて、外科の医者だよ!」

 やばい。。知らなかった。医者だったのか。。リハビリしっかりやれって言っちゃた。。
 ま、でももうすぐ部署の移動だし、もう顔を合わすこともないか。

 10月1日付けで集中治療室に移動が決まっていたので、のんきにその出来事も忘れ、よーし、しっかり働くぞ!っと意気込んで集中治療室に入ると、オペ着を着た彼が机に座っていました。

 げっっ!いる!あのときの人だ!やばい。絶対怒られる!そうです。あの人は外科の先生。集中治療室に外科の患者さんがいるのは当たり前。だから彼がいるのも当たり前。
 な、なるべく目を合わさないようにしよう。。医者って腹黒いから絶対あの時のことを覚えててやり返されるはず!と思ってた矢先、彼の処置の介助につくよう指示されました。
 はう。ついてないなあ。。
 「目、すっごく大きいね」
びっくりしたように彼が私に言いました。
 「はい。よく虫が入って困ります」
またまたびっくりした顔をした次の瞬間、彼が大爆笑しました。何か変なことを言っただろうか???初めての外科の直接介助。何もわからない私に教えてくれながら、緊張をほぐすかのように、この間の誕生日に初めてくるくる寿司に行って初めてトロを食べてとってもおいしかった事、絵を書くのが好きなこと、昔、犬を飼っていたことなど話してくれました。話を聞きながら「この人だ」と思った感覚がよみがえってきて、そして処置が終わる頃には彼のことが大好きになっていました。

 外科の彼がずっと私の働いている部署にいるわけがありません。彼はよく階段でオペ室や医局やレントゲン室を移動していたので、私も外回りの時はちょっとでも彼に会えるんじゃないかと足がパンパンになるくらい階段を昇降するという、今思うと何て可愛らしいことをしてたのってことをしてました。

 初めてデートをすることになった日の前日は、デパートに新しい服を買いに行きました。
 24年間、グンゼのパンツしかはいたことがなかったけど、産まれて初めて下着もブラとパンツをお揃いにしました。最高におしゃれをして、どきどきしながら待ち合わせ場所で待っていた10月のちょっと肌寒い夜7時、遠目にも暗目にもわかる、黄緑のものすごい蛍光色の半そでポロシャツを着た彼が満面の笑顔でこっちに歩いてきました。思わず走って逃げるとこでした。
 「これ、ベ@@ンのポロシャツなんだ」
 得意気に言う彼に「ふーん」としか言えなかったウブな私。別のデートの時、やっとで長袖を着てきたと思ったら、漫画チックな芋が5つ、はちまきをして走っているトレーナーをまた満面の笑顔で着てきた彼。でも、いちばんびっくりしたのは、「暑い」と言ってそのトレーナーを脱いだら、その下に全く同じデザインのTシャツを着ていたのを見たときは「負けた」と思いました。草スキーに行ったら、「ミヤライス」と書かれたTシャツで上から手を振りながら滑ってきた彼。他人のふりをしました。

 医者だけど、全然いばってなくて、髪も地肌が見えるくらいはねていて、ひげも中途半端に、しかもまだらに伸びていて、でも、患者さんには必ず敬語で目線も同じようにする彼。

 まめぞうの彼をみている方は信じられないかもしれませんが、去年まで、彼はかなりの八方美人で、策略家でした。私も何度泣かされたか。。。でも、自分の人生を真剣に考え、周りの人の大切さに気付き、自分の使命を自覚した彼は今はとてもいい顔をしています。

 私の誕生日を覚えるのに3年かかったけど、私の好きな食べ物を自分の分まで私にくれる彼。
 結婚指輪ももらえてないけど、毎日お風呂掃除をして、私を一番風呂に入れてくれる彼。
 美容室に行って髪型が変わっても気付くのに3日は要するけど、つたない私のご飯をおいしいと全部食べてくれる彼。
 私の大好きなましゃを、横はげと言ってわざと私を怒らせるけど、大きな心で私を包んでくれる彼。

 そして何より心花に逢わせてくれた彼。

 5年前に感じた私の直感はピタリ賞でした。私は運命の人に出会えました。

 ここまでくるのには悲しいことも忘れてしまいたいことも許して欲しいこともたくさんたくさんあったけど、今は嫌なことも受け入れていく覚悟ができる心の準備ができるくらいになりました。

 私はとてもとても幸せです。

 みなさんは運命の人に出会えましたか?

 ちなみに、蛍光色のポロシャツはタンスの奥に、芋のトレーナー&Tシャツは寝巻きになりました。