宮部みゆき『理由』

東京都荒川区の高層マンションの一室で起こった一家四人殺害事件。しかし、その四人はその部屋に住んでいるはずの人物ではなく、お互いに全くの他人同士だった……というお話。
直木賞獲って宮部が一段と名を挙げた大作ですが、これが面白くない。『火車』(→感想)でも思ったけれど、「いい人」が弱者に優しくない制度*1に引っ掛かってしまう悲劇、という構図がまずピンと来ない。名のある登場人物が大量に出て来てそれぞれの事情を語るという形式は大いに期待させるものの、本筋とあまり関係ないところばっかり描き込んであるくせにメインの事件の真相はなんてことないものでがっくり。これでは到底事件が“多くの人々の事情の交わり”の末にあるものだなんて思えない。でも分量のわりに読み疲れもないし、リーダビリティは十分あって、巧いのは巧いんだけど。
で、これ読み終わったので次の日映画版を見たわけです。

*1:この場合競売制度のこと

赤い月

第一次世界大戦の最中、夫と共に満州へ渡った自由奔放で恋多き女・波子は、軍の庇護下にある夫の造り酒屋の成功によって優雅な暮らしを満喫していたが、ソ連の侵攻を向かえ、裸一貫で逃げなければならなくなり……というお話。
うーん、今年最後の一本がこれか。役者の演技も、映像もストーリーもなんとも安っぽかった。色調が不自然にコントロールされた画面は技術的に数段劣っているはずの『カラー・オブ・ハート』(→感想)あたりと比べても全然趣きってものがないし、お話のほうはなんかいろいろ飛ばしすぎ。波子の夫はいつの間に祖国万歳な人になったの?締めのセリフまで寒々しくてある意味清々しかった。
で、問題の出演陣ですが、最悪なのが主演の常盤貴子。役割としては“美人女優”なのにドレスより防災服のほうが似合ったり、ダンスしてるとこが何かの曲芸にしか見えないというのはどうかと。他、波子の元愛人役の布袋寅泰やら諜報部上官役の山本太郎あたりにも大きな問題があるな。その点波子の夫役の香川照之はいつもの“サイコ寄りのヘタレ”キャラなので安心して見られる。やはりこの人は帽子がお似合い。それから意外に悪くないのが波子の想い人役の伊勢谷友介で、あの気色悪い台詞回しもちゃんと活きている上に全キャストの中で一番顔と体が綺麗に撮られている。あと、大杉漣が中国人役で出て来てカタコトの日本語を喋るのが笑えた。