Book Review!


作者:江藤 淳


レビュー: 江藤淳コレクション〈2〉エセー (ちくま学芸文庫) (文庫)

江藤淳の堅い文芸評論を読まない人にも、江藤のエセーは一読をすすめたい。
江藤の日本語の美しさは、戦後日本最高のものであろうし、彼の繊細な平衡感覚と強い美学に支えらられた誠実さを強く意識することができるからである。「保守派」と呼ばれた江藤であったが、他の保守派の論客と全く異なり、敵対するいわゆる左翼陣営からもその孤高の偉業に敬意を払われていた。
そのことはこのエセーを読めばおのずから理解できる。
主義主張の前に、自身の「喪失感」を静かに、しかし強く語り続けた昭和最高のエッセイストとも言えるだろうか。「私は昔がよかったから昔にかえれといっているのではない。むしろ昔にかえれるはずがないという喪失感を語っているのである。」「「平和」で「民主」的な「文化??!
?家」に暮し、敗戦によってなにものも失わずにすべてを獲得したと信じ、その満足感がおびやかされることを「悪」の接近と考えている人たちに、戦時中ファナティシズムを嫌悪しながら一国民としての義務を果し、戦後物質的満足によっても道徳的賞賛によっても報われず、すべてを失いつづけながら被害者だといってわめき立てもせず、一種形而上的な加害者の責任をとりながら悲しみによって人間的な義務を放棄しようとは決してせず、黙って他人の迷惑にならぬように生きている人間もいるということを知っていてもよいだろうというのである」(「戦後と私」)


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