原爆の記憶(3/9)
第一報は特殊爆弾次の日は原子爆弾と変りしも知る
宮地伸一
実験だつたといふ原爆に数多死せり二十世紀の罪に首垂る
山本かね子
原爆を投下せし兵八十余歳の死を報ずいのち全うしたり
山本かね子
原爆に影のみ遺したりし人の魂のかたちこの石の影
佐藤輝子
〈石段に影となりたる人間〉と聞きしより絶対考えまいとす
花山多佳子
原爆を落としし国に随ひて安らぐ空かかすみたなびく
斎藤祥郎
原爆の熱線浴びもがく夢を見つ静けき夜半を降りしきる雪
高橋光義
相手を一瞬にして黙らせ無力化するには、一発で数十万人を殺傷できる原子爆弾は、現在でも魅力ある兵器である。原子爆弾を保有している限り国家は安泰である、と確信しているから、廃止には向かわない。だが、経済戦争でも国が亡びるであろうことを、現代世界は知りつつある。
ホモ・サピエンス(現生人類)の歴史は、せいぜい数十万年でしかないが、地球全体を破壊する兵器を手にしている。憎悪という感情を和らげる方法(宗教、芸術、教育など)の具体策を、人類で共有できることが理想だが、現代の世界情勢を見る限り、ほぼ絶望的である。