CHRISTOPHE BRYCZEK クリストフ・ブリチェック

amz-dom-report2009-01-29

MOREY St. DENISに拠点を置くドメーヌ,CHRISTOPHE BRYCZEKを訪れた。クリストフ・ブリチェックはよく来たねとまるで里帰りした家族のように我々を出迎えてくれた。

このドメーヌを築いた彼の祖父であるジョルジュ・ブリチェック氏は今も健在で4月に97歳になるそうだ。まだまだ元気で毎晩軽くワインを開けてしまうフレンチ・パラドックスのお手本?のような人。2代目であるエドワード氏ももちろん元気で、今日も寒風吹きすさぶ葡萄畑で農作業に勤しんでいる。根っからの仕事人なので畑での作業自体が元気の源なのだと言う。セラーに移り、2007年を樽から試飲した。





1.CHAMBOLLE MUSIGNY 2007
チェリー、フランボワーズ、ストロベリーなどがたっぷりと熟したとても親しみ易く洗練された果実味は多くの人を惹きつけるだろう。酸度の度合いも程よく、複雑味も十分ある。出荷は半年以上先だが、すでに完成されつつあり、今後さらに複雑さが増してゆくのだろう。これは新樽を使わないで1年樽を使う。シャンボールのエレガントさが見事に表現されている。

2.GEVREY CHAMBERTIN 2007
寒い時期のテイスティングは難しいと彼は言う。香りも閉じてしまうので、外交的な印象が感じ辛いからだ。彼はジュヴレは男性的でもともとががっしりとしているので新樽は使わないそうだ。

2007年、2008年は普通に収穫できたと語る。量は変わっていないが、2005年よりはさすがに減ったらしい。2005年は葡萄の選別がとても楽だったが、2007年はそれよりも選別を厳しくしたそうだ。

2008年は雨を警戒してカビが付かない様、風通しをよくする為に、いつもより葉を多く落とした。これによって太陽の恩恵をより受けるようになった。これは湿気をなくすことができるが、雹害時のリスクが高くなる。守ってくれる葉が少ないという事は葡萄が直接ダメージを受けるからだ。

葉を落としたおかげで風通しはよくなり、腐敗した房はなかったそうだ。フルーティでシャプタリザシオンの必要もなく、自分の目指すスタイルである柔らかく飲み心地のよいしなやかな葡萄を収穫できたそうだ。

3.MOREY St. DENIS 2007
より濃厚さが増しているのは、新樽を50%使っている事も理由のひとつだろう。モレの持つパワフルさと新樽の持つヴァニラ、ショコラなどの香りがとても良くマッチしている。

4.MOREY St. DENIS 1er Cru Cuvée DU PAPE JEAN POLE ? 2007
このドメーヌの最高キュヴェであるこのワインは100%新樽で造られる。それなのに樽だけが前面に出過ぎないで果実味とうまく溶け合って、若いうちからエレガントで滑らかな味わいが楽しめるのにはいつも感心してしまう。モレ・サン・ドニの専門家だと自らを評す彼の言葉は自信に満ち溢れている。

よく友人たちとワインを持ち寄ってブラインドで楽しむそうだ。決まって彼のワインはヴォーヌ・ロマネやジュヴレ・シャンベルタンの1級ものとよく言われるらしいが、彼はこれがモレ・サン・ドニの素晴らしさなんだよと誇らしげに語るそうだ。

祖父のジョルジュ氏は孫であるクリストフ氏のワインをあまり褒めないそうだ。良いワインができた時はただ黙ってそれを飲み、駄目だと思えば途端に口を出してくるそうだ。黙っているという事はいいワインだという暗黙の了解が彼の家にはあるようで、近年、祖父はほとんど言って来なくなった。自らの全てを伝えたともとれるが、その祖父よりも彼は父の影響をより受けたと語る。

父であるエドワード氏は14歳から働いているそうだ。ワイン造りに関して全てを教わったが、その父と違うのは収穫を遅くして、葡萄が十分に熟してから行うという事だった。それにより柔らかく飲み心地のよい彼の好みのワインができる。

父のワインは始めは硬いが、30年もの長い熟成にも耐えられると考えている、自らのワインはそこまでを必要とせず、若いうちから楽しめるスタイルを心がけている。同世代の生産者同様、市場の求める味わいも変化していくのだ。
栽培はリュット・レゾネを取り入れているが、基本的にはビオロジックなのだという。除草剤などは使わず、微生物の活動を活発にする為に土を耕すなど基本の仕事をひたすら繰り返す事が大事だと語る。

5.MOREY St. DENIS 1er Cru Cuvée DU PAPE JEAN POLE ? 2008
マロラクティック発酵前の為、酸が前面に出ている。発酵は低温でとてもゆっくりと行われることが、最も理想的なのだと言う。

ビオが本当にエコなのかと言うことに彼は疑問を持っている。ビオの生産者がよく使うボルドー液は、生石灰硫酸銅が使われているが、銅が自然に対して良いとは思えないと言う。実際、万能であるように謳われているにもかかわらず一般家庭での園芸、家庭菜園などでは、ほとんど使用されないという。
ボルドー液はカビの病気だけでなく、細菌性の病気にも有効であるので使う生産者は多いが、彼はこれを使わない。もっと自然に配慮したものがないかと日々模索しているそうだ。

葉を落とすことは彼の父から教わったそうだ。房の周りの葉を取り、房の上は残す。これを4月の終わりから始めると葡萄の実がとても熟し、皮も厚くなるそうだが、やはり雹害は怖い。
彼は雹害のリスクを承知で最善の策を選んだと言う。自然を相手にしているのだから、どうなるのかなんて誰も分からない。でも人間は知識と経験によってそれを克服することができるんだ。毎年、わくわくしながら自然と共にワインを造る、これ以上に楽しい仕事はないとうれしそうに語る。