[Domaine de la JANASSE]

ドメーヌ・ド・ラ・ジャナス
Avignon駅でレンタカーを借り、まずは最初の訪問先であるDomaine de la JANASSEへ。出迎えてくれたのはIsabelle SABON氏。当主であるChristophe SABON氏の妹でドメーヌの運営はこの二人によってなされている。メディア等での露出も必ず二人で紹介されている仲のいい兄妹だ。


クリストフ・サボン氏(左)、イザベル(妹)

少し遅れて南部特有の大らかで屈託のない笑顔でクリストフ・サボンが迎えてくれた。彼は1971年生まれの41才。20才から本格的にドメーヌの仕事に父エメ・サボンと共に携わってきた。エメ・サボンは現在66才。今も元気で過ごしているが、ワイン造りからは3年前に身を引いたそうだ。エメは1991年からドメーヌを引き継ぎ、今日のドメーヌを造り上げてきた。クリストフとイザベルが、その素晴らしいワインを世界に広めドメーヌは今やマニア垂涎のスタードメーヌのひとつとして広く知られることとなった。ちなみにイザベルの夫はヘリコプターパイロットをしており、ワインとは全く関係のない仕事をしているそうだ。


ドメーヌの醸造所に入ると、半裸の小さな男の子を含めた3人がそれぞれ小さな桶で何やら潰しているようなので、のぞいてみるとブドウを手で潰していた。子供が遊んでいるのかと少し思ったが、手で丁寧に破砕しジュースにして成分を分析して収穫のタイミングを計るという立派な仕事だったのだ。ちなみにこの小さな男の子はイザベルの息子。こうやって幼いうち
からワイン造りに携わって体が次第に覚えていく重要な過程のひとつなのだと感じさせてくれるものだった。白は先週の水曜から収穫を始めたそうで、赤は9/10頃から始めるだろうとのことだった。8月下旬から好天が続き、糖度はぐんぐん上がっているそうで、酸等とのバランスを見ながら総合的に判断されるのだ。そんな中、土曜日の雨は本当に恵みの雨だったそうで、適度な雨もとても重要なのだ。天候ばかりはいくら頑張ってもどうすることもできない。ただ祈るばかりだが、ローヌは平均的に良年の比率がブルゴーニュなどと比べ高いことは言うまでもない。

ジャナスのセラーはドメーヌの成長に伴ってか、古くからの建物に新しい建物が増築されている。彼らは現在70haを所有している畑に加え、メタヤージュで10haからブドウを栽培している。祖父の代から畑も増えており、醸造所が手狭になったからだ。
醸造所の設備も新旧それぞれの樽やタンクが理路整然と並べられ、それぞれにあった役目を果たしているようだ。ドメーヌではステンレスタンク、コンクリートタンク、木樽が併用されている。ステンレスタンクはクリストフの両親の代、つまりエメ・サボンの代で造られたものだが、2年前に新たに増設された。ひとつが95hlのセメントタンクも多く新設されている。このセメントタンクは従来のものよりも壁が厚く、壁内に張り巡らされたパイプに水を通すことで、温度管理をさらに正確にできるようになったそうだ。

選別台にしても2010年に最新のものを導入するなど常に革新の道を歩んでいる。ただ2010年は殆ど腐敗果がなく、その性能の素晴らしさを体感することはできなかったそうだが、不良果があった2011年産はその性能を如何なく発揮できたそうだ。仮に新しい選別台の導入が遅れていたら、選別には例年以上の労力と時間が費やされていただろう。選別に時間がかかると酸化のリスクも高まる。それを回避する為にもこの決して安くはない買い物は結果的に功を奏したようだ。



彼らの祖父や父の代の選別は畑のみだったそうだが、さらに純粋な果汁を得るために、畑と選別台の少
なくとも2回は厳しく選別するようになったそうだ。これにより、実際に純度は向上し、ワインの出来をさらに向上させた。

現在は試験的だが、ドゥミ・ミュイを使用しているそうだ。ドゥミ・ミュイとは南フランスの伝統的な600リットルの樽で、ブルゴーニュで使用されるピエス(piece)と呼ばれる容量228リットル樽の約3倍の大きさ。(ちなみにボルドーの樽はバリック(barrique)と呼ばれ、容量は225リットル。ブルゴーニュボルドーの差を本数にしてみれば4本分となる)例えばグルナッシュは酸化にとても弱い品種だ。その為、小樽よりも大樽で熟成させるのが一番適しているとされる。
ジャナスではグルナッシュはより大きなフードルと呼ばれる木樽で仕込まれる。対してシラーやムールヴェドルは酸素を必要とするのでバリックが使われる。

ドゥミ・ミュイと普通の樽では、同じ木樽とはいえ、熟成中に樽とワインの接触面の比率が少なく、酸化のスピードがゆるやかで、南仏のブドウにより適していると言われている。板が非常に厚いので(通常27mmに対して45mm)、理想的な骨格のワインに仕上がるらしいが、Janasseではより大きな樽を使用することで繊細なグルナッシュを仕込んできた。今後、どうなるのか注意して見守りたいひとつだ。

ボルドーのようなアーチ型の天井と立派な石造りの支柱を配したセラーにはオーク樽が整然と積み上げられている。その入り口付近の空いたスペースでテイスティングをした。ドメーヌでは一般客の購入も受け付けていて、セラーからガラス越しにやや遠目ながら見ることができる。ひっきりなしに世界中からの来訪者が訪れているようで、向こう側の購入スペースから見えるこちら側の壮観なセラーを来訪者が見てくる度にこちらと目が合ってしまう。声までは聞こえないが、見慣れぬアジア人を、もの珍しそうに見ていた。

1.Châteauneuf du Pape Blanc 2011
2007、2009年は粘度が高く非常にこってりしていた。凝縮感は高くリッチなスタイルだった。2011年はフレッシュでクリーミーな酸があり、しっかりフィネスを感じることができる。ライチやトロピカルフルーツを思わせる香りがとてもいいアクセントとなっている。2009年からはパプ・ブランもノンフィルタとなっている。


2. Châteauneuf du Pape Blanc Prestige 2011
先週、瓶詰されたばかりのキュヴェ。僅か4樽生産のみ生産されるまさにプレステージキュヴェ。日本への入荷は1〜2ケース程度の超稀少ワイン。柔らかく、濃密でクリスピーな酸が下支えしており、スケール感の大きなワイン。樹齢30年以上のルーサンヌ60%、樹齢80〜85年以上の古木のクレレットとグルナッシュ40%で構成される。



3. Vin de Pays de la Principauteé D’Orange Rosé 2011
プロヴァンスロゼのような軽やかでうきうきするようなワインを造ってみたいと思い手がけたワイン。グルナッシュ、シラー、ムールヴェドルが各1/3で構成される。フルーティで溌剌としたフレッシュさが弾け、さわやかな果実味とほんのり後に残るエレガントな苦みが食欲をそそる味わいになっている。これまでのドメーヌのイメージとは異なるデザインのラベルを採用していて常に変化し続けるドメーヌの印象を体現しているひとつの好例にも思える。


4.Côtes du Rhône Rosé 2011
グルナッシュ50%、シラー30%、サンソー20%のフルーティでゴージャスなロゼ。先述のロゼよりもさらにしっかりとした香り立ちが印象的。爽やかな酸と果実味を備えた親しみ易い飲み心地は大勢でわいわい飲むのに最適な一本。こういうロゼがもっと広く認知されれば、ロゼのマーケットがもっと広がるのにと思わせる傑作ロゼ。



5.Côtes du Rhône Rouge 2011
先週、瓶詰されたばかりのキュヴェ。グルナッシュ50%、シラー20%、残りはカリニャン、ムールヴェドル、サンソーで構成されるJanasseの定番アイテム。2010年よりやわらかくしなやかで飲み心地がいい。このドメーヌのすごい所はどの年でも必ずこの地方の一二を争うほど高いレベルのワインをリリースする点だ。雨が降ろうが槍が降ろうが、ヴィンテージの長所を最大限に活かしながら、テロワールを的確にとらえた味わいを一部のキュヴェに留まらず、全てのキュヴェで表現できる。そう、まるで毎年、200本安打を放ち続けた頃のイチローのように。現在、スイス・エアのビジネスクラスにも採用されている確かな逸品。




6.Côtes du Rhône Villages Terre D’argile 2011
グルナッシュ、シラー、ムールヴェドル、カリニャンが各25%で構成される。カリニャンはフレッシュな酸味を表現する重要な品種で70年以上の古木から産出される。ローヌ・ヴィラージュを名乗ってはいるが、ボーカステル所有のシャトーヌフ・デュ・パプの畑のすぐ隣にあり、テロワールは変わらない。味わいもパプと言っても何ら遜色ない見事な出来。ACローヌで最もコストパフォーマンスが高いと断言できるキュヴェ。


7.Châteauneuf du Pape Rouge 2011
砂地、小石、赤粘土といった異なる区画からのブドウからのブドウが使用される。グルナッシュ70%、シラー15%、残りはムールヴェドル、サンソーから造られる。グルナッシュはフードル、シラーやムールヴェドルはバリックでそれぞれ分けて1年間熟成させた後、キューヴでブレンドされる。その後、落ち着かせてから瓶詰される。




8.Châteauneuf du Pape Cuvée Chaupin 2011
樹齢100年を超えるグルナッシュ100%で造られる。このワインは2/3はフードル、1/3はドゥミ・ミュイで仕込まれた。ドゥミ・ミュイを使用するのはドメーヌの新たな試みのひとつだ。区画は北向き斜面にある為、ブドウ自体の成熟は他の区画よりゆるやかになる。そのおかげで他のキュヴェ以上にフィネスに満ちたワインになる。2010年はまだ若く堅牢で今飲むにはやや早すぎるが、2011年は若いうちからソフトでしなやかで飲みやすい。そしてしっかりとした果実味と酸、フィネスを備えている。瓶詰前ながらも既に大作の片鱗を見せている。


9.Châteauneuf du Pape V.V 2011
平均樹齢60年〜100年のグルナッシュ85%、シラー15%。4つの異なる土壌を持つ区画の葡萄から造られます。南の小石の多い土壌は肉厚さと力強さを与え、Chaupinのような土壌はフレッシュさと酸をもたらすのです。赤粘土の濃い砂混じりの土壌はストラクチャーとボディを与えます。この土壌は北に位置する為、収穫は他よりもかなり遅らせ、その間に必要なフィネスを蓄えるのです。そして砂質石灰土壌はスムースさを与えます。収穫はそれぞれの熟度が異なるのでそれを見極めて収穫されます。非常に高い凝縮感のある色合いで、何層もの豊富な果実の層から構成されている素晴らしい造り。熟した様々な赤い果実、ブラックフルーツ、リコリス、焦がした土、スパイス、ハーブなどの複雑な香り。熟したピュアな果実味をしっかりと感じ取ることが出来ます。力強くもありながら、どこか優美な美しさも兼ね備えた上品なシャトーヌフ・デュ・パプだ。

余談ですが、先週ロバート・M・パーカーJr.がドメーヌを訪問し、同じようにテイスティングしていったそうです。これまでの評価を見ても分かるように、パーカーは彼のワインが大のお気に入り。上位キュヴェは毎年のように100点を連発している。ただクリストフは彼の評価をありがたいとしながらも、決して彼好みのワインを造っている訳ではないと言う。テロワールやヴィンテージの個性がないとそれはワインではなく、ただの工業製品になってしまうからだ。ジャナス以外にも言える事だが、パーカーが高点数を付けている年は濃縮度が高く、分かり易いヴィンテージに偏っているという。しっかりとした酸やフィネスのある彼の考えるグレートヴィンテージへの評価が正当なものではないと感じているそうだ。

来年2月下旬に上海にプロモーションに行く予定があるそうで、それが終わった後、是非日本にも足を延ばしたいと希望していた。日本のワインファンにも会ってみたいし、何よりもあの震災から僅かの月日で目覚ましい復興をしていく日本の底力をこの目に留めておきたいと語っていた。実現すれば彼にとって初めての日本。彼自身も我々も、とても楽しみにしている。

この日はAvignonに一泊。アヴィニョンは歴史ある建築物が立ち並ぶとても美しい町。中世独特の華やかさと文化や芸術が見事に花開いた当時の印象そのままに町が残っている。教皇庁アヴィニョン橋で有名なサン・ベネゼ橋など世界遺産らしい町並みを求めて世界中から観光客が押し寄せている。


この日、宿泊したのはアヴィニョン駅から35kmほど離れたHotel Arène。旧市街の中でも歴史のあるホテルで、外観、館内ともにクラシックなヨーロピアンスタイル。各部屋のドア外側には部屋毎に異なる歴史的偉人、音楽家等の肖像画が貼られているなど、やや奇抜な面もあるが、部屋自体はとても居心地のいいホテル。部屋も割と広く、バスルームはモダンで南仏独特の赤土色のタイルを使った、とても品のある清潔な印象。近くにお立ち寄りの際は是非。


www.hotel-arene.fr