(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「crossing 2 program-B」風琴工房PRESENTS

主宰者の言葉を借りれば、このcrossingという企画は他者の言葉に出会う試みだそうで、サッカーでいえばアウェイの戦いだろうし、剣術でいうならば他流試合ということになるのだろう。主に狙いは役者たちのスキルアップだと思うが、観る側にも(風琴工房というフィルターを通して)質の高い芝居に出会うという楽しみがある。
岸田國士とイヨネスコをとりあげるBプロ。岸田の「命を弄ぶ男ふたり」は、たまたま同じ死に場所を選んだふたりの自殺志願者の物語である。冒頭、列車に飛び込もうかと眼鏡の男が思案していると、そこに顔面を包帯で覆われた男が同じ目的でやってくる。男はどちらもインテリ風で、命をめぐる尊厳や、情緒的なものを棚にあげ、ああ言えばこう言うといった具合に、減らず口の応酬を繰り広げる。包帯男の見た目ミステリアスと、模型の列車が走る舞台装置もいい按配の40分間。
一方、フレンチ不条理劇のイヨネスコだけれど、おお、これは面白いですね。教える側と教わる側の不毛のコミュニケーションを描いて、まさに抱腹絶倒。ふたりの登場人物の噛み合わないやりとりがひたすら迷走していく。不勉強にして初見なので、この「授業」がどれほど原典に忠実なのかは不明だが、アカデミックなペダントリーを自在に扱う中田顕史郎の教師役は逸品。一方、色香溢れる宮嶋美子の生徒もなかなかで、80分間物語のテンションが落ちないのは素晴らしい。いやぁ、これ一本で十分に観客を呼べる素晴らしい仕上がりでした。(120分)

■データ
Aプロまでのインターバルにやよい軒スペシャルハンバーグ定食を食した17:00の回/渋谷ギャラリー・ルデコ
12・24〜12・30
「命を弄ぶ男ふたり」 
作/岸田國士 演出/詩森ろば 
出演/扇田拓也(ヒンドゥー五千回)、北川義彦
「授業」 
作/ウジューヌ・イヨネスコ  演出/詩森ろば
出演/中田顕史郎、宮嶋美子、笹野鈴々音
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