(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「地獄のKiosk」スパンドレル/レンジ#4

スパンドレル/レンジは、(主宰者曰く)実践的かつ実験的な創作を目指して、2005年に旗揚げ。小劇場界の個性派として、その知名度を徐々に高めてきている。耳慣れない「スパンドレル」という言葉は建築用語であり、隣り合ったアーチ構造の間に出来る逆三角形の小空間を主に指すそう。転じて、社会の隙間を演劇で埋めることが目的だとか。(主にHPからの情報)
暗く、日の昇らぬ場所。もしかして、地獄と地続きの地底、それとも核戦争後の未来か?しかし、人々の営みはきちんとあって、山師のような連中が、宝物を捜してあちこちを掘り返している。彼らは、戦利品を手にして訪れる怪しげな売店Kioskで物々交換により食料などを手に入れている。
この世界には、ちゃんと権力者もいて、それに媚びる連中もいる。Kioskの主人一家も後者の例で、娘を玉の輿に乗せて、権力者エンペラに嫁がせることを夢見ている。しかし、それも夢破れてしまい。
蝋燭の灯と弱い照明だけが照らす薄暗闇の中で、蠢くように繰り広げていくお話。といっても、さほど見難くはない。古い言葉を引っ張り出せば、まさにアングラの雰囲気だが、それほどアクの強さはない。
舞台装置や役者たちのシャープな動き、テンポのいい演出などで、暗闇が支配する混沌とした世界の構築性は見事だが、そもそも権力者エンペラの存在を頂点においた世界観はお手軽で、便宜上の設定の域を出ていないようにうつる。またお話も、もったいぶっている割には予定調和の域から踏み出しておらず、いまひとつ迫ってくるものに欠けるように思えた。
いいなと思ったのは、上手上部に設けられたピットで演奏される生の劇伴で、コントラバスアコーディオンというシンプルな編成ながら、情緒あふれるいい演奏を披露してくれる。曲調は、昭和のイメージで、アングラのテイスト入り。これが舞台の温度を幾分か上げているように感じられた。(100分)

■データ 
まさに佐藤佐吉演劇祭のジョーカー的存在だったマチネ/王子小劇場
8・21〜8・25
作・演出/松本淳
出演/藤井びん、北島佐和子、篠原里枝子、さとりさとる、宇鉄菊三(tsumazukinoishi)、橋本直樹(劇団離風霊船)、佐藤リョースケ、佐藤健、多賀友紀、久保田綾子、松本衣実、小松留美
音楽/catsup(熊坂義人/コントラバス、熊坂るつこ/アコーディオン)