(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「サッちゃんの明日」大人計画

鈴木蘭々をフィーチャーした松尾スズキの新作。溌剌としたヒロインが活躍する下町人情喜劇をブラックなテイストで。
サッちゃん(鈴木蘭々)は、下町の定食屋を切り盛りしている看板娘。そろそろ30に手が届こうとしているが、今日も元気いっぱい。そんなサッちゃんには、子どもの頃に交通事故で負ったハンデがあって、今も歩くときは足を引きずってしまう。さらに、父親(松尾スズキ)、おばあちゃん(小松和重)との三人暮らしの家庭には、母親が祖父と駆け落ちしてしまったという暗い過去があった。
彼女のまわりには、なぜか奇妙な人々が次々現れる。前科者の料理人(皆川猿時)、トチ狂った女(家納ジュンコ)、脳性麻痺のセールスマンの後輩で、実は父親がサッちゃんに怪我を負わせたという男(星野源)などなど。そんなある日、高校時代の憧れの先輩で、ダンサーとして成功しているPJが帰郷しているというので、仲良しのつぐみ(猫背椿)に誘われ、彼のアパートを訪ねたサッちゃんだったが。
サッちゃん役の鈴木蘭々は、うーん、正直ビミョーな感じ。手堅く誠実な芝居を見せるのだが、まわりで暴走しまくる個性派たちにどうしても押され気味。難しい役を、最後までさほどブレなく演じたので、まずはよしとすべきなのだろうが。
その彼女を取り巻く個性派たちは、見ていて実に鬱陶しい皆川猿時の空回りギャグといい、後半の重要な役どころとなる宮藤官九郎の道灌というチンピラ役といい、いかにも大人計画的だが、脳性麻痺のセールスマンとおばあちゃんの二役を演じる小松和重がいつになく(失礼)シャープでいい。要所要所でギャグに流れ、緩みがちな空気を引き締めていたように思う。
松尾スズキは、今の時代とイノセントなヒロインのアンバランスを笑いたかったのかもしれないが、今風のキャラである道灌とかが出てきても、古き良き時代を連想してしまい、どうしても現代の話には見えない。それが、北朝鮮のニュースが流れ、一気に現代に引き戻されるラストの一幕がなかなか強烈。しかし、それとて、サッちゃんの物語との乖離はいかんともしがたいのだが。(130分)

□データ
チケット確保してくれた友人に感謝のソワレ/三軒茶屋シアタートラム
9・18〜10・11
作・演出/松尾スズキ
出演/鈴木蘭々宮藤官九郎猫背椿皆川猿時星野源、家納ジュンコ、小松和重松尾スズキ