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 “俊輔システム”で戦った日本代表

 「3連覇がノルマはよくない」と、大会前から言っていました。
 結果よりも、内容やそれに伴う今後の方向性が重要だと。


 ですから、サッカーの内容や方向性を見て今大会における日本代表を総括していきたいと思います。
 結果を見てあれこれ言うのは簡単ですけど、内容や方向性に関してはきちんと分析していかなければ、重要な部分が見えてきませんからね。
 ちなみに、この文章を考え始めたのはオーストラリア戦あたり。負けたからどうこうと言うつもりはありません。



■4バックとゾーンディフェンス
 今大会での日本代表は、今までの戦い方とは違うサッカーを展開していました。
 その中でも一番、変化があったのが守備システムです。
 今まではDFラインも中盤もタイトなマンマークシステムだったのですが、今大会での日本代表はDFラインも中盤もゾーンディフェンス気味で戦っていました。




 これに関しては賛否両論あると思います。
 しかし、マンマークとDFラインに1人リベロが余るシステムに対して批判的な意見も多いようですが、一概にはそうともいえないと思います。


 例えば「リベロが余ることでビルドアップが容易になる」、「リベロが1人余っているため誰かがポジションを崩して前線に飛び出してもフォローがしやすい」、「DFラインで数的優位が容易に作れる」…など。
 特に最後の「DFラインで数的優位が作れる」ことは、強固なDFの少ない日本人のサッカーに非常にメリットのあることだと思います。
 オーストラリアやサウジアラビアのFWにすら手こずってしまったDF達です。今後、世界の強豪と戦っていく際に、2バックが2トップを見る形で守っていた今のゾーンディフェンスで通用するのか、心配な部分もあります。


 もちろん、ゾーンにもメリットはあります。
 マンマークより効率的に守れるし、ラインを押し上げやすい。
 けれど、もっとラインを押し上げるなら今よりも中盤のプレスをかけなけばいけません。
 そのためにも、より中盤に守備的な選手を入れなければいけなかったはずです。


 守り方に関係なく、今大会の日本代表はあまりにも中盤の守備が緩すぎました。
 そして、その中盤の守備をタイトにするためにも中盤の責任をはっきりさせ、サボらせることなく守させるために、オシム監督は中盤もマンマークの守備を選択しているんだと思っていたのです。




 オシム監督は大会前にこのように話していました。


「4人で守るのは基本だ。1列でラインを組むのか、そうでないのかはまた別。自由に対応する。」(J's GOAL
 オシム監督は「攻撃に何人、守備に何人」と人数でサッカーを考えることの多い監督です。
 しかし、この文章を読んだ時、あれ?と思ったのです。


 DFラインが4人が守り、バランスをとる鈴木啓太の計5人で守備組織を作ろうとしていたのでしょう。実際、大会でもそうなりました。
 けれど、今までの守備組織は3バックと両サイドの計5人で守備をし、啓太が中盤のバランスをとる計6人で守備を形成していたはず。
 ジェフでも3バックと坂本、阿部の計5人で守り、勇人が守備のバランスをとる計6人で守備組織を形成していました。



 ようするに、今大会での日本代表は中盤のバランサーがいなかったのです。
 それに加えて、守備組織を形成する選手達以外の守備能力に問題があったため、DFラインの選手達はますますボール際での勝負を求められることになってしまいました。
 これでは中盤の守備が緩くなるのも仕方ないでしょう。



■“俊輔システム”の弊害
 守備が上手くいかなければ、攻撃にも問題が生じてきてしまいます。 
 例えば、オシム監督のサッカーは「サイドで数的優位を作りスピードある崩しでチャンスを作る」ことが特徴だったはず。
 けれど、それも今大会ではうまく出来ていませんでした。


 特に重要なのが、スピードです。
 日本の中盤は判断スピードも脚力の部分でもスピード感がなく、日本の武器の1つである部分で相手を翻弄することが出来ていませんでした。
 いかにドリブルが上手くても脚力がなければ、サイドをえぐることは出来ません(これはオシム監督が俊輔を分析していた時に言っていたこと)。
 実際、サイドを完全に崩した場面は大会を通じて少なかったと思います。


 脚力のある両サイドバックをうまく使うことが出来れば良かったのですが、それも機能しませんでした。
 サイドバックの選手達は守備に追われていたため、オーバーラップも遅れ気味になっていたし、体力も守備で浪費させられていました。
 また、ボランチの1人がフォローしてくれれば、サイドバックも怖がらずにもっと上がっていけたはずです。
 しかし、守備的なボランチの啓太は中盤の守備で一杯一杯。憲剛は攻撃的な選手なため、ボランチによるサイドへのフォローが非常に少なくなっていました。




 ならば中盤の1人を守備的な選手にすればよかったのではないかと思うのですが、そうもいかない理由があったのです。
 それが“俊輔システム”です。
 オシム監督は以前雑誌のインタビューで俊輔を使う場合、周りが俊輔にあわせなければいけないと話したことがありました。
 今大会での日本代表の戦い方は、その時にオシム監督が言っていたシステムそのものだったのです。



 まず、俊輔はチャンスも作るけれどボールも獲られる回数も多いので、獲られても影響の少ないサイドに置かなければいけない。
 次にボールを獲られるから後ろに守備の出来るサイドバックを置く。しかも俊輔はサイドをえぐるだけのスピードがないため、サイドバックは脚力もあってオーバラップを何度もする選手でなくてはならない(加地)。
 中盤に運動量豊富なアンカーを置く(啓太)。
 もう1人のボランチにはパサーを置く(憲剛)。これに関しては説明していなかったけど、俊輔は後ろにパサーがいないとズルズル下がってきてゲームメイクをしたがる癖があるためでしょう。
 そして、これだけだとトップ下がいなくなるため、もう1人のエキストラキッカーをトップ下に置く(遠藤)。


 これに2トップを置けば、もう後ろは4バックと決まってしまいます。
 4バックで固定となれば、マンマークに移行することも難しいですし、ゾーンで守るしかない。
 4バックのゾーンで戦い続けていた真の理由は、ここにあるのではないかと思うのです。




 一応言っておくと、俊輔自体を批判するつもりはないです。例えばもしもっと守備も出来るパサーがいれば、サイドバックの攻撃参加も容易になったかもしれないし、俊輔の左足がチームを助ける可能性もあったわけですから。
 もちろん俊輔にも、まだまだ課題はあるとは思いますけどね。


 けれど、この戦術は明らかに俊輔のためのシステム。それをオシム監督が選択したことが、私にとっては非常に残念に感じるのです。



■テクニシャン達を走らせる
 今回の大会で一番の収穫は、これではないでしょうか。
 遠藤は2戦目以降、どんどんDFラインの裏を突く動きをしていましたし、憲剛も準々決勝から長い距離を走って前線に顔を出していました。


 俊輔もあまり見た目には変わりませんでしたが…。


中村俊輔
「基本的に距離は変わっていないと思うが、タイミングとか、自分がもらうだけではなく(スペースを)空ける動きとかを増やそうとしている。距離の問題ではなく走る質。(パスを)出す側からもらう側の意識を持つようにしている。」
「今は自分に一番足りない、ランニングすることとかを、勉強ではないけど、やっている最中。それをやりつつ大会も勝っていく。」(J's GOAL
 主にランニングの質の面に関して、より意識を強く持って今大会を戦っていたようです。
 これは、今後の日本代表を占なう意味でも、大きなポイントだと思います。



 けれども、途中から出場して中盤をかき回した羽生や、DFラインの裏を取る動きが得意な寿人などと比べれば、3人はまだまだ質も低く運動量も少なかったと思います。
 なのになぜ、俊輔達を優遇して使ったのか。


 もちろん足元のテクニックでは俊輔が上ですが、オシム監督のサッカーは「走るサッカー」だったはず。
 走る選手を基礎にして、テクニシャンを加えるチームビルディングが得意な監督だったのに、逆のことをしています。


 俊輔を使うにしても“俊輔システム”を形成するのではなく一選手として使い、それで上手くフィットしないのであれば、他の選手を使うべきだったのではないか…。
 “俊輔システム”を作ってしまったがために、チームの根底が崩れ、チームの方向性も解らなくなってしまったように感じるのです。




■数的優位よりも個の勝負で臨んだ日本
 オシム監督のサッカーは、攻撃でも守備でも数的優位を作ることが第一の基本です。
 けれど、結局今大会では数的優位よりも、個で勝負したサッカーになってしまったのではないでしょうか。


 テクニシャン達を走らせるにしても、やはり限界はあると思います。
 サッカーライター達は「テクニックがある選手達を走らせる方が、走る選手の足元を上手くするより可能性が高い」とよく言ってますけど、果たしてその根拠はあるのでしょうか。


 遠藤も憲剛もよく走りました。けれど、所属クラブでプレーする彼らと比べて大きく変わったでしょうか。
 俊輔もそうです。俊輔自身、運動量をこれから増やすのは無理だと考えて、ランニングの質の部分を言ったのではないでしょうか。
 けれど、ランニングの質を高めることもまた、容易ではないことだと思います。




 最終的にはバランスだと思います。
 運動量がありランニングの質も高い選手と、テクニシャンの融合。
 それを今大会でオシム監督は見せてくれると思っていたのですが、蓋を開ければテクニシャンばかりのチームになっていました。



■1人1人が考えなくてはいけない
 ともかく、日本代表の戦い方が変わったのは確かです。
 私はそれを“俊輔システム”ではないかと分析したわけですが、違う見方もあってもいいと思います。


 けれども重要なのは、日本代表の戦い方が変わったということと、その変化がいいのか悪いのかを冷静に分析することではないかと思うのです。
 ファンも、マスコミも、選手達も、サッカー協会も。



 私は今大会での戦い方には、今のところ反対です。
 起用選手が変わったことで「前線からのタイトなディフェンス」、「攻守の切り替えの早さ」、「運動量豊富なサッカー」などを失い、得られたものは「テクニックのある選手達を活かすこと」だけになってしまったのではないかと思います。


 そして、何よりも「全員守備、全員攻撃で戦うトータルフットボール」の理念が失われたことが、非常に残念です。
 今のサッカーでは5人で守り、5人で戦うサッカーと言われても仕方がないでしょう。
 これで世界に勝てれば構わないのかもしれません。けれど、そう簡単ではないでしょう。
 

 5人で守り、5人で戦うサッカーをするということは、当然個に頼りがちなサッカーになってしまうと思うのです。
 けれど、オシム監督も言うように「ブラジルには、俊輔や高原より上手い選手達が何十人もいる」わけです。
 そのブラジルなどと戦うことも考えれば、今大会のサッカーでは勝ち進めないでしょう。




 私は、オシム監督がイビチャ・オシムの理想とするサッカーにどれだけ近づけるのか、楽しみでした。
 それが、現在苦しんでいるジェフへのヒントになれば…とも思っていました。


 けれど、私の知る限り今大会の日本代表はオシム監督の理想とするサッカーから、一歩後退してしまったのではないかと思うのです(そういえば、ペルー戦でもそんなことを思ったっけ)。
 走るサッカーをベースに戦っている分、ジェフの方がまだ先を行っているのではないかと思ったほどです。



 無論「今大会は省エネサッカーで戦った。実際にはもっと走るサッカーをする」という見方もあるかもしれません。
 けれど、準決勝で戦ったオーストラリアの選手達は懸命に走っていました。
 途中から10人になってばててしまいましたけど、総じて日本代表よりよく走り戦っていたように思うのです。
 これはベトナムや、韓国などにも言えるのではないでしょうか。


 
■日本人らしいサッカーとは
 戦術は何百通りもあるのだから、最終的に行き着くところは日本人らしいサッカーとはなんなのかだと思います。
 日本人選手を活かすにはどうするのか。
 今大会ではテクニックばかりに重きが置かれましたが、その分日本人の運動量、スピード、組織力などは欠けたように見えます。




 日本代表はどこに進むのか。このまま進んでもいいのか。日本代表の方向性とは、日本人らしいサッカーとは…。
 オシム監督に丸投げせず、再度考え直さなければいけないことだと思います。