記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

★勝手にスパイフェア★  『007 SKYFALL』 by S・メンデス監督  / 『パラダイス・ロスト』 by 柳広司


言わずと知れたスパイ映画の金字塔007の最新作にして、記念すべき50作目。
この節目の作品のテーマはズバリ「世代交代」。
これをテーマにしたのは、版元MGMが経営破たんして、
一旦は製作が危ぶまれ、その再起を誓うという意味も少なからずあるだろう。
それはさておき、中身だが、序盤のアクションはなかなか迫力満点かつスタイリッシュでよかった。
特に近未来を思わせる上海の高層ビルでの手に汗握るバトルは美しさすら感じた。
それだけにそのあとの舞台のウソ臭さが余計におかしくて残念。
そして、せっかく2作前に新生ボンドに生まれ変わると同時に、
シリアス路線に舵を切って成功してたのに、
今回は主演のD・グレイブが前任者P・ブロスナンに見えてしまうほど、
お寒いジョーク炸裂で参った。
まあ、それも原点回帰と言えば原点回帰なのだが。
あと、ろう城作戦で敵を迎え撃つという、スパイの設定無視の最後は、
2流のアクション映画にしか見えない。
適役のH・バルデムはなかなかの怪演ではあったが、同じような役の設定でいえば
『ノー・カントリー』のイメージが強すぎて、それを越えるような悪党になりきれていなかったので迫力に欠けた。
物語としてはボンドとMとの上下関係を越えた深い信頼の絆に焦点を当てたのはよいと思う。
それだけにあの終わり方はちょっと衝撃だった。
あと、余談だが、ある場面で日本のある島が登場してびっくりした。
それと随所に過去の作品のオマージュが隠されていて通としては面白いが、
本編よりそっちの方が気になって仕方がない。


パラダイス・ロスト

パラダイス・ロスト


お次は『ジョーカー・ゲーム』からずっと追い続けている柳広司のスパイ物第3弾。
第2次世界大戦前夜、軍組織の心情を真っ向から否定し、
軍学校上がりではない外様の優秀な人間だけで組織されたスパイ養成機関、その名も”D機関”。
イギリス、アメリカとの戦争へと時代が一気に傾く中、
”魔王”と呼ばれた結城中佐の下、スパイたちが世界をまたにかけて暗躍する世界。
あれだけ深い闇に包まれたダークネスな雰囲気がウリだったのに、
今度の話はどれも色恋の情が絡み合うようなメロドラマ調のようなものばかりだったので、
少しばかり物足りなさを感じる。
それにどの話も、最近話題のメンタリストよろしく、
相手の心理を巧妙に操って相手に志向けさせる類のものばかり。
それも精鋭のスパイではなく、素人やにわか作りのスパイが相手で
結城中佐やD機関の面々が直接的なアクションを起こすような場面が少ないので、
背筋も凍るような心理戦や諜報戦、スリリングな展開に乏しかったように思う。
それでも”魔王”の生い立ちに迫る「追跡」はなかなかに読み応えがあった。