記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

帝国劇場 ミュージカル『レ・ミゼラブル』

ちょうど30年前。まだ小学生だった自分が、
よくわからないまま母親に手を連れられて、初めて観に行ったお芝居、
それが日本初演の『レ・ミゼラブル』だった。
『ああ無情』というタイトルで出ていた
子供向けの世界文学をすでに読んではいたものの
お芝居が何たるか、芸術とは何たるかなどという高尚なことを
思い浮かべることさえままならないような少年ではあったが、
それでも、その時見た圧倒的なエネルギーと心震えるような感覚は
今でもはっきりこの肉体に宿っている。
サントラを買ってもらって、
その後ひたすら「民衆の歌」を聞いて歌っていた時期があった。
今でもソラで歌える。
「戦うものの声が聞こえるか、鼓動があのドラムと響き合えば
新たに熱い 生命が始まる 明日が来たとき そうさ明日が!」



30年という月日を経て、昨日、母親と、
そして自分が観劇した年と図らずも全く同じ年齢の娘と一緒に、
再び感動の世界を目の当たりにした。
生のオーケストラの、時に力強く、時に繊細に奏でられる音の渦、
ほとばしる汗や、激しい息遣いさえも伝わってくるほどの
役者たちの躍動的な歌とお芝居、
天高く届けとばかりに、突き上げられた深紅の旗。
魂が震える感動とはまさしくこのこと。


願わくば、あの時の少年が、その時の詳細な記憶は失っても
その時受け取ったエネルギーの残滓、感動の断片だけは
30年たった今でも心の片隅に大事に大事に残し続けているように
娘の心の中に、何かの火が灯って、
それがずっと残り続けてくれたら、
これほどうれしいことはない。
母から私へ、私から娘へ、つながれていく想いと感動。