ゴジラを倒したのは、オキシジェン・デストロイヤーではない
「ゴジラ」を映画館で見てきた。ハリウッド版ではなく、1954年公開の初代版。
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東京に上陸したとき、あ、ホンモノだ、と思った。やっぱり、マグロ喰ってるようなやつとは違いますね。平成ゴジラ世代なので、1984年のゴジラから、VSデストロイアまでは見ているけれど、そうした平成ゴジラと比較して、決して安っぽく見えることはなくて、むしろ、「ゴジラが存在する」ということに対するリアリティは、以降の作品より全然高いのではないか。そう思った。モノクロ映画であること、ゴジラが基本夜間に現れるようにした演出もそれを助けている。放射能火炎(でいいのかな?)で鉄塔が溶けるシーンもすごかった。壊れるのではなくて、ちゃんと「溶けて」いる。少し調べたところ、水飴を使っているそうだ。どうりで。
ゴジラが実は反核や反戦の映画ではない、という意見*1は、「ゴジラ」を見たことがない人の意見なので、考えるに値しない。けれども結局、日本人にとって、ゴジラとはなんなのか?というと、戦争、兵器、核への恐怖の象徴です。というところで留まるには少し惜しい。
僕は、アンコントローラブルな(=コントロールできない)ものの象徴、と考える。だから、ゴジラは「暴走する兵器と戦争の化身」ということもできるし、「自然災害」という捉え方もできる。暴風雨とともにやってくる描写は、台風や土砂崩れが集落を破壊しているのと、描写としてはそんなに変わらない。劇中では、明らかに自然災害とは違う、と言っているけど、それは劇中での話である。東京の人間は「空襲」を思い浮かべるだろうけど、それ以外の地域の日本人は台風を想起したかもしれない。ともかく、近代兵器が通用しない、鉄コン造のビルディングも容易く破壊される、かつ出現タイミングは読めない。そうした特徴は、人間にはコントロール不可能な対象であることを意味する。
さらに踏み込めば、アンコントローラブルというのは、原水爆のような、落としてはいけないレベルの兵器を持つこと=兵器としてコントロールが効かなくなる、ということであって、それは劇中で芹沢博士が葛藤していたことでもある。
ネタバレだけど、芹沢博士は、オキシジェン・デストロイヤーという、ゴジラを倒せるクラスの兵器をつくりだしてしまう。ただ彼は、そういう兵器をつくれば、世界の為政者たちが自身のパワーゲームに利用するはずだと考える。だから、社会の役に立つレベルまで研究を発展させることができれば研究を公開するけど、そうでなければ研究を闇に葬る覚悟がある、と。
水爆でも倒せなかったゴジラを新しい兵器で葬っても、それは、なにも解決したことになっていない。それは、水爆より強い兵器(もちろん、アンコントローラブルな)が存在するということになって、状況としては、水爆が存在する世界と等価だから。
ゴジラを倒したのは、オキシジェン・デストロイヤーではなく、オキシジェン・デストロイヤーを闇に葬った芹沢博士。さらに言えば、その芹沢博士の持っていた、平和への信念と理性的な決断、ということになる。だって、それがなければ、つまり芹澤博士が生き延びれば、仮に自分の意思と違っても、オキシジェン・デストロイヤーは世界に拡散し、ゴジラなど比ではない殺戮をしていたのだろうから*2。
つまり、「ゴジラ」は、アンコントローラブルなものを、理性の力で止めましょう、という至極まっとうなことを言っている。
そう考えると、この時代の日本人が、アンコントローラブルなものと、どう付き合おうとしているか?ということもよくわかる。芹沢博士はオキシジェン・デストロイヤーを闇に葬った。使わないことにしよう、と決めた。これ、絶対アメリカだったら、こうはならない。ちゃんとコントローラブルな状態を保とう、という結論になるはず。バットマンが悪を根絶したとしても、バットモービルをごっそり廃棄処分したりしない。
なんか、その辺、日本的な割り切りというか、ここから先はコントロールできません、見ないようにします、っていう態度は、良いのか悪いのかなんともだけど、西欧的には「えぇ?」っていう感じなんじゃないだろうか?もちろん、ここから、「自然災害の頻度の高い日本はそうした国民性が発達したのでしょう」論に進んでもいいけど、この手の話はもうこれ以上発展性がないな…
なので、この記事のハイライトとしては、ゴジラを倒したのはオキシジェン・デストロイヤーではなくて、「オキシジェン・デストロイヤーを封印する」と決めた芹沢博士の理性的な決断です、というところで。7月末公開のハリウッド版が待ち遠しい。
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