アートの世界

 娘のアートキャンプが始まっている。4日間で1体のパペットを作るプログラムである。顔はペーパーマルシェ、体はフェルトのドレスという、参加している子どもの年齢を考えると結構本格的なパペット作りで、最後の日にはショーがある。これが楽しいのだ。
 彼女は、ペーパーマルシェは何度か経験しているが、縫い方についてはまったく未体験。なので初めて針を持った日には、興奮気味にやり方を教えてくれた。家に帰ってからもフェルトを縫い合わせることに夢中になり、これまでにくまちゃん用の枕、ペンケース、ポケット付き前掛けなどを、危なっかしい運針、拙い縫い目ではあるけれど、誇らしげに作った。
 絵にしても、粘土にしても、縫い物にしても、没頭できるのが1番の魅力じゃないかなあ。誰かにあーだ、こーだと批評されなかったら、こんなに自由ですてきな世界はないんだけどな。(芸術に評価はつきもので、それが無ければ一般的に存在不可という関係にあるわけだけど……。)それで『てん』を読む。
 ワシテの描いた点、点、点。わたしも「色」が大好きだから、ワシテがいろいろな色と大きさの点に魅せられてどんどん描き込んでいく過程に共感してしまう。男の子が一生懸命「線」を描く場面も好き。一心になるところがいい。娘は、展覧会の様子が好きだった。
 作品は「educate」の意味を説く。語源の「引き出す」行為は、そのままワシテの絵の先生が示してくれた。ありがちな例として……、親って、結果ばかりに気を取られるから「(子どもの持っている力を)引き出す」ことを忘れてしまうんだろうな。これって、結果を気にするプロもどきの人たちにも言えること? 結果を気にするから自分を引き出せなくて結果が出ない。一流になれない悪循環は、ここにありということだろうか。
 娘の通うアート教室の入り口木戸にはねずみが筆を持つ絵が描かれていて、わたしたちはここを「ねずみちゃんのアートスクール」と呼んでいる。この木の床、白壁、白木の家具、そして子どもたちのアートに囲まれた空間に足を踏み入れると、体の底から安らげてしまうんだなあ。1年生になってからも通い続けたいね。中学生で時間がないかもしれないけれど、息子にもクラスを取って欲しいなと思った。(asukab)

てん

てん

四季の絵本手帖『あまつぶぽとり すぷらっしゅ』

あまつぶぽとり すぷらっしゅ

あまつぶぽとり すぷらっしゅ

  • 作者: アルビントゥレッセルト,レナードワイスガード,Alvin Tresselt,Leonard Weisgard,わたなべしげお
  • 出版社/メーカー: 童話館出版
  • 発売日: 1996/06/01
  • メディア: 大型本
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 表紙のにっこりしたかえると可憐なひなぎくが子どもを誘う、雨をたたえる詩の絵本です。一粒の小さな雨のしずくが、川となり大海に流れ込む自然の姿が、水の弾ける音やリズムに乗って豊かにうたわれます。抑えたトーンに包まれるイラストは黄色と赤が中心です。明るく目を引く色調ではありませんが、うっすらとした落ち着き具合が雨の日の静けさと重なり、「音」といっしょにドラマを繰り広げます。
 「ぽとり ぽっとん すぷらっしゅ」「ぽたぽた ぽっとん すぷらっしゅ」――子どもはこの「音」を耳にすると、まるで魔法にかかったかのように雨の魅力にとりつかれます。きっと、自分があまつぶ小僧にでもなった気分なのでしょう。リズムを取りながらいっしょに唱えれば、心地よさが体感できます。「ぽたぽた ぽっとん」「すぷらっしゅ!」と唱え合う快感は、何年も世代を超えて読者を魅了してきたに違いありません。普遍的な魅力が、雨のリズムに存在します。
 たった一粒の小さなあまつぶは、庭の植物にも、森の動物たちにも、そして人間にも平等に与えられる自然の賜物です。ときに大雨となり人畜に被害を及ぼす流れであっても、これは誰にも逆らえない自然の流れです。すべての人間を納得させる自然の摂理を思い描きながら、雨の日が楽しめるささやかな作品です。(asukab)