大人だったら、さらに味わえる絵本

 英国で話題になっていた絵本*1Tadpole's Promise』が、この春米国でも出版された。アマゾンUKで表紙を眺め、注文しようか、米国発売を待とうか悩みに悩んだ絵本である。UK版はペーパーバックも出るし安価……、でも結局春まで待つことにした。
 先日さっそく書店で手に取り、う〜む。これは大人の絵本だとほのかに感じ取る。とじ方がカレンダーとじで、まずユニーク。このおかげで縦の見開きに空間が生まれ、その深さが池のほとりで進展するあおむしとおたまじゃくしの小さな恋をしっとりとユーモラスに演出する。
 「ずっと変わらないで……」と頼まれ約束したにも関わらず、姿を変えていくおたまじゃくし。見かけが変わり裏切られても想い続けるあおむしだったが、いずれは自分も変身する身。この恋、どうなるのだろうと行方を追うと、「え!?」これはあまりにもショックな、でもあっけらかんとした終わり方。娘が「え〜」と驚き、息子がけらけら笑いそうな結末からして、小さな子どもよりは自然界の生態を学ぶ小学生や恋愛を知る大人向きの絵本と言える。お話から一歩離れて眺める視点があれば、思う存分作品の機知が楽しめそうだ。トニー・ロスの軽妙なペンさばきが、幼い読者にしてみたら結構重い最後をさらりと流すように描き、味わい深さを添える……ということになるんだろう。かえるのきょろんとした表情には無垢な親しみがいっぱいで、何かを語ろうとしているようにも見える。これは生態系でのできごとだから、案外自然な成り行きでもあるんだろうなとも思えてきた。
 2匹のやり取りから何を教えてもらおうか。恋愛、真実、人生、宿命……などと考えると、なるほど帰結の衝撃はあらゆることをイメージさせてくれる。個人的に表紙はUK版の方がいいなと思う。(asukab)

  • UK版

Tadpole's Promise

Tadpole's Promise

  • USA版

Tadpole's Promise (Bccb Blue Ribbon Picture Book Awards (Awards))

Tadpole's Promise (Bccb Blue Ribbon Picture Book Awards (Awards))

*1:2003年英国スマーティーズ賞5歳以下部門銀賞を受賞。同賞は子どもの投票によって決定される。

四季の絵本手帖『ジャムおじゃま』

ジャムおじゃま

ジャムおじゃま

 科学者のママが働くことになり、パパは張り切って主夫宣言をしました。お皿洗いに床掃除、菜園作り、赤ちゃんの世話をしながら夕食準備……と完璧に家事をこなすパパはある日、庭のプラムの豊作ぶりを見てジャム作りを思いつきます。
 手始めに詰めた3ビンを皮切りに、木の下、屋根の上に落ち続けるプラムを無駄にしたくないばかりに、パパは毎日ジャム作りに精を出しました。ジャムのビンが足りなくなり、花瓶からバケツ、かめにまでにジャムを入れ、家中プラムジャムだらけの光景に子どもは大喜びです。ママ、娘、息子のお弁当はジャムサンド、お茶の時間にはジャム付きスコーン、ジャムロール、ジャム巻きクレープ、ジャム入りスポンジケーキと、おいしそうなお菓子が並ぶページにも、子どもはうらやましさを隠せません。けれども、朝、昼、晩と毎日ジャムだらけの日々が続けば、人間誰でも飽きがくるというものです。ジャムずくめのあげくの果てに一家が見る悪夢は作品の山場といえ、さらなる笑いを誘います。
 自然の恵みを無駄にしたくないパパの気持ち、それを見守る家族の気持ちがそれぞれの表情に映し出され、1本のプラムの木を巡るコメディーは留まるところを知りません。これからいったいどうなるのか、ジャムの食べ過ぎでお腹の出てしまった一家の行く末は、最後の1行にほのめかされます。 
 駄洒落の効いた邦訳も見ものです。見返しには、プラムジャムの作り方が紹介されています。(asukab)