先願特許権者の実施について

特72条において、後願特許権者は、利用・抵触関係にある場合は自由に特許発明を実施することができません。
では、先願特許権者等は実施できるのか?というご質問がありました。

基本的に、試験で考えるとここはあまり考え無いというのがまずは良いと思います。
それは条文上、あくまで後願者が実施できませんと規定されているに過ぎないからです。
試験としても、とりあえずそこが問われています。

ということで、ここであっさり終わるのが、自分がいう仕事としての勉強では良いと思います。。


さて、この点踏み込みますと、実際は先願特許権者についてはかなり微妙です。
ここについては、地裁判例が一つあります(東京地判H12.8.31 平成10年(ワ)13754号)

先願特許実施の抗弁の成否について
 被告は、本件特許権より先願の被告第一特許及び被告第二特許に係る特許権を有しているところ、被告製品はいずれも被告第一特許及び被告第二特許の各発明を実施したものであるから、被告製品が本件特許権を侵害することを理由とする本訴請求に対し、特許法68条に基づく「先願特許実施の抗弁」を有する旨を主張する。
 そこで検討するに、特許法は、68条本文において、特許権者が業として特許発明の実施をする権利を専有する旨を規定するが、特許権者による特許発明の実施であっても、他人の権利との関係において制限され得ることは当然であり、ある特許発明の実施であっても、それがその特許とは別個の他人の特許発明の技術的範囲に属するような態様でされる場合には、その他人の特許権を侵害する行為に該当するものとして、許されるものではない。そして、この理は、その他人の特許発明が先願であると後願であるとで異なるところはなく、例えば、ある特許発明が先願の特許発明を利用するものであり、特許法72条により、その実施について当該先願の特許発明に係る特許権者の許諾が必要な場合であっても、その利用発明が特許として有効に成立している以上、当該利用発明により付加された発明部分はその先願の特許発明の技術的範囲に属しないものであり、当該先願の特許発明の特許権者が当該利用発明により付加された発明部分までをも自由に実施し得るというものではない。そうすると、被告製品が本件特許権より先願の被告第一特許及び被告第二特許の各発明を実施したものであるからといって、それだけで直ちに本訴請求に対する適法な抗弁が成立するものではない。
 したがって、被告の「先願特許実施の抗弁」は、その主張自体失当というべきである。

条文上は確かに認められていませんので、当然といえば当然な気もします。
なお、後願(下位概念)が、先願の明細書で十分開示されていれば、104条の3の抗弁が認められるかも知れません。
しかし、それもされていない場合は、先願特許権に係る特許発明であっても実施できない場合が出てきます。