隣県フランシュ・コンテにあるアルケ・スナンの製塩所にようやく行ってきた。半円状に配置された建物は意外とこぢんまりとしていて、空ばかりが広大だった。半円の直径にあたる直線上には塀が巡らしてある。監督官の館の真後ろの塀には木の扉が付いていて、その隙間から向こうを覗いたら、寂寞として何も無い風景だった。

半円の中心点に位置する(フーコー以来ベンサムパノプティコンの具現として語られている)監督官の館から労働者たちの住んでいた建物を眺めると、建物の上部に穿たれた円形の窓が目に飛び込んでくる。窓の奥は真っ暗で、得体の知れない巨大な眼に見える。そこから流れ出す視線の方向を伺い知ることのできない、それゆえに常にこちらを見つめ返しているような錯覚を起こさせるような眼。

   
左:正門護衛所のファサード 中央:正門に作られたグロット 右:正門の延長線上にある監視官の館


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左:監督官の館のファサード。円柱部分は上部に向かって細らんでいるのに、角柱のボリュームはほぼ一定で、それが異常な重塊感を与えている。 中央:西側の塩水濃縮所(ベルヌ)と労働者の家 左:労働者の家のファサード


  
左:監督官の館の真後ろに位置する厩舎。モチーフがだいぶ控えめな形で反復されている。 中央:塩水濃縮所、労働者の家、蹄鉄所(東)および樽製造所(西)の全てに反復されている、流れ出して凝固する塩水のモチーフ。 右:監督官の館、厩舎の真後ろの塀に付けられた木の扉



正門を入ってすぐの木の根元には、東側だけ、クロッカスの群生が花をつけていた。