『氷菓』10話について。
以下、メモ的に。
- 『愚者のエンドロール』編の後半戦。
- 前回、2年生たちの案をことごとく論破したホータローが、入須先輩の依頼を受けて真犯人を見定め、ミステリー映画の続きを考案して作品完成に至る展開。
- 千反田さんはウイスキーボンボンによる二日酔いでほとんど出番なし。
原作との違い
なぜ、この10話で入須先輩は3人に言及したのか?
- 入須先輩がホータローに依頼するにあたっての説得材料をより多く見せるためではないか。
- 彼女の説得手順は以下のとおり。
- ホータローが論破した2年生3人はもともと「器」ではなかった。
- ホータローを知る人間が3人いる(上記参照。君の実力を認めているのは私だけではない、という含みか)。
- 急にしおらしいトーンの声で「君は特別よ」と告げる。
- 運が良かっただけです、と答えるホータローに喩え話を交えて「才能ある人間の謙遜がかえって周囲の凡人を傷つける」と釘を刺す。
- 要するに「なだめたりすかしたり」である。硬軟を組み合わせた説得のバリエーションを見せることで、押しの一手(私、気になります!)でホータローに詰め寄る千反田さんとの差を表現する意図もあっただろう。
- また、入須先輩の「君は特別よ」直後にピンク色の花びらが舞ったり、室内が急に明るくなったりするのは、おそらく1話(千反田さんの髪がホータローに絡みつく)との対比表現。同じくホータローへのアプローチだが、千反田さんが天然なのに対して、入須先輩は策略的。
- まあ、入須先輩としては作品が完成すれば良いわけで、とりあえず「使える手は全部使ってやろう」ということかもしれないけど。
なぜ、2年生を試写会に登場させたのか?
- 結論から言うと、キーパーソンは羽場さん。
- 探偵志願者3人のうち中城さんと沢木口さんがホータローの手腕を賞賛するのに対して、羽場さんは無言、しかもすれ違い際に「チッ!」と舌打ちをする。彼らが対照的な反応を示すところがポイント。
- 羽場さんのアクションは、終盤で摩耶花がホータローに「作品の中に(羽場さんの言っていた)ザイルが出てこなかった」と指摘するくだりへの小さな伏線。
- ホータローの努力(あるいはセンス)は、誰にでも受け容れられるものではなかった・・・という側面をより強調するために、2年生を登場させたのだろうか。
なぜ、羽場さんは舌打ちをしたのか?
再び、着席位置について
- 入須先輩が古典部の部室を訪れるくだり。ホータローは今までの席から、彼女の下座(部室出入口に近いポジション。通常、この位置には部員の誰も座らない)に移動する。
- この描写については原作にしっかり記されている。
入ってくるのは無論、「女帝」入須冬実。(中略)俺は礼儀として立ち上がり、自分の一つ前の席を勧める。入須が椅子に納まるのを見て、俺も座った。
米澤穂信『愚者のエンドロール』文庫版199ページより引用。
- 前回書いたとおり、9話における2年生との話し合いにおいては(原作に言及されていないが)ホータローがひとり上座を占めていた。
- 原作ベースでは「先輩を立てる形で(一般的な上下関係をわきまえた上で)上座を勧めた」ニュアンスだが、この解釈では9話の描写と辻褄が合わなくなる。
- アニメ版では、他の2年生たちと違って入須先輩は「ホータローにとって手ごわい相手、畏怖すべき人物である」というニュアンスを強調する意図があったと推測する。
その他、映像演出について
- 上記の「ピンクの花びら」をはじめ、ホータローの心理を表した演出が目立っていた。
- ホータローと里志が学校に向かう途中、入須先輩の依頼を受けたホータローに対して里志が「うらやましい限りだね」とコメントするくだり。顔の向かって右半分が暗いシャドウに覆われている。1秒もあるかないかの短いカットだが、いつも陽気に振る舞う里志の内面を覗いたかのようであった*3。
- 真犯人特定に向けて思案するホータローの心象風景か。無数に置かれたテレビの平野をさまよっている。
- 野球部員の打ち上げた「ホームラン」を目で追うホータロー。不安げな描写の多い10話では珍しく清々しい雰囲気だった。ホームランが示唆するものは言わずもがな。
- 喫茶店の一場面。天井近くから俯瞰するアングルはよく見かけるけど、逆パターンは珍しいのでは。これも人物の見えざる内面を伺わせる趣向だろうか。
- 作者: 米澤穂信,高野音彦,清水厚
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2002/07/31
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