香川まさひと/あおきてつお『島根の弁護士』#28「千羽鶴」(ビジネスジャンプNo.18)

例年この時期には何誌かで終戦企画物の作品が見られるけれど、今年は終戦60周年と言う事もあり、この数年よりも、そういった作品が多く発表されているように感じる。もしかしたら何割かはこうの史代夕凪の街桜の国』の、作品的評価、商業的成功によって企画にGOサインが出た、と言うのもあるのかも知れない。1つの意欲的な作品が賞賛され、評価される事は、後続の作品への水先案内にもなる筈で、去年の秋に『夕凪の街桜の国』が単行本化されて、幾つかの賞を受賞し、単行本も売れて、この夏を迎えたと言うのは、漫画業界にとってもきっと良いことだったのだろう。あ、例年より終戦企画物が増えたのでは?と言うのはあくまでも俺の主観であって、実際の増減は去年以前のデータなんて無いので判りませんけれど。何よりも、増えている、と感じているのは、『夕凪の街桜の国』を読了後の俺が、そういった作品に敏感に反応して目を通しているから、だけなのかも知れない。
で、今回の『島根の弁護士』だけれど、原爆で家族を失い、母と妹の、命を救うのに何にも役に立たなかった千羽鶴への苦々しい思い、それでも帰らぬ家族を捜し求める心。モチーフとしては大変面白いと思いました、いや、面白いって言うと誤解を招くか。正直言うと、98ページ終わり2コマから100ページ目までで、何やら急激にイイ話としてまとめてしまったような印象も受ける。おばさんの抱えた、60年分の痛みと憎悪を、水穂が受け止めきれず、相容れえぬまま終わってしまう方がいいのではないか?、とも思ったけれど、それでは各話完結作品の1エピソードとして重々し過ぎるか。そうは言っても、現代の若者である水穂が、自分がおばさんの過去の重みに対して無力であると自覚した後に、「私…本当に何もできません でもせめて 気持ちだけは…… (中略) 私も一粒の願いを折鶴に託させて下さい」と語るのは、心に沁みる、いい場面だ。何も出来ないけれど、せめてもの思いを託し気持ちこめて折られて送られるのが千羽鶴なのだから。

木村直巳『銃後の春』(ビジネスジャンプNo.18)

戦後60周年平和祈念特別読切第2弾。ちなみに前号掲載の第1弾は、天沼俊『桜さくら』、回天搭乗員に任命された青年と、彼の許婚だった女学生の物語でした。
今回の『銃後の春』ですが、すいません、スケベなオッサンの俺には何よりも未亡人の色香が強く印象に残ってしまいました(苦笑)。隣組班長に手篭めにされる、隣家の若くて美しい未亡人三池環。2月の雪降る日、待避壕で彼女に”手ほどき”を受ける主人公。……そんなところばかりが心に残って、この作品はこれでいいのか?!とも思いましたが、それは、この作品の所為ではなく、ダークサイドなエロスを心に宿した俺の方が、読み手として問題があるのでしょう。きっとそうです。少しはマジメな話もすれば、ここで描かれているのは、戦争の狂気は何も戦場にだけあるのではない、という事である。かつては人の良い酒屋の親父だった松宮が、子供が揃って出征し、女房が遠方の療養所に離れ、身軽になり、隣組班長と言う僅かばかり(なのかどうか判らないが)の権力を手中に収めた事から、隣家の未亡人をいいようにしていく。あ、でも、この手のスケベ爺と言うのは戦争中とか関係なく存在するか。今でも隙あらばどこぞの綺麗な嫁さんをコマしてやろうと目論んでいるジジイなんてご町内に幾らでもいそうだしな。閑話休題。作中で引用されている米陸軍マリアナ基地第21爆撃機軍団司令部の、東京大空襲時の発表、「我々の攻撃目標は非戦闘員への無差別爆撃ではない…… 日本の中心部に集中している工場と戦略上重要な目標を破壊することにある」…昔から米軍はこんな詭弁ばかり弄していたんだ!(怒)。こんなお題目を掲げて、実際には行方不明者を含め、10万人に近い命が奪われているのだ。これは60年前の昔話ではなく、同じような世迷言を唱えながら米軍はイラク……って、これ以上は逸脱し過ぎなので、ここでは言いません。作品の次の項に、早乙女勝元氏のインタビュー、「証言:東京大空襲の真実/知っているなら伝えよう 知らないなら学べ」が2ページ掲載されています。こちらも必読の価値あり、ぜひ読んでみて下さい。