いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「森の魔獣に花束を」小木君人(ガガガ文庫)

森の魔獣に花束を (ガガガ文庫)
森の魔獣に花束を (ガガガ文庫)

剣と魔法が大きな力として存在する世界。クレヲは絵を描くことだけを生きがいに孤独な日々を過ごしていた。だが、名家に生まれた彼は、跡継ぎになるための試練の旅に出なければならなくなる。禁断の森へ踏み込み、そこで半人半植物の魔獣の少女と出逢う。あっけなく捕まったクレヲは、なんとか気を惹いて助けてもらうが、代わりにペット同然に拘束されてしまった。こうして始まった奇妙な共同生活だったが、クレヲはいつしか安らぎを覚えていく。しかし平穏な日々は長く続かなかった……。人と魔獣の恋を描いた心温まる異色ファンタジー


人間の少年と魔獣の少女の交流を描いた物語。
奇をてらわない真っ直ぐなストーリー。ボーイミーツガールの一面もあるのでライトノベル風ではあるけど、作品の雰囲気は完全に童話のそれ。
少年・クレヲ視点では、名家の長男でありながら母と庭師(共に故人)以外には疎まれていたクレヲの凍った心が、少女とのふれあいによってじんわりと溶けていく過程が、少女・ロザリーヌ視点では、捕食対象である人間のクレヲへの感情が珍しいものから手放したくないものになり、さらに掛け替えのない仲間にまで変わっていく様子がと、二人の心理描写が丁寧で心に沁みる。
ラストもハッピーエンドであり、短いながらも最終章後の二人に起きた出来事に想像を掻き立てられるエピローグで、読後感がとても良い。
読むとほんのりあったかくなる、そんな物語。よかった。