いつも月夜に本と酒

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「絵画の住人」秋目人(メディアワークス文庫)

絵画の住人 (メディアワークス文庫)
絵画の住人 (メディアワークス文庫)

国分寺駅から徒歩数分のところに、まるで人の目から隠れるかのように建つ画廊がある。名画の複製ばかりが飾られている、その小さな画廊には、ある特別な秘密が隠されているらしく――。
高校を中退し、その場しのぎのバイトで食いつなぐ青年、諫早佑真。ある日、この世のものとは思えぬ美しい少女に導かれるように、AOKI画廊へと足を踏み入れる。絵画には興味のない彼だったが、画廊のオーナーから頼まれ、雇われ画廊主を務めることに。しかし、働きはじめた佑真は、すぐあることに気づく。
――この画廊の絵、生きているんじゃないか……!?

絵と対話できる青年とお喋りな絵画の住人たちが織りなす短編連作形式の物語。



あらすじや柔らかいタッチの表紙から感じるメルヘンさとは裏腹に、本編は静かで少し暗い雰囲気。ある理由でなるべく人と関わってこなかった主人公が、絵画の住人の願いだったりそれに関わった人間が抱える問題を苦心しつつ解決しながら、周りの人(絵画の住人含む)との交流を深めていく。
人の機微に触れる物語なのでそれだけで惹かれる部分があるが、主人公の普段は遠く、時に思いっきり近くと緩急の激しい人との距離感がアクセントになって物語にグッと引き込まれる。そして、その普段が段々近くなっていくのが分かるのが良い。
また、その絵画が辿ってきた歴史や込められた想いもストーリーに絡んでくるので薀蓄小説的な面白さや、冒頭から何かを隠している風の主人公の真実を探るミステリ的な面白さもある。
起こる出来事のわりに派手さは感じないけど、それが逆に落ち着いてじっくり読める雰囲気を作っていて、久しぶりにしんみりと良い読書時間だった。


秋目先生はジャンルや題材を問わず地味で堅実に面白いもの書くなあ。これからも追いかけます。