いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「飽くなき欲の秘蹟」小山恭平(ガガガ文庫)

飽くなき欲の秘蹟(サクラメント) (ガガガ文庫)
飽くなき欲の秘蹟 (ガガガ文庫)

「異能」は超能力や秘蹟など、そんな呼ばれ方をする不思議な力だ。それは人の願いと共に現れ、いつのまにか消えていくひとときの奇跡。そう稀少なものでもないが誰もが自由に手にできるものでもない。だから持たない者は思う――自分も欲しいと。そしてそこにビジネスチャンスが生まれ、異能転売業が生まれた。主人公・世杉見識の働く秘蹟商会もそんな異能転売業社の1つである。まだまだ規模は小さいが、明日の成功を夢見て彼らは日夜奮闘しているのであった。第9回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作。


パーツによって出来不出来が激しくて主張は青臭い。新人賞らしい作品。
最大の魅力は「異能」の扱い方。人の強烈な願いによって異能が発生するところまではよくある話だが、それを一つの道具で割と手軽に他人に譲渡でいる様にして、商売として成り立たせてしまったのが斬新。
それと、異能の発生理由や買いたい側の視点から話を広げることで、「欲」に対して掘り下げた考察がされているのが特長。その穿った見方には青臭さを感じるものの、相手の心理を深く読み込んで問題解決に結びつけようとする過程は面白い。ただ、その問題解決方法が深く考えた結果とは思えないほど、猪突猛進な劇場型なのには首を傾げるが。
逆に不出来な方はキャラクター。
登場人物が自分を客観視出来すぎていて自分語りが異常なほど饒舌。高校生なはずなのに全く若者らしくないのと、あまりに自分語りが長いと逆にキャラクターが薄っぺらく感じる。
それとあと一つどうしても気になるのが、ダメ親に対する攻撃性。
全編通してダメ親(主に母親)に対する憎悪が滲み出ていて、作者の親子関係が気になって妙に不安になる内容でもあった。
設定の新しさと「人間」を掘り下げていく話の作り方が良かった。続くなら長所を生かす形で続いてほしいところ。