いつも月夜に本と酒

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「翼の帰る処5 ―蒼穹の果てへ― 下」妹尾ゆふ子(幻冬舎コミックス)

翼の帰る処 5 ―蒼穹の果てへ― 下
翼の帰る処 5 ―蒼穹の果てへ― 下

「過去を視る」恩寵の力を持つヤエトは念願の隠居生活に突入したものの、仕事に忙殺される生活を送っていた。皇女は「兄たちの喧嘩を止められるなら」という理由から玉座を取りに行くと言いだし、皇帝からはヤエトの過去を視る力を利用して秘密を知られさることに。さらには魔界の蓋を閉じれば鳥たちが飛べなくなる可能性も浮上し、北嶺では帝国に対する不満が噴出する。ヤエトと皇女を取り巻く環境は徐々に変わりつつある中、少しずつ世界の罅へと近づくヤエトを待ち受ける運命とは――。

ヤエト先生、本当に本当にお疲れ様でした。
5巻は上巻からヤエトがあちこち飛び回る慌ただしい展開だったが、下巻はそれに輪をかけて目まぐるしい。
北からスタートして西へ南へ南へ北へ、鳥と飛び、小人に飛ばされ、異界に飛ばされ、意識を飛ばされと、病弱なヤエトでなくても倒れそうなハードスケジュールで世界を飛び回っていた。
その道中は当然皇女はいなければルーギンもいない、途中からはジェイサルドもいないということで、ひたすらヤエトが思考するターンが続くのだけど、これがもう「苦労性主人公、ここに極まれり」てな感じのまるで禅問答のような内容で苦笑が絶えない。いや、異界での神との対話などはスピリチュアルな空気を醸し出していたから聖書に似た何かか? 
そんなヤエトの奮戦によって事が片付いて残ったのは、どこか厳かな空気の余韻と、ヤエトらしさは堪能できても会話劇が無い寂しさと、フィナーレのしんみりした気持ち。
それらをまとめて吹き飛ばして行ったのが我らが姫様。
まったくこの皇女さまは、とんでもないことをとても楽しそうにサラッと言うね。これはどんなに無気力になっているヤエトでもツッコミを入れざるを得ないし、つられて元気にもなるわ。皇女的には大きな前進、ヤエトに少しの譲歩があって、これから皇女の怒涛の攻勢が始まるかと思うとニヤニヤが止まらない。
終わらせる為か慌ただしい展開にはなってしまっていたけれど、最後までヤエトらしさを感じられて、世界が落ち着いて明るい未来を夢想できるラストで、最後の最後で最も好きだったトリオ漫才がほんのちょっとおまけで付いてきて感無量。