いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「読者と主人公と二人のこれから」岬 鷺宮(電撃文庫)

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)
読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

この物語さえあれば、他に何もいらない。この小説『十四歳』と、その中に確かに息づく主人公、トキコがいれば――。
だが、彼女は俺の前に現れた。
灰色の毎日の始まりになるはずだった、新学年のホームルーム。黒板の前に立った彼女こそは、俺が手にした物語の中にいたはずの「トキコ」だった。
物語の中にいる「トキコ」と、目の前にいる「柊時子」のあいだで、奇妙に絡まってゆく想い。
出会うはずがなかった読者と主人公の物語。その結末に、あるものは――。
「――だから、わたしの初恋はエピローグのあとに始まるのです。」

とても甘酸っぱかった。恋愛小説の醍醐味が詰まっていた。
それだけにおしい。主人公の性格さえちょっと違えば好みのど真ん中ストライクだったのに。
主人公の細野少年が鈍感で素直じゃなくて腰が重くて常にネガティブ。鈍感と素直じゃないのはいい。恋愛小説男主人公の基本装備だ。でも、ネガティブがこじれて言動が不誠実になっているのと、動き出しが遅すぎるのがどうにも受け付けなかった。最たる例がラストシーンのひとつ前。あの小説を読んで、即彼女に連絡ではなくまずは友達に、だった時の肩透かし感は半端じゃなかった。自分が感じたまま動けよ。
もどかしさを感じるのが恋愛小説の醍醐味で、初めから感じたまま動いていたら物語にならなくなってしまうのはわかってはいるけども。それでも彼が気に入らなかった。
一方で、ヒロインの時子の可愛さは格別だった。
おどおどした小動物のような第一印象から、主人公と仲良くなり、その友達と仲良くなるにつれて、頑張って自分を出そうとする「ちょっと無理してる感」が堪らなく愛おしい。好きになった相手への一生懸命さが隠しきれていないところが特に。また、その結果空回りする内容が、特殊な出会いをした二人だからこその失敗になっていて、この作品だからこそという色が出ていたのも良かった。
主人公の好き嫌いは完全に好みの問題なので、恋愛小説好きな人、普段大人しい娘が頑張っている姿が好きな人には手に取って欲しい作品。