いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「語り部は悪魔と本を編む」川添枯美(ファミ通文庫)

語り部は悪魔と本を編む (ファミ通文庫)
語り部は悪魔と本を編む (ファミ通文庫)

拾い上げ作家(デビュー未確約)の中村雄一は、理想に限りなく近い女性の絵美瑠と出会い、交際することになる。しかしある日、絵美瑠が雄一の新たな担当編集者であることが発覚!! 二人は動揺するも雄一のデビューに向けて、恋人としてだけでなく、作家と編集者としても頑張っていこうと誓い合うが、二人の前にはデビューを阻む悪魔のような編集長が立ちはだかる! 二人の夢の行方は――!? 今“一番応援したい”出版業界の恋と戦い!

なんて恐ろしい作品なんだ。
作家を目指す主人公が、自分の理想のタイプの美人編集者と少女漫画の様な出会いを経て恋仲に。なんていうワナビ垂涎のシチュエーションで夢を見せておいてから、デビュー前の壁とデビュー後の壁、そして最もリアルな収入の問題を取り上げて現実を叩きつけ、千尋の谷に突き落とすという悪魔のような所業。
はい、特にそういった夢のない私は、大変楽しく読ませていただきました。上げるところも落とすところも。
まあ、そこまで徹底的に落としているわけでもないけれど、リアルな数字と状況が書かれているのは事実。でもそのおかげで、デビュー前の何かが足りない作家志望と問題を起こして配属変えされた編集者が、自分の問題を半ば自覚し半ば分からないまま足掻いている姿にリアリティが出て、そこに青春と成長を感じられる。また「作家という生き物」という言い回しで書かれる主人公の苦悩は、不器用な生き方しかできない作家の思考がトレースできるのも興味深い。
それとは対照的に、上げるところ=恋愛モードの時は思いっきり甘く、かつ初々しく、ちょっと呆れるくらいのバカップルぶりを見せてくれて、メリハリが付いているのが良いところ。
ただ、作中で何人かから語られるラノベ論には共感できないかな。
敏腕編集者のいうラノベより、彼の書く肉食系女性教師がヒロインのラノベの方が断然読みたいと感じるもの。童貞力でヒロインを語るなら、清楚を絵に描いたようなキャラより、上手にリードしてくれそうなお姉さんキャラの方が人気出そうだ。そもそもこの作品自体が、付き合って早々に酒豪っぷりを発揮したり、微妙に空気読めていなかったり、しまいにはキレて怒るヒロインの生っぽさが良いところなのに。
22歳と24歳の等身大の恋愛模様と新米社会人としての奮闘が読める良作。ファミ通文庫というよりはメディアワークス文庫っぽい作品。



しかし九段下先生の今後は少々心配ではある。
だってデビュー後に出来るであろう作家仲間に、こんな羨ましい状況にあることがバレたら、後ろから刺されかねないものw