特定健診日記

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ランタス(グラルギン)と発癌との関連について

インスリンの分子構造をごく一部、改変することで、吸収特性を変え、さらに使いやすく改良した「インスリンアナログ製剤」はここ数年、急速に普及してきていましたが、ひょっとしてひょっとするとそこに「落とし穴」もあるかもしれない・・ そんな不穏なニュースが先週末から世界を駆け巡っています。


昨日(7月1日)、日本糖尿病学会ホームページ上で下記のようなステートメントを発表しました。

6月26日、ヨーロッパ糖尿病学会(EASD)は、サノフィ-アベンティス社が販売しているインスリン製剤ランタスと発癌との関連についての一連の論文が学会誌Diabetologiaに掲載されることになり、そのうち癌の頻度が高くなるという報告とそうではないという報告があり、結論には達していないと発表しました(http://www.diabetologia-journal.org/cancer.html)。まず現在、インスリンを使用している患者さんは、ご自身の判断でインスリンの注射量を変更したり使用をやめたりしないでください。また、現在のご自身のインスリン治療に不安を感じていらっしゃる方は、ぜひ主治医にご相談ください。今後、日本糖尿病学会では本件に関して引き続き情報収集を行っていくこととし、厚生労働省や日本糖尿病協会とも連携しながら、必要な情報を提供していきたいと思います。


文脈としては、まず、2型糖尿病の人は癌の発症リスクがやや高い、という古くから知られた疫学的事実があります。その理由もまだはっきりと解明されているとは言えませんが、インスリンそのものにIGF-1受容体や(癌細胞に特異的な)変異型インスリン受容体を介する細胞増殖促進作用があるため、という学説があります。これに関連して、夢のインスリンとされた吸入型インスリンに「肺癌の発症リスクあり」という不安が持ち上がり、開発が中止になってしまったということも2年ほど前にありました。そして今回、問題になっているグラルギンですが、in vitroの実験系でIGF-1受容体に対する親和性が天然型ヒトインスリンよりも数倍高い、というデータもあるようです。ただし、体内でグラルギンは一部、代謝を受けて変化してから循環系へ入っていくため、in vitroとin vivoとの間にはズレがあっても不思議はありません。


今回、「グラルギンは発癌リスクとなる」としている論文2報のうちの1つは、用量依存性(つまり多く使っている人はそれだけ高リスク)があるというデータを示しており、逆に考えると低用量で使っている場合は実質的な問題にならない、とも言えそうです。また、発癌との関連は認められていない、との論文も複数、同時に掲載されています。


参考までに、用量依存性を示したデータ(元論文はこちら)を下記に載せておきます。左側が発癌リスク、右側が死亡リスクです:


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