マンスリー・ブリコメンド 新コンセプト(2015年5月)

2011年7月に始まったこのマンスリー・ブリコメンドも、私が2013年4月に管理人に入ってから早2年です。「ブリコメンド」とは、ブリコラージュ(寄せ集めてものをつくる手仕事)とリコメンド(推薦する)を掛け合わせた、初代管理人藤原ちからの造語です。私もこの名前が好きだし、これを引き継いでいきたいと思っています。

でも、この2015年に演劇をおすすめするということは、2011年とは違った覚悟がいることかもしれません。

このブリコメンドが始まった当時、小劇場演劇は、次々と若い才能の飛び出す勢いのあるジャンルとして注目されていました。斬新な手法で注目を集め、シンデレラストーリーの階段を駆けのぼっていった人たちもいます。このコーナーがつくられた動機には、そうした人々をバックアップして、より多くの人に彼ら/彼女らを知ってもらいたいというものが含まれていました。

ゼロ年代の終わりから2010年代のごく初期まで、プライベートな記憶の描写や、それを扱う作り手の繊細な手つき、言語センスの乱反射は、そのきらめきで多くの人を魅了しました。彼らは、記憶やそれに準ずる身近な問題意識をまず先鋭化させ、手法を確立することで、より大きな世界を相手取るような作品をつくっていく――かに見えました。

でも革命は起きませんでした。今のところ私はそう思います。乱反射していたセンスの彫琢は、いまだ発展途上です。

少しずつ、小劇場をめぐる風景が変わっているのをここ数年、感じてきました。かつて私も審査員を務めた「CoRich舞台芸術まつり!」は、参加団体100を超える一大イベントでしたが、2015年は残念ながら開催されませんでした。経営上の理由ではありますが、小劇場演劇が活性化している状態であればそんなことはないか、少なくとも中止に異議を唱える人たちがもっと現れたはずです。F/T公募プログラムの優秀作品を決めるF/Tアワードは、2012年も13年も海外勢が受賞し、日本の若手たちは苦杯を舐めました。若手演出家の登竜門のひとつと言われる利賀演劇人コンクール2014にいたっては「該当者無し」という寂しい結果です。岸田國士戯曲賞の受賞者も、近年は若手ではなくベテランが続いています。

演劇の人気が落ちたわけではないことはわかっています。人気を集め続けるカリスマ的な演出家もいるし、ジャニーズの舞台や2.5次元ミュージカルなどもかつてない隆盛を極めています。でもそれは、観客の欲望によって舞台芸術が消費されていくということと紙一重です。演劇が、カタルシスの材料になる状況を私はとても危惧しています。目の前で、生きた俳優が動いている感動と興奮に飲み込まれるのはたやすい(プロパガンダや洗脳への悪用は、演劇には向いているでしょう)。演劇を、ただの感動の確認と自己慰撫のための道具に貶めることを、どうして私が許せるでしょうか。

それでも私は、そしてブリコメンド執筆者たちは、劇場に通います。ですが、新しい人を発掘し、ここにすばらしい人がいるから見て見てと叫ぶようなおすすめはもうしたくありません。もちろん、若い人の作品を観に行くことをあきらめるという意味ではないのです。ブリコメンド執筆者は、みな愛情深く、演劇のことも作家のことも観客のことも大切に思っています。誰かがすばらしい作品をつくれば賛辞は惜しみません。でもそれは、惰性や手癖でつくられた作品を厳しく見つめるという意味でもあるのです。

長くなりました。

お芝居を久しぶりに観たいけれどどういうのがいいかしら? とか、来週は何をやってるんだっけ? というように、お芝居が初めてではない人には、マンスリー・ブリコメンドのカレンダーはとても役立つでしょう。小劇場はなかなか行ったことがなくて……という人にも取っ付きやすいラインナップを目指しますので、ぜひ毎月見に来てください。

このページでお芝居を選んだあなたが、新しい価値観に出会ったり、作品のアイディアに大いに笑ったりして、昨日よりも豊かな気持ちで今日を生きることができますように。



2015.5.3
マンスリー・ブリコメンド2代目管理人 落 雅季子