ぼくのメジャースプーン

辻村深月さん。これもまた自分だけでは手に取りようがなかった本で、紹介してくれた友人に感謝感謝。
えっとですね、普段、国産のミステリーとか読まない私と同類のひねくれた人たちにもこの小説はおすすめできます。私からも。自信を持って。
とにかく読み味はすっきり軽いのですが、主人公である「ぼく」からみた「ふみちゃん」の描写が素晴らしいのです。この序盤があるからこそ、中盤への入り口となるとある陰惨な事件がものすごく痛いし、終盤の「ぼく」の決断に涙が溢れてしまいます。
中盤はまるで道徳の授業のようですが、柔らかい言葉遣いながら、言ってることはたいへんに厳しい。それこそ伝統的な、そして最新の哲学問題を深く考え抜いたうえで、わかりやすい例え話に置き換え、読者にさまざまなことを考えさせます。出てくる人すべてとにかくめちゃめちゃいい人(陰惨な事件を引き起こす犯人を除く)ばっかりなのに、それぞれの考え方にはどれも欠点もあるのもすごくいいと思う。そのあたりもたいへんに厳しい。
しかし読み終わったときの読後感は、とにかく「ぼく」を抱きしめたいの一言に尽きると思います。よく頑張ったね。すごく頑張ったんだよね。って。
いわゆる「仕掛け」満載の本だし、ものすごく読みやすいので普段文章を読まない人にも向いてると思います。そして辻村さんは、そういう人にこそ「物語」の力を伝えようとしているように感じる。こういう小説家がいるんだなあ。

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

名前探しの放課後

「ぼくのメジャースプーン」があまりにも面白かったので、そのままの勢いでこちらも一気に読了。うん。好みとしては「メジャースプーン」だけど、これもこれで良いんじゃない。

ちょっと出てくる人たちがいい人すぎるのは気になるところ。こちらも「仕掛け」満載でネタバレしちゃいけない小説なんだけど、最後はえー!そうだったの?という驚きが待っていて、すっごいいい話だけど、こんないい人ばっかの学校なんてあってたまるか!!という気分にはなります(ひねくれものですいません苦笑)。「メジャースプーン」が孕んでいる厳しさのようなものも希薄で、ちょっと物足りない気分になる人も多いかもしれない。

でも「メジャースプーン」と続けて読むからこその大きな喜びが仕込まれてたりして、ああ、やっぱり辻村さんは「物語」が大好きな人なんだなあと強く思います。「物語」の持つ力を心の底から信じて、まるごと受け入れることができる人。

私にとって生涯ベスト級の小説「灯台守の話」を思い出します。ジャネット・ウィンターソンは「自分自身をつねにフィクションとして語り、読むことができれば、人は自分を押しつぶしにかかるものを変えることができるのです」と書いた。辻村さんもきっとそう思っている人なのでしょう。だからこそ辻村さんの小説は「ひねくれたすえに四角くまとまって」いるのだと思います。

名前探しの放課後(上) (講談社文庫)

名前探しの放課後(上) (講談社文庫)

名前探しの放課後(下) (講談社文庫)

名前探しの放課後(下) (講談社文庫)

灯台守の話 (白水Uブックス175)

灯台守の話 (白水Uブックス175)