わたしを離さないで


外界から隔絶された寄宿学校ヘイルシャムで暮らしていた、ある三人の男女、キャシー、トミー、ルースの物語。
この施設では徹底的な管理が行われ、子供達は「特別な存在」として学んでいる。
キャシーとルースは親友同士。トミーはいじめられていたが、ふとしたきっかけでキャシーと親しくなる。

そして18歳になった彼らは新たな宿舎に移る。だが、ルース(キーラ・ナイトレイ)とトミー(アンドリュー・ガーフィールド)は恋人同士となり、キャシー(キャリー・マリガン)はそんな中で複雑な気分でいた。

しかし、三人にはさらに残酷な運命が待っていた…



観賞日

2011年3月29日






【75点】










巨匠カズオ・イシグロ原作の今映画は、
むやみには台詞に乗せない、文脈を読ませるスタイルのものだ。
(製作総指揮もカズオ・イシグロが担当)


以前レビューした、『ノルウェイの森』とも似ているスタイルだといえる。
だが、大きく違うのは演者のパワーが桁違いだったのではないかと感じる。




















文脈を読ませるスタイルの映画は、つまり演者の表情を読む物語でもある。
そこの表情が映画の大きなファクターとなる。

今回は、主役の三人の役者がそれぞれ素晴らしい演技を見せていた。



キャシー役のキャリー・マリガン(『17歳の肖像』、『プライドと偏見』)、トミー役のアンドリュー・ガーフィールド(『ソーシャル・ネットワーク』、『Dr.パルナサスの鏡』)、ルース役のキーラ・ナイトレイ(『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『つぐない』)という若手実力派の顔ぶれだ。




セリフには無くとも、それぞれの表情が物語を形作っていく。そんな印象だった。

特に、物語の語り手のキャシーを演じたキャリー・マリガンの、なんとも言えない顔はヤバイ。


劇中で何度も出てくるが、何度観てもヤバイ。まさしく複雑な感情が混然一体となって思わず表情になってしまったもの。

何年も介護師をした彼女の表情は、時にとても無機的で恐ろしかった。そこに彼女の垣間見たものが想像される。


これは是非観ていただきたい。









次シリーズのスパイダーマンに大抜擢されたアンドリュー・ガーフィールドも見逃せない。『ソーシャル・ネットワーク』の時おり感情を見せる金持ち友達役とは全く違う印象で、頼りなさげで臆病な青年を演じた。

ホントにコレ、同じ人間が演じてるのか!?レベル。




要所要所の演技がキュッとしていて、主人公の心情表現が重要になるスパイダーマンの物語でも、彼の演技が期待される。

というか超期待。


























劇中の世界観も、ほとんど私達の世界と同じように見えるけれども言いようのない不気味さがある。

ひたすらに私たちも感じるような日常に見えて、必ず感じる異常さ。
矛盾しているが、この映画を観ているとそういう気持ちがふつふつと湧いてくる。








どこかがおかしい。それは無機的に連なっている部屋や建物であったりする。

観ていて必ず違和感を感じるのは、常に人工の建物だった。
そこをよーく注視すると、デザインが明らかに無機的に連なっていた。

明らかにそのあたりの背景が意図的で、建物は物凄く不自然・自然の風景はもちろん自然的という対比がはっきりとなされている。と思う。







私たちがよく知る世界に見える筈なのに、全く違う世界だと印象づけられていく。そ
の妙な感じが絶妙。







時代設定が、微妙に古いのも妙。普通こういったSFものになると、近未来くらいが適当かと思われるが逆にこの古さが妙な感じをさらに引き立たせていた。






















だが、「映画史上最大の秘密」というような宣伝文句は明らかに間違いだっただろう。ぶっちゃけ予告編でほぼ分かる。



しかーし、そこが重要ではない。一番この物語でフューチャーされるのはその真実の中で生きる若者達。真実の部分ではない。


残酷な運命に対して手段を持たない彼らの姿勢にある種イライラを覚える方もいるかもしれないが、自分は共感できた。






それは自分が景気が悪くなり続ける時代を見続けてきたからかもしれないし、わけもわからず「ゆとり」と括られる事に慣れてしまっているかもしれない。自分達の世代はある種「あきらめ」の世代。しかも、年上からも「どうしようもないよね」と念を押されその意識をますます強めていく。


そこが彼らと私達の共通している部分なのだろう。












予告編はコチラから↓
http://www.youtube.com/watch?v=LE9ny5VDt1c