さや侍



脱藩した野見勘十郎(野見隆明)は、娘のたえ(熊田聖亜)を連れてあてのない逃避行を続けていた。彼は刀を捨て、腰には鞘のみを差しており、娘のためは「それでも侍か」といつも反発していた。
やがて懸賞金がかけられた勘十郎は、多幸藩によって捕らわれる。そんな勘十郎に対し多幸藩主は奇抜な試練を与える。
それは、30日以内に笑顔を忘れてしまった若君を笑わせる事が出来れば無罪放免、できなければ切腹というものだった…




観賞日

2011年6月16日








【73点】







大日本人』『しんぼる』を今までに送り出してきた
松本人志監督の最新作は、なんと時代劇。

私自身は、今までの作品のアクの強さは正直キツくて、今回も対して期待はしていなかった。

だが、そんな私の思惑は意外にも外れることとなる。

















しかも主演は全くの素人。
深夜番組「働くおっさん劇場」で強烈なインパクトを残した野見隆明

彼は最初は、映画であること・監督が松本人志であることなどを知らされずに挑まされた。これは映画を撮る手法としては全くの異例だろう。というかドッキリに近い。

なるほど。松本監督の異彩は撮影時からすでに放たれていたわけか。





いいともに出演した松本監督によれば、「野見が調子に乗るから教えなかった」そうです(笑)
実際、パンフレットのインタビューでも相当調子にのってます、このおっさん。

でも面白いから、そこが憎めないとこでもある。











素人の野見の脇を固めるのはしっかりとした役者陣だ。

国村隼やりょう、伊武雅刀などがいたが、今作で目を引くのは娘たえ役の熊田聖亜だ。

凛とした言葉遣いや面持ち…
全く頼りない父親の野見とは正反対にとてつもなくしっかりしている。


そこの対比が今作では面白い。

















ストーリー面で言うと、

今作では松本人志の芸人としての面も、父親としての面も見えた。
















オープニングは、「大日本人」などと同じようにシュールで意味不明な演出。こんなんで大丈夫なのか!?と苦笑いをしていたら、



序盤は段々と野見がひたすらに笑わせようと頑張る姿がシュール。



野見の笑わせる「業」のひとつひとつに様々なネタや笑いどころが仕込まれている点は、「ガキ使」を思わせる。

松本監督はさぞかし裏で、野見をみて声にならない笑いをしながら撮影を観ていた事だろう。このあたりは、単にストーリーとして観てしまうと「・・・」なところではあるが、「松本人志」を意識するだけですごく笑えるものになる。











しかし、中盤以降物語は意外な方向へ進む。


ネタバレはしない主義なのでここでの言及は避けるが、
野見の「頑張り」が笑いよりも感動を与えるようになる。


それは観ている私達にとっても同じで、彼の頑張りが何だか凄まじいものにみえてきてしまうのだ。





そしてラストになぜこの映画が『さや侍』でなくてはならなかったのが分かる。


今までの監督の作品とは全然異なる、わかりやすくて感動よりの作品に仕上がった。この感動の要素は、明らかに監督が子供をもったことに起因するだろう。

父娘の絆もかなり意識されているからだ。














松本人志は普段のバラエティーでも演出などを担当し、他の芸人のエッジを引き立たせてきた。「ガキの使いやあらへんで」が好例だろう。


結局、この映画はストーリー・演技うんぬんよりも、「おもろいことのできるおっさん」を映画に入れ込んでしまった松本監督の演出力に、最も評価すべき点があるのだろう。




そしてそれこそが今作の最も「変で、おもしろおかしい」点に違いない。














予告編はコチラから↓
http://www.youtube.com/watch?v=2ixPxoAKh8c