長野県大鹿村、ここでは300年間村人が歌舞伎をおこなう「村歌舞伎」の伝統が続いてきた。食堂店主の風祭善(原田芳雄)は長年主役を張ってきたが、プライベートでは女房に逃げられ1人暮らしをしていた。
村歌舞伎の本番が迫っているのだが、駆け落ちした妻・貴子(大楠道代)と幼なじみの治(岸辺一徳)が、ひょっこりと村に帰って来た。しかし貴子は認知症を患っているらしく、善の顔を忘れてしまっていた。
その夜、成り行きで善は二人を泊めるが…
観賞日
2011年7月20日
【75点】
今作でも主演を張った原田芳雄さんが先日亡くなったことで、今作は原田さんの遺作となってしまいました。何故この映画を観たくなったのかといえば、そこが大きな理由。
名優の最後となってしまったものを見過ごすわけには行かないと。
結果として、この選択は正解だった。
この映画は、主演・原田芳雄による洗練された映画だったからだ。
今まで主人公の父親役で多く目にしていたので主演のイメージが無かったが、今回その点も改めさせられた。
やっぱりとんでもなく上手い。カッコいい。
特に日常のシーンと歌舞伎のシーンのギャップは必見。
実はこの映画、老練な役者陣による豪華な作品だった。
原田芳雄、大楠道代、岸辺一徳のメインの役者に加えて、石橋蓮司、小野武彦、でんでん、三國連太郎などとんでもない顔ぶれだ。
さらに松たか子、佐藤浩一、瑛太など今や主役を張る役者陣も参加している。
そうなるとやはり演技は安定感が違う。
それぞれ個性豊かで暖かいキャラクターを演じている。
スタジオを使わず、現地の村で2週間と撮影期間が異常に短かったこともあり監督は役者陣のアドリブにもまかせ、自然な雰囲気をつくりあげたそうだ。
特に岸辺一徳の身体の張り方がハンパじゃない。
とっくみあいやら、雨風に吹き飛ばされたりやらコミカルな動きをしていて、笑わずにはいられないほどこの映画の面白どころとして重要な役を担っていた。
騒動記と言いながらもストーリーは、
そこまでドタバタ劇というわけでもなく、わりとゆったり展開する。
しかも凄くスケールの小さな範囲で。
基本は、原田芳雄演ずる「善」と「妻」と「妻と一緒に逃げた友人」の関係性が主軸となってそこから「村歌舞伎」本番までの流れで物語が進行する。
三人はいわゆる簡単な三角関係ではなく、ある意味互いに許しているような関係だ。
そこに人の温かさがある。
善は口が悪いこともあるけれども、人の良さが透けて見えてくる。
そんな”普通”の人々の暖かさにほっこりとさせられる物語だ。
また、
リニアの開通や地デジ化、姓同一性など現代的な話題も多いのが特徴的。
だからこそ日常性を持っているのだろうし、私達と同じ話題を共有している感覚を持てるからスクリーンの中の物語を近くに感じられるのだろう。
鹿猟師もやっていた善が「ディア・イーター」という店を開いているのは面白い。
映画『ディア・ハンター』へのオマージュだろうか?
パンフレットのコメントに原田芳雄さんのこんな言葉があった。
「この映画は規模こそけっして大きくはないけれど、節目になりそうな予感はしています。第三期の始まりと言いますかね(笑)ここからまた、何かが始まればいい。そんなことを考えたりもするんです」
原田さんの中では新たなはじまりだったこの作品が、”終わり”になってしまったのが残念でならない。
もっと進化した原田さんを見ることが出来たのかも知れないのだから。
これが最後なんて・・・
そういった思いもよぎりつつ、エンディングの「太陽の当たる場所/忌野清志郎」の温もりのある歌詞にどことない寂しさを感じるのだった。
↓予告編はこちらから↓
http://www.youtube.com/watch?v=q0S2LosLOzw
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