エンディングノート


2009年、営業マンとしての40年以上にわたるキャリアを終えていた砂田知昭。
第二の人生を歩み始めた途端に健康診断で胃がんが発覚し、すでにステージⅣまで進み治療できないとわかってしまう。

段取り命のサラリーマンだった彼は、自らの死までの段取りとエンディングノートを遺すことを計画する。


そして、そんな父を映像作家の娘は撮り続けるのだった…



観賞日

2011年10月19日




【83点】







監督は、砂田知昭さんの娘、砂田麻美。今回が初監督作品。

プロデューサーには『誰も知らない』『奇跡』などを監督してきた是枝裕和が参加。身内をドキュメンタリーにするものが好きではなかった是枝監督も、今作の出来をみて、思わずプロデューサーとなってしまったらしい。



















今作は、本来なら家族内でのみ完結する映像を、誰にでも観れる、誰にでも共有できるようにしたドキュメンタリーだ。

今月は、『監督失格』というドキュメンタリー作品を観ていたため、どういった点で異なるかという点にすごく興味があったが、両作品は全く異なっていた。



それは『監督失格』が突き放し、鋭く抉るような作品なのに対して、この『エンディングノート』はこちらの心にスッと寄り添ってくる作品である点。

















スッと心に寄り添ってくる理由。

それは別れの経験は誰もが持っているものだからだ。




この映画は、観る人によって様々な立場で共感できるものでもある。

「孫」なら孫の気持ちで、「子供」なら子の気持ちで、「親」なら親の気持ちで、「祖父母」なら祖父母の気持ちで…

どんな人でも、必ず人生の上で通る道。

























このドキュメンタリーが秀逸なのは、「人生の終わり」というテーマである以上重くなるのは避けられないわけだが、砂田知昭さんや家族の、ユーモアあふれる言葉のやり取りをうまく挟み込むことによって単純に"重い"作品になってしまわないように工夫がなされている点。





なんと、泣きながら笑える映画だ。


凄く悲しい、というか心に突き刺さる場面だけれども、余計な(?)ユーモア溢れる一言が挟まっちゃうせいで、笑えてしまう。



「葬式でわかんないことあったら携帯に連絡して」だとか、極限状態にもかかわらずクスリとさせてくれる。
映画館は、グスグスという泣く声が聞こえるのと同時に、笑い声も起こるという不思議であったかい空間を形成。




やはり作品というものの本懐は、心を動かせる点にあるわけで、そう考えるとこの作品のすごさがどれほどのものかがわかる。

















もちろんこの映画が面白いのは、題材だけではなく、様々なところでの工夫がみられるからだ。




ノローグ・ナレーションを娘が、父親の語り口で語る。

まず映画をみるとここで意表を突かれるが、とても皮肉的であったりして面白い。


葬儀場から送り出される父親の心境を娘が語るところも注目だ。

ここでは、送り出す側(娘)と送り出される側が同一の役割をなしているという点に注目できる。言いえて妙なこの状況が、ふたりの意識が、家族への感謝の念などで同一化されているものだとわかる。















監督失格』、『エンディングノート』でにわかにドキュメンタリーが盛り上がったが、どちらも自らの気持ちに整理をつけて"送り出す"という意味では共通しているのだろう。




http://www.youtube.com/watch?v=55Z4XGtIxcQ